始まり
『次、如月 水紫君、入りたまえ』
「はい!」
ついに俺の番が来た。大丈夫だ、何度も練習したじゃないか。部屋に入る時はまず、扉をノックすると。
コンコン
「失礼します!私は如月 水紫と申します」
「では、かけたまえ。…まずは、我が社に入社したい理由を教えてくれ」
「はい、貴社は、素晴らしい技術を有していて、日本だけではなく、海外にも足を伸ばしている企業だと聞きました。私が、思うに、家電製品を設計し、開発し、多くの人間に扱ってもらっている企業はここだけだと思います。そんな私はグローバルに活躍している企業で活躍をしたいと思いまして、この場に馳せ参じました」
よし、言えたぁー!見ろよ、目の前に座っている奴の顔を、俺がここまで言ったことに、口を半開きにして固まっているぞ。
「あ、あぁ、分かった、ここに対する思いは私達には十分に伝わった。…だが、君は二ヶ月も経たずとも、前の仕事を辞めている。そんな君は新しい仕事場で辞めずに働き続けることは出来るのか?」
「あ、っ!?それは…」
くそ、痛いところを突かれた。だが、これも想定通りだ。俺は既に何度も同じ内容を答えているのだから。
「はい、大丈夫です。私は前の会社では一回事故を起こし、入院したのです。入院期間も長く、そのため会社には自然と居心地が悪くなってしまい、辞めてしまったのです」
『ふむ、どうするか』
『はっきり言って、彼が我々を騙そうとしているのかもしれない』
『そうだな、一度会社を辞めてしまっている。それも居心地が悪くなっただけで、だ。そんな、人間が新しい仕事を続けられるはずがない』
やめてくれ、やめてくれよ。ただの相談タイムかと思いきや、俺の目の前でそれも、言葉が俺に聞こえるように堂々と話をしやがる。
ったく、性格が悪いおっさんだ。
『みんな決まったな』
『あぁ』
「如月 水紫君、はっきり言って君は仕事に向かない。話をしている時の態度、見ていると分かるが、所々笑っている。正直に言うと、君が言っていることは殆ど、嘘か本当かが、よく分からない。よって」
あぁ、また落ちたな。
水紫は心の中で天を仰いだ。
「如月君は不合格だ。もう帰ってよろしい」
「はい…、では、有り難うございました!」
そう言い、扉の前まで歩いた。
「失礼します!」
音を建てずに扉を開け、外へ出ていった。
ドア越しに見えるのは、まだ若くて、肩を落とした青年の影だった。
◇ ◇ ◇
ある曇り空の下、なにもかもに絶望した男がいた。先ほどまで面接をしていて、その場で面接に落ちた男だ。
「あぁぁぁぁ、これで11回目か……。落ちたのは」
そのうち、その場で落とされたのは今回で5回目っと。
あ〜ぁ、何か新しい人生とやらは見つからないかなぁ〜。何でもいいから、この面接続きの人生に刺激が欲しィ。
空から美少女っていうのも悪くないなぁ〜。
「き…ゃ、………ぁ」
「ん?」
何だか、遠くの方で誰かの叫び声を聞いたぞ?
もしや、空から女の子?
そう思い、不幸な男、水紫が真上を見上げた。
額に手を当て、目を凝らしてみると、はて、何かが落下してきていた。
それは、高度が下がるとともに、人の形へと見えてきた。
「おおぉ!本当に何かが落ちてきた!」
そんな、歓喜の声を上げた。
両手を広げて、待ち構えるが、中々落ちてくるスピードと場所が掴めない。そんな事をしているうちに、 影は地面へと近づいてきた。
地面から、約2m!
「うおぉぉぉぉ!!」
そんな声を体の中から解き放ち、腕を広げて落下予想地点まで駆けたが、遅かった。
ドゴォォォォ、という音を立て何かは地面を抉った。
その何かは、落下の衝撃をあまり受けなかったのか、何事も無かったかのように、一言。
「また、骨折しました」
そんな、気の抜けた声。
「はぁ」
それを聞いた水紫は手を地に付いて、色々と言いたかったが、何故かそんな息しか出てこなかった。
「そんなことはどうでもいいんです」
「いいんですか」
「いいんです」
「それよか魔王になって私の星を救ってください」
「魔王になる以外は常識的だな」
「魔王じゃなければいけないんです」
「なぜに」
「えーとですね、お話しますね。その前に自己紹介ですねー、私はテーゼです。よろしくです、えっと」
「水紫だ、よろしくな」
「では、お話します。聞いてくださいね」
ゆっくりとテーゼは話し始めた。
「私は、異世界の魔界と呼ばれる場所から来ました。テーゼです。突然ですが、あなたは勇者とはどのような存在だと思っていますか?」
突然、訳がわからない質問をされたが、冷静に答えた。
「えっと、よく小説とかで見るのは、神様や王様に選ばれて、最終的には魔王を倒すって感じだろ?」
「はい、そうですね、合ってます。ですが、私の世界では、勇者が暴走しているんですよ」
「あ?そうなのか」
正直、こいつが言っていることは意味が分からん。
「勇者が魔王を倒した辺りから、『俺が世界最強だぁ』なぁんて好き勝手やり始めたんですよ」
「えっと…それだけか?」
「お話しますとは言いましたがっ…長いお話になるとは言っていない(震え声」
「もう少し、長い話になると思ったじゃないか」
「あはは、すみません」
水紫は、はぁっと息をついた。
…本当になんなのだ。この少女は。まるで意味がわからん。
テーゼは震えながら言った。
「し..信じて頂けてないようですね。ならっ!」
テーゼは右人差し指を天に向け
「これなら信じて頂けますか?ルート」
そのままパチンと弾いた。
「は?」
ルート!?道…?
