スクリュープロシティ
終皇79年9月1日 曇
まだまだ暑い。
二学期の始業式である。
今日は珍しく2人共迎えに来なかった。
学校に着くと予想通り2人共居なかったわけだが・・・。
後で先生に聞こう。
今回の始業式は校長の長話があった。
ということは、面談はないと思われる。
理想は両方ない事なのだが。
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放課後、職員室に行った。
「失礼しまーす」
先生は職員室の中央窓側付近の席にいた。
「そうした?」
「先生。健十郎と絵里は何で今日休みだったんですか?」
「あーそれな。絵里は夏風邪で、健十郎は家庭の事情だ」
「家庭の事情?」
「まぁ先生の口からは言えないが、どうしても知りたいなら直接聞けばいいと思うぞ」
「じゃー帰ったらお見舞いに行かなきゃ」
「ならこれ。プリント届けといてくれ」
「はーい。先生、さようならー」
「また明日な」
「失礼しましたー」
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「ただいまー」
『おかえりなさい』
「ねぇお母さん。2人共今日お休みだったから、これからお見舞いに行きたいんだけど」
「あら、そうだったの?ちょっと待てって」
何やらガサゴソと探し始めた。
「はい。食べやすいから、これ持って行きなさい」
と、ゼリーを渡された。
「じゃあ行ってきまーす」
「お大事にってちゃんと言うのよー」
『はーい』
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健十郎の家に来た。
絵里の家には行ったが、プリントとゼリーをおばさんに渡すに留めた。
「こんにちはー」
『はーい』
「百合さん、健十郎くん居ますか?」
「あら飛鳥くん、こんにちは。今ちょっと居ないわね」
「じゃあこれ。プリントとお見舞いのゼリー」
「悪いわね。でも健十郎は風邪じゃないのよね」
「じゃあ何があったんですか?」
「今日休んだのは母さんの流産があったせいよ。結構危なかったらしいわ」
「それで今居ないんですね」
「居ないのはまた別の事情よ。健なら哲と裕のとこに行ってるはずよ」
「2人が風邪引いたんですか?」
「違うわね。飛鳥くんも仲良かったみたいだからこれから一緒にいく?
実際に見たほうが早いわ」
「行きます!」
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哲さんと裕さんは同じ高校に通っているらしく、アパートは節約のため共同で使ってとのこと。
家からそこまで遠くはないが、家に子供全員が入りきらないためアパートに住んでいるらしい。
「ここよ」
ピンポーン。
『はーい』
部屋の中でバタバタと音がする。
暫く待っているとドアが開いた。
「なんだ飛鳥か」
「なんで今日休んだの?」
「百合姉に聞いたんじゃないのか?」
「来たほうが早いって言われたから」
「外で立ち話させる気?」
「わかったよ。どうぞ上がって」
部屋が暗い。
と言うより空気が重いという感じか?
「こんにちは」
「あ、飛鳥くん。こんにちは!」
一瞬暗い表情だった気がしたが、気のせいか。
「何があったんですか?というよりそれは・・・何してるんですか?」
「哲のオムツを替えてるんだよ」
「ん?どうゆうこと?」
「哲兄は今、植物状態に近い」
「一応病院から点滴もらってるけど、まだ目覚めないんだよね・・・」
「まぁ手を離しても平気になった点だけは良かったんじゃない?」
「かな?わかんないや」
「事故?」
「強ち間違いとは言い切れないけど、違うわね」
「夏休みにネズミーランドに行ったんだが・・・」
健十郎はネズミーランドからスカイ首吊りタワーまでの哲さんの状況を聞いた。
「そんなことでこうなったりするものなの?」
「場合に依ってはなるわね。
私、心理学とか興味あって少しだけかじってるのは知ってるかしら?」
「え、そうだったの?」
「ええ。以前に私が、優は対抗恐怖症じゃないかって言ったでしょ?」
「そんな気もする」
「言ってたな」
「それで?」
「要するに、普通は外的ストレスから身を守ろうとするするんだけど、そのストレスに快感を感じることで対処するのが対抗恐怖症になる1つの原因よ。勿論それだけじゃんだけど」
「つまり、俺は恐怖を通り越したってこと?」
「そういうこと。もしそうなら・・・勘違いしてた恐怖への快楽が、本当の恐怖の中で解けた時が最も危険だわ」
「わかんないなー」
「なってる人にはわからない所が味噌よ」
「そういうものなのかな」
「で、哲の場合は、熱心な宗教信者だと思うわ」
「何それ」
僕が言おうと思ったことを先に言われた。
「熱心な宗教信者は信仰心が強い程なりやすいわ。信仰心って言っても、宗教に限らない所がポイントよ」
「そんなのあったっけ?」
「「国語だね(だな)」」
「そう。例えば・・・」
百合さんの解説が始まった。
今では禁忌となっているが、古文書をこっそり漁ったらしい。
ある民族に伝わる、悪いことをすると悪魔に取り憑かれる、という話があったという。
悪魔に乗っ取られた者は体調が悪くなることもあるという。
ある日、信仰の厚い男は風邪を引いた。
それを知っていたため、その男は自分が悪魔に取り憑かれたと思い込み、様々な症状を引き起こしたという。
最終的には衰弱して死んだらしい。
「えー、それなら恐怖に恐怖したとか、悪魔に恐怖したとか、そっちの方が近いよね?」
「僕もそう思う」
「全然話し聞いてないわね。重要なのは因果の逆転よ。
その話では本来、悪魔が取り付いたから体調不良を起こすものなの。
でも、その男は体調不良になったから悪魔が取り付いたと“思い込んだ”のよ」
「つまり?」
「哲の場合、脱線者であれば神隠しに遭うという事実を、恐怖体験によって脱線者と認定されたのではないか、という所に思い至ったってことよ。
まぁ恐怖体験の内容まではわからないけどね」
「そういや裕兄は、哲兄と同じマスターモードしてたよ」
「マスターモードの内容はなんだったの?」
「そういや私もまだ内容までは聞いてないわね」
「えーそれ聞いちゃうの?全然簡単だったよ?」
と、裕さんがマスターモードの内容を話してくれた。
「ちょっと、それほんとなの?」
「そうだよ?当たり前のように本物の銃だったし」
「そこじゃないわ。
デッドエンドとしてスタートするって点よ。
それが原因の要のようね。
となると・・・別の意図があるわね。
それについてはまた調べておくわ」




