最悪の再会
「…奏瀬?」
「水紫?どうしたの?」
「どうですか、驚きました?」
「奏瀬っ、目を覚ませ!そいつの言うことは聞くなァ」
一瞬…水紫が発した言葉に、操られ感情を失った奏瀬はピクリと反応した…ような気がした。
「ふふ…これで逃げられないでしょう」
「…行くぞ、アート…」
「は?待ってください。ここに貴方の知り合いがいるのですよ?取り返そうとしないのですか?」
「取り返す?何を言っているんだ?その人形はどうせ偽物だろ?」
「試してみます?」
一瞬、テーゼの腕は高速で動いた。シッと音がし、奏瀬だというものは、首の辺りから、血液が流れ出した。
「どうです?感情を無くしていますから、痛みは感じていませんし、悲鳴も上げませんね」
「その血液も偽物だとしたら?それに、泣かないのは人形だから当たり前だろ」
「では、そのまま見ててください」
奏瀬だというものは、まだ大量の血液を流し続けている。
「…それがどうしたんだ?」
その内、足元には血液が流れずに血だまりが出来ていた。だが、その者は…不気味なほどピクリとも動かなかった。
「いい加減に…」
「はい、では感情制御を解除」
「はっ?」
…なにを……と言い切る前に、奏瀬だというものは…
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァァァァァ!!!!??!」
「なんだ…」
「水紫!あの人何か変」
「ア゛ギアィイィ……ギギギィィグィ…」
と、悲鳴は一旦止んだ。だが、そのあと、あの操り人形が発した言葉は、水紫の心に深く突き刺さった。
「…ガヒュ…水…紫くん…酷いよ、私だよ…奏瀬だ……よ」
「…は…?」
「さっき…から、偽物とか‥人形って、酷いよ…ハァハァ…」
「騙されない、お前は偽物…。テーゼが持ってきた、俺を惑わすために作られた道具だろ」
「違…うよぉ…」
「えぇ、違いますよ、水紫さん。奏瀬さんは、神隠し…水紫さんの世界では解明されていない謎の現象であなたの世界から消滅したと言われています。あなたの世界ではね」
「なに?」
「本当は神隠しではないですよ。私がルートで連れてきちゃいましたぁ」
「は?お前はどれだけ俺が欲しいんだ。関係無い奏瀬まで巻き込みやがって…」
「当たり前ですよぉ、貴方の魔力は魔王級…これほどまでに食べがいがありそうな魔力は初めてです」
「お前…まさか、俺を食べるのか…?」
「違いますよ、魔力を吸い取るだけです。そ・れ・に・吸い取った後も、水紫さんは首輪を付けて可愛がってあげますから、安心してください」
「安心出来るか!」
「水紫っ、話に乗せられちゃだめ」
「はっ!?すまん忘れていた」
「それにあの子、そろそろ死にそうだよ?血は止まっているけど、呼吸と脈拍はもう弱い…」
「っ!」
(アート…武器だ、一瞬だけテーゼを止められる得物は持っていないか?)
(え?えーと、ね、今はこれしかないよ…)
アートはアイテムボックスから取り出した黒い物体を水紫に見せた。
(え、なにこれ)
(閃光音響催涙手榴弾…だけど。君の世界に迷い込んだ時に、ちょっと…ね)
(え?なにその、禍々しい得物)
(使い方は…)
(あぁ、大丈夫だから)
(そう…)
アートは使い方を説明できなくて、少し顔を俯かせた。
「なに、こそこそしているんですか?」
「…エスケープ…対象を奏瀬に設定。ホロウ…対象を手榴弾に…」
「…何言っているんですか?」
「アート…投げて。ホロウっ」
「あ、わ、分かった。とおっ」
アートは可愛らしい声を上げて、可愛らしくもない寧ろ禍々しい得物を投げた。もちろん、この手榴弾は視界を移されているテーゼから見えないので、
「わっ、きゃぁ」
と、テーゼの頭の上で、それは爆発した。
(今だ!)
「エスケープっ!」
奏瀬は、安全なところ…つまり水紫の後ろに落ちてきた。
「っと、大丈夫か?奏瀬」
水紫は、お姫様だっこという形で奏瀬をキャッチした。
意外と軽いな。向こうでは、酷い扱いをされていたのか?許せない…
だが、鬱憤を叩きつける相手もいないし、奏瀬も危ない状態だったので、無理やり感情を押さえ込んだ。
「…水紫くん…少しいいかな」
「えっと、なにかな」
嫌な予感が…
「もう、ばかばか!なんで私がこんなになるまで傷つかなくちゃいけないの!」
「ごめん、ごめんってば」
「もぅ…ばか…でも助けてくれてありがとう…///」
(…ライバル…登場かな)
「……ト!アート!!」
「わわっなに?」
「ボーっとしてちゃだめだろ。テーゼの様子どうなった?」
「えぇと、ね、目を潰して涙流してるよ」
ざまぁ。相手の不幸には、この言葉だけで十分だな。
「よし、なら行こうか。…自分、奏瀬、アートを対象に設定。エスケープ」
…俺は、開いた空間に入っていった。テーゼは遠目から見ると、まだ苦しんでいるようだ。
「じゃぁな、テーゼ」
と、呟き、空間を閉じた。
………………………………………………
水紫は空間内を歩きながら、アートに聞いてみた。
「アートは、回復の魔法使えないのか?」
「うーん、使えるけど、傷は直せないよ…。だけど、時魔法を作った賢人なら、その首の傷を無かったことになら出来るかもね。とりあえず、首の傷は塞いでおくね。ヒール」
ぱぁっと、奏瀬の首に淡い光が降り注いだ。
見ていると、流れていた血液は止まったように見えた。
「これで、いいかな。大丈夫?」
「は、はい、ありがとう…えっと」
「普通にアートで、いいよ」
「ありがとう、アート」
「さて、そろそろいいかな。そろそろ空間の出口が見えてきた」
水紫達が歩く先には、だんだん光が見えてきた。
この魔法はどうやら、場所はランダムに決められるようだ。なるほど、確かにテーゼのルートよりは不完全だな。
「っと、安全地帯、到着」
目の前には、緑の芝が広がっていた。
「水紫、少し歩くと、町があるから、そこで色々買っていこう?それと、」
アートは水紫の方をジトっと見つめ
「…そろそろ、降ろしたら?」
…久しぶりの殺気が、水紫を襲った。 ていうか、元の世界でも殺気なんて飛んでこなかったけどな。
飛んできたのは、野球のボールくらいかな。
「あ、はは、ごめん。奏瀬もごめんな」
水紫は急いで降ろそうとしたが…
「あ、やっ」
と言い、奏瀬は水紫の首にしがみついた。
「やっ、てお前なぁ…」
「やなのは、やなの!」
「分かった…水紫がそんなんだったら、私だって…」
と、アートは水紫の背中に被さった。
「えへへ、私重くない?」
…重いなんて言えない…絶対殺される…
「っ、大丈夫だよ。さっさと、街へ行くぞ。着いたら降りろよな?」
「「はぁーい♪」」
ったく、分かってんのかよ…。
に は に は で す 。