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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
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終業式

終皇79年7月19日 快晴

既に日差しが強くなってきた。


「ごちそうさま!」

食器を片付け始める。

「飛鳥、ちゃんと持ち物は持って返ってくるのよ?」

「もちろん! 僕、もう6年生だよ?」

「昨日、机においたままだったけど、連絡帳は持った?」

「あるよ、ほら!」

ランドセルから取り出してみせた。


「そう言えば、夏季休学許可証が要るって聞いてないけど、去年はあったわよね?」

「あっ、忘れてた・・・」

『『あーすーかくーん』』

玄関の方から声が聞こえる。健十郎と絵里の迎えが来たようだ。

絵里も健十郎もボクより学校が近いのに、毎日わざわざ迎えに来る。


「げっ、どうしよう。もう来ちゃったよ・・・」

「はい、念の為に書いておいたわよ」

「さっすがー!お母さん大好き!!」

ランドセルにそれを仕舞う。


ドタドタドタドタ・・・と、足音が元気よく遠ざかる。

『おまたせー』

『おっそ』

『どうせまたいつもの忘れ物でしょ』

まだまだ可愛らしいものね。母は微笑みながら亡き夫の遺影を眺める。


学校へ向けて歩き始めるが話題はもう放課後のことだ。

「今日は午前中で終わるけど、午後から何する?」

「悪ぃ。俺、今日から旅行に出かけるんだよな」

「そっか。健十郎のところは見送りの日が近いんだったね……」

「じゃー仕方ないね。って言っても健十郎のとこは兄弟多すぎて毎年何かやってるよなー」

「今時20人兄弟とか珍しくもないぞ? お前のボッチ家庭が珍しすぎる位じゃね?」

そう、健十郎の家は大家族なのだ。


「絵里はどうする?」

「うーん流石に2人じゃあね。大輝君とか誘ってみる?」

倉梯(くらはし)のとこ遊びに行くと全員から弄られるだけだよー」

「飛鳥はいつもそうだよね。私はそこまでじゃないから平気だけど」

「人事だと思って・・・」

「いっそ飛鳥ん家行けば?」

「いやー流石に2人であんな広い家で居てもなー」

「私別に構わないよ?」

「えっ?」

気まずい間ができてしまった・・・。


「えって何よ。不満なわけ?」

「違うって、予想外だっただけ」

「ふーん」

「お、飛鳥って実は絵里のこと好きだったりぃ?」

健十郎がいやみったらしく不敵な笑みでそういった。


「なわけ無いだろ、ぶっ飛ばすよ」

かなり激情に流された気がする。理由はよく分からなかった。

「即答とか・・・」

絵里は少し寂しそうだった。

「おいおい、(たま)にブチ切れるよな、飛鳥って。そんなことしたらナマハゲに連れ去られるぞ?」

「ホントにするわけ無いじゃん。でもカチンと来たのは確か」

プンスカプンスカと歩く。

「いい加減にして。健十郎が何も考えずに変な事言うからでしょ? ほんとデリカシーないよね」

絵里もいつもになく怒ってるように思う。


「俺はー、デリカシー?が無くて、飛鳥は注意が無い。絵里は何だろ・・・。あ、女の子らしさがないよな!」

「はぁー!?信じらんない。飛鳥、このバカは置いてさっさと行こ」

「僕も、流石に今のは言いすぎだと思うよ」

得体の知れない怒りは冷めないが、絵里の話に逸れたせいで正常になった。

「わ、悪ぃ。冗談だって」

流石に言い過ぎたと思ったのだろうか。

反省しているように見えなくもない。


チャイムが聞こえる。

「やっば、遅刻なんじゃない?」

「全部バカのせいでしょ」

「俺だけのせいじゃねーし」


急いで走ったせいでかなり疲れた。

「遅いぞー」

先生が教室の前にいた。

「お、おはよう、ござい、ます・・・」

「どうした、寝坊でもしたか?」

「飛鳥、足早すぎ・・・」

「・・・」

遅れて2人が到着した。

「3人揃って寝坊するわけ無いじゃん」

「飛鳥の、せいだと、思います!」

「違うわ、先生。終業式の日に健十郎のバカが、私に女の子らしさがないとか言ってきて、デリカシーが無いの」

絵里は既に息が整ったみたいだ。

健十郎はまだ息が上がっているというのに……、凄いものだ。


「ほう、健十郎は千香の事が好きなのかと思ってたが、実は絵里の事が好きだったのかな?」

「ち、ちがっ。俺は全然そんな事思ってない!」

「なーに顔赤くしてるの?走るの疲れた?」

「キモいから変な目で見ないで。あと飛鳥もそこまで鈍いと今後大変よ?」

何が間違ったのだろうか……。

「お喋りはその辺にして、そろそろ体育館に行くぞ」

「「「はーい」」」


-------------


終業式。例年、長い校長の話がある。

長すぎて生徒が倒れる事も屡々(しばしば)・・・。


『今日はみんな良い顔をしてますねー。今年度は元気に頑張ってくださいね!』


