優しさ
「っ、うく…うん」
何時間経っただろうか…魔力の消耗は予想以上に激しく、今もまだ、腕が、肩が震えて、自力では立ち上がれないほどに…
「まさか、自分で放った魔法で気絶するなんてな」
予想外だった。
『だから、瞬間止めたじゃないですか』
「言ってたっけ。ごめんな、あの時は初めての魔法でテンション上がってたのかもな」
『ゴホン、いえ、まあマスターが無事ならいいんですけど』
「けど、あれだな、自分の弱点は薄々気付いてはいたけど、これほどまで酷いとはな」
『ですが、魔術耐性を10まで上げれば、気絶することは無くなるんですけどね』
「ん、何故だ?」
『はい、スラッシュは魔Pを10使うのです』
「それが?」
『分かりませんか?魔法耐性が10になれば』
「なるほどね。プラマイってことか?」
『はい、気絶せずに1回は必ず使うことが出来るのです』
「ステータス、魔術耐性を上げる方法はあるのか?」
『いくつか、あります。一つはレベル上げ、二つ目は、魔術耐性が付いた、服やブレスレットなどの装飾品を装備、三つ目…これは禁忌で人間をやめることになりますが、魔物の肉を喰らうことです』
「一つ目、二つ目は分かる。俺のいた世界にも、ゲームでそういうのあったからな。けど、三つ目は喰ってどうなるんだ?」
『この世界の9.9割…まぁほとんどの人は知りませんが、魔物の肉を喰らうと、魔物のステータスを引き継ぐことができるのです』
「ごめん、喰ったらどうなるんだ?」
『まず喰らった瞬間、体に激しい痛みが走ります』
「あっはい」
…それだけ聞くと地獄だな。
『魔物の肉は溶けにくいのです。それに力も宿っているので体に取り込むと、痛い…らしいです』
「あ、お前は細かいところまでは分からないのな」
『すみません』
「いいさ、行き詰るっていうか、レベルが上がらなくなったらその方法を使うから」
最悪、痛みで力が手に入るなら、それでいいかな…うん。
『え?二つ目の方法は使わないのですか?』
「いや、指輪とか無いだろ…」
『それが、あるんです』
「あ?」
「アイテムボックス起動」ヴヴヴ
え?なになに、何が起こるのん?それに、これは誰の声だ?
すると、虚空に穴が空いた。
「はい、どうぞ、指輪だよ」
「」
…そこから、恐らくステータスさんのだろう、指輪を持った腕が出てきた。
「……お前…実体あるのかよ…」
「んー、違うよ。私はステータスとは別だよ。私は、賢人なんだからね」
「は、賢人?何だそれ。やけに馴れ馴れしいな」
「いいじゃないか、やだなー」
…そして、うざい。だけど、話しているとだんだん楽しくなる。なんだこれ…
「で、賢人ってなんだ?」
「んー、一言で言うと、エンシェントスペル…古代詠唱を創った人達のことかなぁ。何人だっけな…7人いたかな」
「なに?そんなものが幻想入りしてたのか?元魔王の娘の口からはそんなこと一言も聞かなかったのに」
「幻想入り…?まぁ、いいや……。あたりまえよー、これも魔物の肉と同様に知られてないことだよ?」
「で、その詠唱は、7つあるんだろ?話通りだと」
「うん、生、死、時、空間、星、永遠、錬金の7つだよ。私は錬金術を創った賢人。名前はアート、よろしくね」
「え、まじ?すごい」
「だろーすごいでしょー?もっと賢人様を敬えよー」
「そのうざいところを直したら、敬ってあげなくもないですね」
「えー、今更このキャラを変えるの?何千年も経っているんだよ?」
あ、何千年も同じなんだ…他の賢人様もこの人の扱いには苦労しただろうな。
「でも、賢人様が、敬語キャラになっても気持ち悪いし、それでいいですよ、賢人様」
「あ、うざい!今の賢人さまって呼んだところ絶対棒読みだったでしょ」
(何この人、鋭い。抜けてて、スキがある人だと思ったのに…あ、同じこと言ってる気がする、てへぺろ☆」
「…なに独り言とか言ってるの?………殺すよ?」
あれ、後半の方、聞こえてた?それより…
「…怖いっ!何この人、殺すとか物騒すぎる。あと、殺すとか言うのなら、顔を合わせて堂々と言えよ」
「なに?私の顔が見たいの?何千年も生きてるから、気持ち悪いとか言わないでよね?」
なんだ、急にしおらしくなったな…
「い、いえ、別に無理して見せてくれなくてもいいんですよ?」
「きみも、無理して敬語みたいな真似しなくてもいいんだよ?」
「分かったよ、これでいい?」
「いいよ。私も、自分の姿、見せてあげる…」
アートは言葉を言い終えたと同時に自分の目の前が、真っ白に染まった。ていうより、そのまま世界が白に染まるのかと錯覚しそうなほど、凄惨な光が降り注いだ。
そして。
「…どう?」
そこには、白髪のロングで、灰色の目をした、少女が立っていた。身長は160そこら…か。タイプだ…
「…可愛い。なに、賢人様すっごい可愛い、どうしちゃったの?」
「ほんとにー?ありがとう。素直に嬉しいわ」
わーいわーいとばんざいをする、賢人様はなんとも微笑ましかった。やばい、鼻血でそう。だけど、そろそろ…。
「えと、そろそろいいか」
「わー…、え?他にも何か聞きたいの?」
「うん、なんで賢人様は、俺のすぐ近くで観察なんかしてたんだ?」
すると、あぁ…と頷き、賢人様は説明を始めた。
「一言で言うと、君に興味を持った。明らか、魔王の血族ではない…いや、この世界の住人ではないのに、魔力を持っていること。そして、その魔力は成長すれば魔王級いや、それ以上になるかもしれないことに。私は、君の成長を見たかったのだ、異世界の住人が、この世界でどこまでやっていけるのかがね☆」
…驚いた。素直に驚いてしまった。この人はただうざいわけではなかった。俺のことをまるで期待しているような…そんな感がした。
「でも、俺なんて、期待しても無駄だと思いますよ。最近は無気力になって、誰からも期待されなくなってしまったからな」
「それでも、大丈夫。君は優しいからね」
「…ありがとう。あっちの世界でも、俺を見てくれた…人なんていなかった…それにこんな言葉…今のこの人生でかけてもらえるとは、思わなかった…本当に…ありがとう……」
俺は、涙で前が見えず、嗚咽を繰り返しながら…アートに御礼を言った。
「んー、泣いてるの?大丈夫?私が慰めてあげようか?」
「ほんとですか?」
「ん、君も素直になったねぇ」
「俺は、元から素直です…」
「ん、そっか。答えは本当だよ、それに私が期待している人なんだ、困っている時に助けてやれなくて、ほんとなにが賢人だか分からないよ。ほら、私の所で、思う存分泣きなさい。大丈夫、ここでの時間はたっぷりあるよ」
「うぅ…うぐ…うぅぅ…」
「ふふ…よしよしっと…」
賢人様、優しいです。
魔界の森なのに魔物が出てこないのは突っ込まないでください。次回、出ますよ。