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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
33/87

体と心

終皇80年1月1日 大雪

昼なのに真っ暗だ。


気づいたら病室にいた。

どうやらまだ生きているようだ。

天気は窓から、日付はカレンダーから確認した。

僕は病室を歩きまわり、最後は絵里の隣りに座った。

だが、僕の体はベッドの上にある。

焦点の定まらない目で天井を見つめながら。

まるで廃人だ。

僕は終始、他人事のように見つめている。


お母さんもここに来ているようだ。

2人は僕の体に何かを話しかけているが、よく聞こえない。

口を読むことが出来ない僕には何を言っているのか知る術はない。


なぜこうなったのか思い出せない。

思い出すなという感情が強い。

だけど、思い出さないといけないという感情もある。

どっちが正しいのだろう?

答えは出そうにない。


-------------


終皇80年1月3日 雪

昨日よりは明るい。


今日は健十郎も来ていた。

代わりにお母さんは居なかった。

健十郎は僕の顔を覗き込み、青ざめた顔をしている。

その後、絵里と何か話をしていた。


最初は絵里が状況説明しているように見えたが、途中から話し合いになったようだ。

最後の方は健十郎が激怒していた。

そんな様子を、暇なのでアテレコしてみた。


「こちらに見えますのが、卍山下(まんざんか)飛鳥にございます。

理由はわかりませんが、現在は寝たきりとなっております。

目は開いていますが、何処を見ているのかわかりません。

面白いですね。口も半開きで、まさに廃人。

手を握ると温もりを感じます。

しかし、握り返されることはなく、手を離すと力なくその手は落ちます」

淡々と喋り続ける。

「眠っていた時間も不明。

こうなった原因も不明。

元に戻るかも不明。

為す術がありません。

親友のあなたはどうしますか?」

「どうするって何をだよ」

「元に戻る方法に決まってるじゃない」

「そんなのがあるのか?」

「わからないから聞いたんでしょ」

「そりゃあ・・・」

「助けるのよね?」

「当たり前だろ。俺の親友なんだからな」

おー、嬉しい限りである(棒)。

「何言ってるの。私の親友よ。将来結ばれるんだから」

「何をー!?俺の親友で、死ぬまで俺と一緒にきまってるだろ!」

おやおや?ホモだったんでしょうか。


・・・。

飽きてきた。


-------------


終皇80年1月5日 雨

非常に冷たそうな雨だ。


そろそろ学校が始まるなあ・・・。


今日は自分の体に触れてみた。

触れてみたが、すり抜けたため触れてはいない。

そのまま体の乗るベッドで仰向けになった。

自分が2重になるように横になるが、一体化することはなく、何を見ているのかすら分からない。


今度は(うつぶ)せになり、自分の顔を覗きこむ。

やはり焦点は合っていない。

口と鼻からチューブが差し込まれている。

痛くないのだろうか。

半開きの口から僅かに歯と舌が見えた。

そういえば歯磨きしてないな。

臭そうだな。

体は拭いてもらっているが。

丁寧に股間も拭いてくれている。

看護師は誰も見ていないのをいいことに、股間から飛び出す突起物を()んでいる。

何をしているんだか・・・。

まぁ僕には関係ないことだけど。


-------------


終皇80年1月10日 曇

あの雲は雨雲か?雪雲か?


今日は裕さんが来ていた。

僕を見ると泣き出し、体に抱きついた。

裕さんの方がそっち系だったのだろうか。

冗談だ。流石にそれはないということは分かっている。

今日は裕さんが僕の体を拭いてくれた。

あの看護師と違い、裕さんは全身(くま)無く拭いてくれたが、股間を()んだりはしなかった。

代わりに腕やら脚やらを()んでいた。

筋肉でも()(ほぐ)しているんだろうか?


-------------


終皇80年1月16日 晴れ

風が強い。


今日は退院だった。

車椅子に乗せられ自宅に帰る。

僕はというと、車の屋根の上に乗っている。

なんとも気持ちいい。

風は感じないのだが。


家に着くとなんとなく本棚を見に行った。

何かあったはずだが思い出せない。

今はない。

それだけは分かった。

気にはなったが、思い出せないのだから重要なことではないのかもしれない。


今日のご飯は・・・残念ながら点滴だった。

まぁ仕方ないだろう。

明日は何か食べさせてもらえると良いね!


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