「今年の校長の話短いなー」

と小声で始業式の最中に(つぶや)いた。

「長い方が良かったの?」

独り言に隣から返事が返ってくる。

「短い方が嬉しいけど、いつも長かったから呆気無くて驚いただけ」

「まぁそれもそうね」

「仲いいな二人共」

隣のクラスで、今は右隣りに座っている大輝が話しかけてくる。


「話しかけてくるなよ」

あっち向けと手で払い退()ける。

「あ、大輝。今日さ、後で……」

「行かないし。何でもない」

絵里が余計な事言いそうだったので、慌てて話を遮った。

「???」

大輝は分からないといった顔を、口を開けて表現している。

「……。いや、やっぱりいいかな。何でもない」

「っそ。ところでさ、この後面談あるってさ」

「「えっ!?」」

衝撃を受けてしまった。ちょっと声が大きかったせいか、周囲の視線が集まった。


視線がある程度バラけた後、ヒソヒソ声で話し始める。

「朝礼で聞かなかったのか?」

「いや、今日は遅刻しちゃってさあ・・・」

「まじかよ。夏休み直前だから気が抜けてたのか?」

「健十郎のせいだけどな」

「そう、バカのせい」

「はは……。まぁあいつはいつもああだしな」

苦笑いしつつも、肯定否定どちらにも着かない姿勢を見せる。


-------------


教室に戻ると、本当に面談があった。

「面談終わった人から帰っていいが、順番は名簿順だな」

「「「「はああああああ」」」」

ブーイングが出た。

「文句は言わない。そのために校長の長話はなかっただろ?」

「せんせー、順番変えて欲しいー」

早く帰りたいから、ボクも逆順が良いな……。

「次回は逆から行くから、今日は我慢しなさい」

それでもブーイングは止まらない。

「じゃあ面談が終わっても教室で各自自習ということにする。まずは明石ー」

更にブーイングが大きくなった。しかし先生はもう部屋には居ない。


「順番はともかく、終わるまで暇なんだけど。僕とか“マ”だから、あと1時間は順番来ないだろうな」

暇だ……。

(わたし)は終わってからが暇だけどね」

絵里は“う”なので早いのだ。

「確かに……」


健十郎が気まずそうにやって来た。

「なに?」

「今朝はその、本当に悪かった。悪気があったわけじゃないんだ」

「それで?」

少し怒りが漏れている。

「もう二度とああいうこと言わないからさ・・・仲直り、してほしい、マジで」

両手を合わせ頭を下げる健十郎は非常にレアだ。

「もう二度と言わないでよ?」

「ああ、勿論」

「わかった。許してあげる」

その一声を聞いた健十郎の顔は(ほころ)んでいた。

「現金な奴。顔に出てるぞ」

「えへへ。ホッとしたから、つい、な」

『次、碓氷(うすい)―』

「はーい!じゃあまた後で」

「うん、多分来てもまだご飯食べてるかもしれないけどね」

「了解」


-------------


『次、卍山下(まんざんか)―』

「はーい」

呼ばれたので先生についていった。


小さい机に椅子が向かい合わせという具合か。

先生はクリップボードと筆記具を持っていた。

「どうだい?調子は」

「体調なら全然問題ないかな」

「お母さんの調子の方は?」

「多分問題ないと思います。2人で仲良くやって行けてるし」

「そうか。このご時世だ、再婚も考えておくのもいいだろう。考えているかどうか聞いてやってくれないか?」

「別にいいけど」

なぜその話が出てきたのだろうか。

「ありがとう。それで宿題の方はチラっと見たが、出来あまり良くなかったな。やっぱり国語は苦手か?」

一番聞かれたくないことを聞かれた・・・。

「そう、かな。何ていうか、話自体に違和感を感じます」

「ふむ・・・」

先生は何かを書き始める。


「先生?」

不安になったので呼びかけてしまった。

「ああ、すまん。一応記録は取らないといけないからな。その違和感というのは?」

「大好きな人が居なくなった時に、あんなにさっぱりとできるのかな?って」

「心配するな。暖かく送り出してあげなさい。飛鳥が悲しむと送られる方も悲しくなるからな」

「そういうもの?」

「そういうものさ。何にでも経験さ。何れそういう時が来たら、笑顔で送ることを思い出すと良い。送られる側の気持ちになって、な」

「そう、ですね。その時は努力してみます」

先生は親身になって答えてくれた。


「はは、頑張れよ。それじゃあ明日から授業始まるが、遅刻するなよ?」

「当然。今日のは健十郎のせいだから、二学期は大丈夫!」

僕はガッツポーズを先生に送る。

「それじゃー、教室で静かにするんだぞ」

「はーい!」

部屋を元気に飛び出し、隣の部屋に戻る。


-------------


ガシャン。扉が閉められた。

飛鳥の監視は必要か。

「次、宮竹―」


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