突然の来訪者
僕が出るよ、と玄関まで来た。
「はーい」
ドアを開けると・・・仮装した大人が居た。
「お菓子ですか?」
「おお、飛鳥か」
そう言うと、その大人は被り物を脱いだ。
「あっ先生!?」
「中に入ってもいいか?」
「良いですよ」
中へ案内した。
「広い部屋だな」
「健十郎の家は金持ちだからね」
「母親は出産師で、父親はエリートだからな」
「先生が仮装するなんてびっくりしたよ。全然そんな印象なかったもん」
「まぁ、気分転換ってやつだよ。たまにはこういうのもいいだろ?」
「意外と似合ってる!」
「だろー?」
あはははは、と笑いながらリビングに来た。
「飛鳥くん、その人誰?」
「僕の担任の先生だよ」
「はじめまして。健十郎くんの担任もしている、鷲獄文博です」
「俺は裕六郎。弟がお世話になってます」
「畏まらなくていいよ。
ところで楽しそうだね。少し混ぜてもらってもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
「そっちは?」
「こっちは哲五郎です」
「哲五郎くん、こんにちは。おじさんは鷲獄文博。
文博さんって呼んでくれると嬉しいな」
「おじさん、こんにちは!」
「元気がいいねー」
「当然!裕兄が守ってくれるから!健兄もいっぱい遊んでくれるんだ!」
「幸せそうだね」
「うん、とっても幸せ!」
「実家の方でもパーティーしてるけど、なんでこっちでしたんだ?」
「えっ、そうなの?最近ずっとこっちに居るからわかんなかったよ」
「そもそもパーティーは今朝決めたことだし」
「私は勘違いして、昨日から準備しちゃったのよね。
朝からここにくるっていうからハロウィンしようってことかと思ったのに」
「まぁ飛鳥は思ってもないのに、思ってるかのような行動することがあるからな」
「先生まで・・・」
「こういう大きい部屋に来ることも滅多にないし、少し見て回ってもいいか?」
「ご自由にどうぞ」
「ありがとう。ある程度見て回ったらそのまま帰るから、一言かけていくね」
「「はーい」」
仮装用の被り物を先生がテーブルに置きっぱなしにしてあった。
その被り物は、ネズミーマウスなのだ。
片耳が取れかかり、縫合糸で辛うじて繋がっているような状態だ。
右目は飛び出し、辛うじて視神経で繋がり、ぶら下がっている。
左目はアヘ顔の如く、斜め上を見つめている。
口は不敵な笑みを浮かべている。
流石にこれをそのままには出来ないので、取り敢えず右目を眼窩に収めた。
これが気に入ったのか、哲さんが僕から奪い取り、ハロウィンのぬいぐるみと一緒に抱いている。
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そうこうしている内に先生が戻ってきた。
「それでは先生はそろそろ帰ろうと思う。あまり騒ぐんじゃないぞ?」
「「はーい」」
先生を玄関まで送り、戻ってきたのも束の間。
玄関から物音がした。
先生かな?
そう重い玄関まで行くと、百合さんが靴を脱いでいるところだった。
「百合さんこんばんは」
「さっき男の人と入れ違ったんだけど、誰だったの?」
「僕の担任の先生だよ」
「!?」
ズドン。
ズドンは流石に失礼か。
歩いていた百合さんが、ツルッと滑ったということにしておこう。
立ち上がると早足でリビングに向かい、
「裕、ちょっと来なさい」
「今は無理だよ。哲と遊んでるから」
「いいから」
そう言いながら引っ張ろうとする。
「痛いなー。なんなんだよ百合姉」
「やめて!裕兄を虐めないで!」
「虐めてないわよ・・・。もう良いわ。飛鳥くん、ついて来て」
「いいけど・・・」
「私も行ったほうが良い?」
「どっちでも良いわ」
「じゃあついて行く」
「あーでも・・・先に玄関に行っててくれるかしら」
そう言い残して、部屋を物色し始めた。
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暫く玄関の外で待っていると、少し歩こうと言われた。
無言で公園まで来てしまった・・・。
夜の公園には誰も居ないだろうと思ったが、ここは都会だ。
ハロウィンのどんちゃん騒ぎが行われていた。
花火をしている人までいるわけで、ひそひそ話をするには良いかもしれない。
「ここで良いかしら」
「話ってなんですか?」
ブランコに腰掛け、鎖を腕で挟みながら腕を組み少し考え込む。
「推測になるけど、近いうちに哲が消えるわ」
「それって神隠しに遭うってこと?」
「そうよ」
そう言うと、顔を上げてこっちを見る。
「迂闊だったわ。まさか健十郎の担任の方が来るなんて・・・」
「来たら問題でもあるんですか?」
「大有りよ。さっき確認したけど、盗聴器があったわ。それも非常に見つかりにくい所に。
あまりの見つけにくさだったから、1つしか見つけられなかったわ。でも他にもまだあるはずよ」
「それを先生が設置したってこと?」
「他に誰が居るっていうのよ。その人、家の中ウロウロしてなかった?」
「ウロウロというか、大きな家は珍しいから、見て回りたいって言ってたけど」
「じゃあ決まりね」
「でも何も持ってなかったよ?」
「本当に?服の中とかは?」
「無いと思うよ」
「仮装してたから、余計気付かなかったのかも」
「それよ。そもそもハロウィンの成り立ちを考えればこういう事も起こり得たのよ・・・。
すべて私の不注意が原因ね。哲は確実として、どこまで被害が広がるかが最も深刻な問題かしら」
「広がるってどういうこと?」
「哲はもう社会復帰は難しいでしょう。出来たとしても病気が再発しないとも限らないし。
哲が居なくなったとして、裕は哲に依存状態にあるから、裕も連鎖的に消えるわね。
この話は健には絶対死ないで。健も道連れになる可能性があるわ」
「僕達は大丈夫なのかな・・・」
「わからないわ。私の不正行為がバレてたら私も居なくなることになるわね。
ただ、絵里ちゃんは大丈夫だと思うわ。賢いし良い子だもの」
「・・・どうも」
「とりあえずこの本を2人に預かっててもらうわ」
「なんですか?これ」
「ただの日記帳よ」
「日記かー。僕はつけてないな」
「飛鳥が日記つけてたら雹が降る」
「そんな風に見てたの!?」
「とりあえず、あの家では変な会話しないようにね。
私は家を調べるから、この辺で。それじゃ気を付けて帰るのよ」
「その日記に何書いてあるの?」
「わかんない。帰って読んでみるよ」
「そう。深入りしないほうが良いと思うけど・・・」
「」
僕が言おうとしたら、口に手を当てられ遮られた。
「言いたいことはわかるから。それじゃあまた明日」
「ばいばい」
日記を携え、家へと帰った。




