表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
23/87

解離性健忘

「そろそろ御飯準備しないとね!」

「健。ちゃんと面倒見ておいてね」

「チッ。ほら、哲行くぞ」

「う、うん」

あからさまな態度に哲さんはかなり萎縮しているように思う。


「じゃー始めるわね」

「何の話するんだっけ?」

「哲さんの話だと思うよ」

「あーそうだったね」

「まずは現状について話すわね。

前回、熱心な宗教信者(スクリュープロシティ)について話したんだけど、原因はそれで間違いないわ。

そこから心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症して、現在は解離性健忘に陥ってるの」

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)と解離性健忘って?」

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)は命の安全が脅かされた時に、強い精神的衝撃を受けることが原因なの。

今回の場合はお化け屋敷が発端になってるわね。

トラウマのせいで生活に支障が出ている状態よ。

ずーっと寝てたのはこの段階だと思うわ」

「確かに、拒絶するかのように寝てたね。

ずっと手を握っていたことは何か関係あるの?」

「推測になるけど、防衛の一環だと思うわ。

裕と哲は小さい頃から仲が良かったじゃない?

多分哲の中では裕が一番の存在だったんだと思うわ」

「そうだったんだ・・・。

俺たちは沢山バカやってきたけど、てっきりその程度なのかと思ってたよ。

なんだか嬉しいよ!」

「2人共凄い仲良さそうだったもんね」

相当嬉しいのか、裕さんはニヤニヤしている。

「解離性健忘はトラウマやストレスによって、自分にとって重要な情報すらも思い出せなくなる状態のことよ。

酷い場合は記憶をすべて忘れる場合もあるのよね。

哲はそれにかなり近いわ」

「確かに辻褄はあってるねー」

「前から気になってるんだけど、それって何処(どこ)で仕入れてる情報なの?」

「とある古本屋よ」

「古本屋とかもう存在しないよ?」

「密かにやってるのよ。場所は言えないわ。

だから、あんたたちも余計なこと言わないでね」

「「はーい」」


「次は事の発端となったマスターモードについてよ。

ジパングには沢山の施設があるんだけど、主に2つの目的が有ると思われるわ。

1つは言わずと知れた、満了者(ターミナス)や自殺志願者の処理ね。

もう一つは、未成年の選別よ」

「何を選別するの?そもそも意図がまるでわからない」

「多分、思想じゃないかな」

「あー」

「その通りよ。国是に反する人間の淘汰を目的にしていると思えるわね。

世の中の人間は、幾つかの人間に分けられるの。

バカで気づかないからこそ社会に溶け込める人。

頭が良いから気付くんだけど、頭の良さ故に社会に溶けむ人。

頭が良いから気付くんだけど、それ故に是正しようとして排除される人。

バカだけど気づいてしまって、それ故に思想がバレて排除される人。

主にこの4種類が居るわ」

「つまり、賢者と、勇者と、単なる馬鹿と、二重馬鹿が居るってことだよね?」

「まぁそういうことになるわね。よくわかんないけど。

で、判別は簡単で、強めの刺激を与えても平常通りにできるかどうかで決まるわ。

文献によると、更に、刺激を受けた時の年齢によっても変化するのよね。

若い内に過度の刺激を受けると人格崩壊とかいろいろ障害が出るの。

まずはこれらの除去に用いられているわ。

年齢が上がると崩壊は起こしにくいけど、反抗的になるケースが有るのよね。

大昔の大学生が抗議運動をしたという記録があったわ」

「その運動は何を目的にしてるの?」

「主に、何らかの方針に抵抗するような内容だったわね

だから、一貫して不適合者の排除、つまり選別を行っていると考えられるの」

「となると、その刺激に触れないようにすればこうはならなかったんだよね?」

「そうだけど、そんな生易しくないわ。

ジパング成立時に、人生設計の国営化という法案があったわ。

すべての国民の将来だけでなく、思想すらも管理するというものよ。

洗脳が用いられたと考えているわ」

「洗脳って単語は聞いたこと無いな・・・」

「洗脳は、外部から無理やり思想を変える技術のことよ」

「そんなことできるの?」

「催眠や政治的宣伝(プロパガンダ)によって比較的容易にできるわ

これが国語をはじめ、人体解剖、生死観といった死に関することに結び付くの。

幼少の頃から当たり前だと思うことで、その本質が見えなくなるのよ。

勿論見えた所で、排除されるわけだから加速度的に洗脳が進むわけね。

健はその傾向が出てるわ。

本心を殺す方向でね。

将来、学生時代の記憶を思い出せなくなるかもしれないわね」

「・・・」

「怖いね」

「後は捕捉なんだけど、」


ガシャン。遠くで皿が割れた様な音がした。

『あーもう、イライラすんなぁ』

『ご、ごめんなさい』

僕も2人についていった。


「ちょっと何やってるの?」

「こいつが鈍間(のろま)だから皿の用意だけやらせたんだけど、割りやがってさ」

「だとしても怒鳴る必要ないでしょ」

「哲くん、こっちにおいで」

「ごめん、裕兄・・・」

哲さんは半泣きになっていた。

「いいから、いいから。

飛鳥くん。哲の面倒見ててくれる?」

「いいよ、まかせて。じゃー(てっ)ちゃんいこうか」

「うん!」

再びトランプを取り出して、今度は七並べをすることにした。


『だから、俺は悪くねーよ』

『健、また哲が寝たきりになったらどうするんだ?

お前が世話するんだろうね?』

『今も十分世話してるし』

『ちょっと2人共・・・』

『それに、寝てたほうが静かで楽だろ』

『お前なぁ、ぶっ殺す』

ガシャーン。

更に何かが割れたようだ。


「眠くなってきちゃった・・・」

「じゃあ寝よっか。お部屋わかる?」

「うん」

「一人で大丈夫?」

「うん」

「また明日も来るから、遊ぼうね!おやすみ」

「うん」


「哲さん寝ちゃったよ。冗談抜きで起きないかもしれないよ」

「・・・」

「起きなかったら健のせいだからな。

絶対許さないよ」

「2人ともやめなさい」

「俺は帰る。おやすみ」

健十郎はそのまま玄関から出て行ってしまった。

頬には殴られた跡があり、口から少し血が出ていた。

「裕もいいかげんにしなさい」

「・・・」

裕さんの本性が(あらわ)になった瞬間だったように思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