解体ショー【※】
臓器保存病棟での臓器の摘出ショーは単調であった。
麻酔なしの摘出は最後と決まっているためなのだが。
身体的には健康な人が殆どなため、様々な部位の移植が可能となる。
心臓、肝臓、肺、腎臓、膵臓、小腸、眼球、皮膚、心臓弁、血管、腸内フローラ、気管、生殖器、耳小骨、骨、骨髄、四肢etc.
と、移植部位は多岐にわたる。
そのため別名:解体ショーとも呼ばれている。
どうしても移植してほしくない部位は、予め言っておけば提供されないようだ。
基本的に麻酔なしの臓器提供者が毎回居るのには事情がある。
解体は医師が行うが、重労働とならないために1日の解体数に制限がかかっている。
また、麻酔なしを優先とするため、順番を飛ばすために麻酔なしを選ぶ人もいるらしい。
物好きな人も居たものだ。
臓器は新鮮さが重要なため、いきなり腹を切開する。
腸を引き摺り出し、徐々に心臓まで取り出す。
この間手際よく行い、ものの数分で終了する。
内蔵が終了したら骨髄、生殖器、眼球、耳小骨と、どんどん取り出されていく。
最終的に四肢も容器に保存されるため、廃棄処分されるのは脳くらいだろうか。
俺は詳しくないので細かいことまではわからない。
唯、わかるのは“皆が喜んで見ている”ということだ。
【只今より、無麻酔部門を開始いたします】
歓声が上がったようだ。
百合姉は相当我慢しているようだ。
対して、なぜか恕十は目を輝かせている。
非常に危険な兆候だ。
「恕十が興奮してるけど」
「え、そうなの?」
「このまま行くと裕みたいになるかもしれないけど」
「・・・とは言ってもこの人集りを押し退けるのは難しいと思うわよ」
「恕十、暫く目を閉じておこうか」
そう言い目を覆うが、恕十はそれを嫌がり退けた。
「もう手遅れかも」
「まぁ成るようにしかならないわ。諦めましょう」
百合姉はそれどころではないようだ。
俺もどうすることも出来ないと悟り、諦めることにした。
無麻酔最初の臓器提供者は男性だった。
しかも哲兄と同い年に見える。
哲兄や裕兄を連想してしまい、自分を騙すのが上手い俺も少しグラっと来てしまった・・・。
【それではまず、切開します】
容赦のない切開は、腹腔内の臓器を一度に取り出せるほどの大きさである。
胸から股間の真上にかけて、完全に開いている。
『う゛っ、い゛ぃ』
必死に我慢しているようで、脚はピンと張り、手足には力が入っている。
洗濯バサミで開いた腹を脇腹と共に挟み固定する。
これも相当痛いはずだ。
痛みで臓器提供者は絶叫する。
『あ゛ああああああ』
「いいぞ!もっと叫べ!」
他人の不幸は蜜の味。
そのような下衆がたくさんいるようだ。
無麻酔による摘出は尋常ではない痛みが走る。
これは肉を切り裂かれることや臓器を取り出されることへの激痛も然ることながら、手術そのものにも有る。
手術は麻酔とともに発展してきたが、ある時からは麻酔が有る前提で進歩してきた。
そのため、患者の痛みを低減するような器具は意外と少ない。
注射のように、麻酔無しで用いる前提の物は例外だが、やはり少ないのは事実である。
結果として、臓器提供者は凄まじい叫声と共に悶え苦しむこととなる。
ただし、この施設では敢えて痛いものを用いてる気配を感じた。
いつの間にか少年の絶叫は笑い声に変わっていた。
【この長い管が小腸でございます】
そう言うと、あっさり切除された。
次々と臓器が摘出される。
医者はベテランらしく手際が良い。
だが、パフォーマーでもあるらしく、観覧者には見やすく、尚且つ分かりやすい切除を心がけているようだ。
痛みに依る、男子からでる効果音を、最早誰も気にしていない。
【次は心臓と肺の切除を行います。これに因り、臓器提供者は完全に絶命いたします。表情にご注目ください】
とうとうその壊れた笑い声すら無くなる。
既に意識が朦朧としているようだ。
痛みも、痛みのあまり感じていないのかもしれない。
メスが入る。
実際は様々な器具が挿入されているのだが、名前がわからない。
直後、諦めのような笑みが浮かぶ。
死を悟ったというのが一番正しいのだろうか。
心臓が摘出され、少年から表情が消える。
間も無く肺も摘出され、もう少年の目には光はなくなっていた。
少年は首より上の頭部は提供しないと言っていたらしく、頭部は展示場行きになるらしい。
後で拝んでおくか・・・。
兄貴達がこうならないようにと祈りも込めて。
臓器保存病棟では新鮮な少年の部位を透明な容器に保存し、値段が表示されていた。
790722-105号、心臓、100万円。
本日105体目の亡骸だからだろう。
それよりも思ったより安い。
この国では仕方のない事なのだろう。
そういえば何時からだろうか。
この国では“外国”の話を極度に排除した形跡がある。
外なる国には楽園があるとも、脱落者の地獄があるとも噂されていたか。
それを聞いて以来“この国”と表現してしまう癖がついたのだろう。
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生首展示場に行くと言ったら、百合姉は「私はいい」と遠慮された。
仕方ないので1人で行くことにした。
子供だけで出歩いても全く問題のない世の中である。
何しろ軽罪であっても重罪であっても終身刑である。
冤罪は存在しない。
なぜなら疑われた時点で終了だからである。
運がなかったと諦める他ない。
ただし終身刑で課せられる労働内容は公開されていない。
こんな世の中だ。まともな事はやっていないだろう。
生首展示場では首吊りバンジーで出た遺体の頭部や、臓器提供されなかった頭部が展示されている。
何れの顔も目が開けられている。
死に顔であるため、焦点の定まらない目で観覧者を見つめ返している。
新鮮なものだけ展示されているが、当日の生首が少なければ前日の生首も若干展示されることもある。
名前は公表されないが、死を思い至った概要が意思なき頭部を治める容器の下に書かれている。
先の少年、105号を発見した。
大学受験に失敗し、追試も失敗し、後は思想試験を残すのみ。
しかし、少年は学校での簡易思想試験で陽性と判定される。
これだけでも脱線者になるには十分であったと思われる。
しかし、少年は真面目だったが故に抑鬱状態に陥る。
この状態になってしまったために最早試験を通過することは不可能である。
せめて綺麗さっぱりに、と思い立った。
そのようなことがサラッと書かれていた。
哲兄は今高校3年生である。
まるでこれからの哲兄の行く末を描いたかのようだ。
だが既に膨大な眠りの中にいる哲兄はもっと悲惨になるかもしれない。
可能性の話として心に留めておこう。
手を合わせ、黙祷を捧げる。
少年の良き来世と、兄貴達の良き未来を乞う。
勿論自分が最優先だが。




