雪だるまを作ったよ
終皇79年12月10日 曇
本格的に寒くなった。あの雲は雪雲だろうか?
現在、柔道場に向かって移動中だ。
「うぅー寒っ。この寒い中、柔道場で体育とかありえねーだろ。しかも、柔道場まで徒歩だし」
「無駄に遠いよね。学校の敷地内にあるといいのにね」
「飛鳥は体力あるんだから、問題ないでしょ」
「休み時間を割いて移動するっていうのが嫌なんだよね」
「せめて体育館にマット敷くとかしてほしいな」
「贅沢言わないの」
「絵里は寒くないの?雪も積もって気温も低いのに、柔道着で移動なんだよ?」
「体を動かせば大丈夫でしょ」
「気合あるねー」
「気合だけだろ」
「一言多い」
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僕たちは市民会館に来ている。
柔道場だけ確保できなかったためだ。
「皆集まったかー」
「「「はーい」」」
出席確認も含めて、点呼だけとった。
足が悴むどころか、感覚が無くなるほど冷たいフローリング。
なぜ畳を敷き詰めないのか。理解に苦しむ。
高いクッション性、多彩なカラー対応、抗菌機能付きの衛生的な畳!
これで勝つるぜ「勝」ポピュラータイプのお求めは、ジパング産機まで!
そんなCMを思い出した。
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毎日、午後全てを使って体育は行われている。
体育の授業はまず、伸脚などのストレッチと、体側などの第一と第二のラジオ体操から始まる。
次にするのは筋トレだが、小6にもなれば腹筋だけで500回にのぼる。
柔道では、わき締めや逆エビなどの準備運動も加わる。
最後にかかり練習、約束練習、寝技練習、自由練習の順に行う。
因みに男女は別れて行う。
「はぁっ、はぁっ。飛鳥っ、腹筋っ、早すぎっ、だろっ!」
「ぜっ、んっ、ぜっ、んっ!」
そう、いつも通り筋トレまで一番最初に終わるのだ。
あくまでクラスでは・・・だが。
「健十郎、喋ってる余裕が有るなら速度を上げろよー」
「はいっ!」
「飛鳥も、もう終わったならもっとやっても良いんだぞ」
「そこまでする意味が見つかりません!」
「現状で満足するなってことだ。お前のお母さんの様に上を目指せ」
「そういえばずっと聞きたいと思ってたんだけど、先生はお母さんとどういう関係なの?」
「飛鳥の先生と、飛鳥の母親って関係だな」
「そういうことじゃなくって・・・」
「そんなに知りたいのなら、放課後、職員室まで来れば教えてやるぞ」
「ホント!?」
「ついでに面談もしよう」
「あっ・・・放課後は用事あるんだった。やっぱりやめておくね!」
はははは・・・と乾いた笑い声が聞こえた。
おっと、自分の声だったようだ。
自分の体も十分ムキムキなのだが、年齢のせいだろうか。
いや、身長のせいが一番なのだろう・・・。
裕さんのようなガッシリした体躯にはまだまだ遠そうだ。
現時点ではこれ以上望めるとは到底思えない。
だから現状維持になっているのだが。
その後、本格的な柔道練習を終え、帰宅する・・・。
いや、まだ帰宅ではないな。
例の如く、裕さんたちに会いに行くのだった。
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今日は久々に部屋の中が暗かった。
なぜなら誰も居なかったからだ。
「あれ?珍しいね。哲さんすら居ないけど」
「まさか・・・」
「まさかってなんだ?心当たりでもあるのか?」
「い、いや。別になにもないよ?ね!」
「そうね」
「・・・?ならいいが・・・」
哲さんの部屋を覗くと散らかっていた。
掃除はしているのだろうか・・・。
「この部屋汚いけど、掃除でもしておく?」
「そうね。ハウスダストでアレルギー性鼻炎になっても大変だし」
「なんだそりゃ」
「鼻がムズムズして、鼻水が止まらなくなるやつだよ」
「あー。花粉症みたいなやつか」
「そうそう。まぁ花粉症酷い人はハウスダストもダメだったりするけどね」
「へー」
「コンビニも結構酷くってね。
見た目は綺麗なんだけど、1日中空調機かかってるから、常に埃が舞ってるんだよね。
アレルギーならコンビニではマスク必須だよ!」
「そんな埃っぽい店が悪いだろ」
「全部の店かどうか知らないけど、近所にあるコンビニはそうだっておばさんが言ってたよ」
「どのおばさんだよ」
「健十郎の、ね」
「俺の母さんかよ」
「あんなに繊細な人から、こんなにも図太くて鈍感なのが生まれてくるなんて・・・。おばさん可哀想」
「おまっ・・・」
「まぁまぁ」
苦笑いしつつ宥めた。
ドアのほうが騒がしい。
誰か帰ってきたようだ。
「あれ?もう来ちゃってた?」
「ついさっき来たところです!」
どうやら2人で出かけていたようだ。
「裕兄、哲を外に出して大丈夫なのか?」
「平気だよ。公園にちょっと行ってただけだから」
「そういう問題じゃないからな?」
「誰かに声かけられたりしなかったんだよね?」
「大丈夫だったよ。そもそも公園には誰も居なかったしね」
「何話してるのー?」
「俺と哲が公園で何してたのかって話だよ」
「んーっとね、僕と裕兄は、雪だるま作ってたんだ!」
「大丈夫なんじゃない?そこまで心配する必要はないと思う」
「絵里は黙ってろ。大体さ」
「それ以上やるとまた哲さんが・・・」
「健十郎はもうちょっと空気を読むべき」
「・・・」
健十郎は黙ってしまった。
「ところで、哲さんの部屋が散らかってるけど、掃除したほうが良いと思うけど」
「そうだね。俺も暇だしそうするよ」
「僕も手伝うからね!」
「私も」
「凄い助かるよ!」
「俺は・・・」
「あれだったら、健十郎は帰ってもいいよ?」
「確かに、3人居れば余裕だもんね」
「いや、手伝うよ」
「ふーん」
「何だよ」
「何でもない」
「仲いいね」
「「良くない」」
息ぴったりで、僕はつい笑ってしまった。




