ノンレム睡眠、再び
終皇79年10月15日 雨
2日連続だったためかなりジメジメしている。
放課後には雨は弱まってきた。
昨日の事があるので、終礼が終わると直ぐに学校の玄関までやってきた。
下駄箱から靴を取り出し履き替えていると、突然声をかけられた。
「何かあった?」
「えっ?」
「健十郎が飛鳥にも距離取るなんて珍しいから」
「あぁ。実は・・・」
帰り道、傘を差しながら僕は昨日の事を話した。
絵里は、事情がわからないので敢えて今日は僕に話しかけなかったそうだ。
「それで、今日も飛鳥は行くんだよね?」
「そのつもりだよ」
「じゃあ私も行く」
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健十郎が居ないので、久々にチャイムを鳴らす必要があった。
「あら、飛鳥くんに・・・絵里?ちゃんだっけ。こんにちは」
「お邪魔してもいいですか?」
「どうぞ上がって」
「「お邪魔しまーす」」
「健十郎は居ないのね」
「まぁ昨日の今日ですし・・・」
哲さんの部屋に向かう途中、台所がチラッと見えたのだが・・・
割れた物が散乱したままだった。
「あれ、後で片付けた方が良いよね?」
「そうね。やっておくわ」
「僕も手伝うよ!」
「私も手伝うから」
「ありがとう」
「で、様子はどう?」
「非常に良くないわね。
また記憶の削除のためというか、眠りについてるわ」
百合さんはノックもせずに閉められていたドアを開けて中へ入っていった。
「なんか暗くない?」
「電気付けるわ」
明るくなった部屋を見渡すと、ベッドで寝ている哲さんと、そのベッドに倒れ込む裕さんが居た。
「様子は?」
「・・・見ての通りさ。まだ眠ってるんだ」
「そこは心配しなくていいと思うわよ」
「何を根拠に言ってるんだよ」
裕さんは激情に駆られ、百合さんの胸倉を掴む。
「落ち着いて。眠っている事自体は心配いらないって言ったのよ。
そのうち起きるわ」
「だから、どこにそんな根拠が」
「問題は、起きた時に更に記憶が無くなっているかもってことよ」
「・・・」
裕さんは声も出さず、呆然と立ちつくす。
「何の記憶が無くなると思います?」
「そうね。少なくとも昨日の記憶は無くなると考えてるわ。
最悪の場合、生死に関する教育が始まる前、つまり小学生未満になるわ」
「私事情詳しくないけど、学校行って無くて大丈夫なんですか?」
「心配要らないわ。
哲は休学届出してあるし、裕はこれでも結構優秀だから学年はちゃんと上がるはずよ。
まぁ私ほどではないんだけどね」
「は、はぁ・・・」
なんか地味に自慢してきた。
相当神経が図太そうだ。
トラブルの元になりそうなので、これは心に閉まっておこう。
「う、うぅ」
裕さんは
「とりあえず今日はそっとしておきましょう」
「「そうだね(ですね)」」
真っ暗だとあれなので、常夜灯だけ点けて部屋を後にする。
「うわーひっどいね」
「気をつけて。大きな破片は見えるから良いけど、小さい破片は見えないから。
基本的にガラスが割れたら、最低10mは破片があるらしいわ。
だからこの部屋全体に破片があると思って頂戴」
「任せて!」
「結構割れてるけど、替えの食器はあるんですか?」
「また家から持ってくるわ。
安全のために、木製で統一しないといけないわね」
「確かに木なら安全だね」
「プラスチック製は?」
「それでもいいかしらね。まぁガラスと陶器は無しかな」
大きな破片と弱い腐臭を放ち始めている有機物を回収し、塵取りと箒で丁寧に破片を片付けた。
念の為に掃除機をかけ、更に水拭きもした。
「ほんとうに助かったわ」
「どういたしまして!でも結構時間かかったね」
「当然でしょ。あそこまで丁寧に掃除したんだから」
「もう遅いからそろそろ帰っても大丈夫よ?
後は一人でもできるから」
「そうですか?」
「あ、そうだ。明日、健十郎連れて来た方がいい?」
「それが良いと思う」
「来るとは思えないわね」
「引き摺ってでも連れて来ますよ」
「ちょっと絵里・・・怖いよ?」
「大丈夫。怪我させるわけじゃないから」
「怪我させたら、それこそ・・・。まぁいっか」
「もし連れて来れるようなら連れて来て。
無理に連れて来ても拗れるだけだから」
「はーい。じゃあまた明日」
「お疲れ様」
「では私もこの辺で」
奥の部屋から呻き声というかなんというか、声?いや、音と言ったほうが正確か。
何か聞こえてきていた。
気にはなったが、玄関に向かい鍵をかけ外へ出た。
鍵がないと不便だろうと百合さんが気を利かせて合鍵を貸してくれたのだ。
「ねぇ絵里。現存する古本屋って聞いたことある?」
「あるわよ。でもそれ都市伝説でしょ?
前の時代の殆どの本は禁書指定で廃棄されたの。
そんなの持ってる所知られたら死刑が待ってるわよ。
何、変なことに首突っ込んでるの?」
「いやいや。違うって」
「もしあるとしたらどういうところにあるのかなーって。単なる興味本位だよ」
「普通に考えたら地下じゃない?あとは、隠し部屋や開かずの間とか・・・
図書館が隠し持ってるって線も無くはないと思う。ただ、絶望的ね。
直ぐ分かるような所にはもう存在するわけ無いから・・・」
「隠し部屋・・・開かずの間・・・。あ、また明日!」
「また明日」
なんか冒険みたいで面白そうだね!そう思いながら絵里と別れた。




