分からない意図
その日、寝る前に日記を少し読んでみた。
ぱっと見た感じ、日記を逸脱しない範囲でのメモ帳といった所だろうか。
ハロウィンの付箋があったので、それを読んでみることにした。
『表のハロウィン』
10/31に開催される収穫祭。
仮装し、様々な家にお菓子を求めて訪問する。
様々なハロウィンの飾り付けをして祝う。
南瓜を刳り貫いたジャック・オ・ランタンが有名。
危ないことをしないように、教師が生徒の家を注意して回る事もある。
うん、僕でも知っている普通の情報だ。
『ハロウィンの起源』
遠方の地で、10/31の夜に行われた儀式。
悪魔を追い出す宗教的な意味合いを持ち、追い払うべく、焚べた火の周りを踊る。
これは、10/31の夜は死者の霊が親族を訪ねたり、悪霊が降りてきて作物を荒らすと信じられていたためである。
結果的に秋の収穫物を守ることになるため、収穫祭の意味も徐々に芽生える。
収穫祭となってからは、篝火を焚いて、作物と動物の犠牲を火に焚べるようになる。
『ジャック・オ・ランタンの伝説』
遠方の地で生まれた伝説で、提灯のジャックという意味。
酒好きで碌でなしのジャックという男の元に、ハロウィンの夜に悪魔が魂を取りに来る。
ジャックは上手く騙し、魂を取らないことを約束させ、追い払うことに成功する。
10年後も再びその悪魔がやってくるが、またしても追い払うことに成功する。
ジャックはやがて寿命を迎えこの世を旅立つが、生前の行いが悪く、天国には入れません。
地獄に向かうものの、そこには騙した悪魔が居たため、魂を取らない約束をしているからという理由で地獄にも入れません。
どちらにも入れないジャックは、落ちていた蕪を刳り貫いて、悪魔に頼んでその中に火を灯し、今日も彷徨い歩く。
【考察】
蕪は白いお化け。
南瓜は供物。
刳り貫いた顔は退魔。
篝火は浄化。
かぼちゃのお化けは浄化した供物で、退魔に用いる物。
『裏のハロウィン』
以下は推測となる。
仮装はナマハゲになりきる行為で、お菓子を貰うという理由で、訪問という名の監査を行う。
ハロウィンのムードそのものが誤魔化しで、南瓜は脱線者を指す。
南瓜を刳り貫き火を灯す行為は、脱線者から悪性腫瘍を取り除き、浄化し処分することを意味する。
・・・。
と、色々書かれていた。
読んでいたら眠くなり、いつの間にか寝ていた。
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終皇79年12月1日 雪
パラパラとした初雪だった。
あれから何事も無く、神隠しは起こらなかった。
暫く来てなかったが、今日は哲さんたちに会いに来た。
「健十郎はついて来なくてよかったんだよ?」
「前は嫌がってたくせに」
「そういやそんなこともあったね」
「いいだろ?別に」
「まぁいいけど」
「そうだね」
健も神隠しに遭う原因を作るかもしれないから、来ないことを勧めたいのだが・・・。
理由を言うわけにもいかないので諦めた。
今日は百合さんが来ていた。
「「こんにちは」」
「あら久しぶりね。健も来たのね・・・」
「悪いか?」
「別にいいけど、先に奥に行ってて頂戴」
「へーい」
流石百合さん!
健が見えなくなってから話し始める。
「それじゃあ、公園に行くってことでいいんだよね?」
「ここで話しましょう」
そう言うと、玄関を閉めただけに留まった。
「盗聴器なんだけど、先週外されてたの」
「見つけるのは難しいから残ってるかもしれないよ?」
「盗聴器を見つける機器を借りてきたから間違いないわ」
「それ以前に神隠し起こらなかったね」
「そう、そこが疑問なのよね。意図がさっぱりわからないの」
「問題なしって判断されたとか?」
「問題の基準がわからないよ・・・」
「その可能性は低いと思うけど、無くはないわね。
そういえば、前渡した私の日記はどうしてる?」
「今は本棚の後ろに隠してあるよ。木を隠すなら森ってことで!」
「どれくらい読んだかしら」
「少し読んだけど、読んでると眠くなるから全然進んでないかな」
「飛鳥は借りた本をなかなか返さないタイプかも」
「そんなこと無いよ!そもそも借りないもん」
「そこ自慢するところじゃないけど」
「まぁこの話は緊急性が無くなったから、今日の所はこの辺にしましょうか。
中に入って哲の相手でもしてくれると助かるわ」
「はーい」
「お邪魔しまーす」
哲さんと健十郎は元気に取っ組み合いをしていた。
相当仲良くなったようだ。
裕さんはというと、買い出しに行っているらしい。
百合さんがお茶を出してくれた。
喉が渇いていたので、一気に飲み干してしまった。
「そろそろクリスマスだよね」
「そうねぇ」
「今回はちゃんと分かったんだ」
「当たり前じゃん。雪降ってるから直ぐに連想できたよ」
「またここでする?」
「してもいいの?」
「いいわよ。でも知ってる人でも無闇に上げちゃダメよ」
「同じ失敗はしないよ」
「最初の失敗で終了する事もあるから」
「絵里、きつい・・・」
「ホントの事だし」
「まぁ確かに事実ではあるわね」
「前回も大金使っちゃったけど、今回は節約したほうが良いよね?」
「大丈夫よ。家、お金だけはあるから。
ただ、兄弟の繋がりは薄い気がするわね。数名ずつグループができちゃってるから」
「人数が多いと大変なんですね」
「お金がありすぎたせいかもよ?」
「ふふっ。それは否定出来ないわね」
百合さんと僕は微笑んだが、絵里は苦笑いしているようだった。