テーゼは訳のわからない単語を使い、そして…
水紫の足元に幾何学模様が幾つか現れた。それは、唐突に光始めた。
「っ」
なん…だこれ
突如、自分の感覚が引き伸ばされる気がした。
水紫は眩い光に包まれ、そして足が地面についてる感覚と意識が無くなった..
◇ ◇ ◇
あれから、何分経ったのだろうか。自分は青空の草原の上で気絶していた。さっきとは違う場所のように感じた。
だが、この場所は知っている。恐らく近所の総合公園だろう。
水紫の頭上ではテーゼがおはようございますと言っていた。なので、おはようと返した。挨拶は大事だよね。
「痛って、何だったんだ?いまの」
ゆっくりと体を起こしながら質問してみた。体を起こしてみると分かったのだが、自分は激しく動いてないのにも関わらず、激しい吐き気が起こった。
「うぷっ…」
口を覆って最悪の事態は回避しようとした。
「……はぁ」
良かった。幸い、そのようなことは起こらなかった。しかし、目の前のテーゼは一応睨んでおいた。
「ただの移動魔法ですよ。ただし、私だけが使える固有魔法ですが」
人差し指をたててテーゼは得意げに言った。
「お前…こうなるなら先に言ってくれよ」
「お前じゃ、ありません。テーゼです」
「はいはい、じゃぁ、テーゼさん。言ってくれよな」
「で、でも、こうしないと分からないこともあったわけで。それも確認しないといけなかった訳で」
頭上から何故か焦ったような声が聞こえた。
「何だ?その確認しないといけないことって?」
水紫は声のかかった方に顔を向けた。
「あなた、今酔ったと言いましたか?」
「そんなことは言ってないが、気持ち悪いとは言ったな。それがどうかしたか?」
「あなたには魔法適性ありますね!」
テーゼは少し上ずった声を上げた、その顔は紅潮し笑っている、ような気に見える。
「は?ま、魔法適性?」
「そうです、一般的な人間は魔法にかかると何とも思わずにいるんですが、あなたは酔ったと言いました!これが証拠です」
「それになんの関係が…っあ!………じゃ、あれか?初めて魔法を実感したことにより、魔力の波動みたいなものが感じるようになって酔わされたって感じか?」
「そうです、あなたには魔法適性があるんですよ」
やりましたねというふうにテーゼは喜んでいた。
ならば、と水紫は確かめるように聞いた。
「な、ならさ..もし、酔いに慣れれば俺は魔法を使えるようになるか?」
「えぇとですね。まだ使えるとは限りませんよ?」
「なぜだ?」
「魔力の波動なんて魔法界では当たり前に流れてますよ。それに魔力の操作を覚えないと使えませんよ…。分かっていませんねぇ…くふふ…」
「何笑ってやがる」
あはははははっ…………とテーゼはしばらく笑っていた。
それから一通り笑い終えてから、テーゼは言った。
「自分が魔力の波動をコントロールできるようになれば、そうですねぇ……初歩的な術で五属性の小魔力玉ぐらいは出せるようになるはずです。こんな風に、小さな魔力で」
ぽっ、とテーゼの掌に小さな炎が灯った。
こんなふうにね、と俺の正面に立つ少女は得意げに笑って見せた。
「質問がある」
「なんでしょうか?」
「五属性ってのは、なにが、あるんだ?」
「五属性はですね、火・水・風・光・闇ですね」
ふーん、なるほどな
「適性属性なんてあるのか?」
「うーん、ないですねぇ。ですが…スペルとユニークスペルってのはありますよ」
また新しい言葉が出てきたぞ…
「ん?どういう違いがあるんだ?」
「スペルはですね、基本的にほとんどの人が使える魔法ですが。ユニークスペルは、その名のとおり、唯一の魔法ですね、こう言った魔法は作った人しか使えません。固有詠唱とも言います」
「ふーん。なら、お前は固有詠唱ってのは使えるのか?」
「えぇ、ありますよ。さっきの移動魔法がそれです」
「なに…!?」
「スペル名は、ルートです。魔法のルールは、自分が行ったことがあるところには、魔力がある限り移動出来ます」
なんだと、すげーな!
「なら、俺もお前みたいに魔法を作れるようになるのか?」
「作れますよ「よし!」あ、今すぐには無理だと思います。」
「おい…今の俺の喜びを返せ……」
テーゼには恨めしげな視線を送った。
「なぜ、創れないんだ?」
「えぇとですね。今日、初めて適性があるって言ったばかりなんですよ?」
「まぁ、そうだが」
「あなたは、子供の頃に、割り算をやれと言われたら、出来ないでしょう?」
「そうだな、それが?」
「つまり、魔法も勉強と同じです。繰り返し、練習しないと使えませんよ。………って聞いてますか?」
テーゼは何も分からない人に魔法とは何なのか、を教えている内に気分が良くなったのか、周りの状況をいまいち把握出来ていなかった。
水紫が集中して、魔力玉を作り出そうとしているのが視界に入ってなかったようだ。
「ハァハァ…よし、出来たぞ」
「はぁ?そんな訳が…。あ、すごいですね。まだ小魔力玉ですが、練習もなしに出せるとは……さすがは魔王候補ってことですか」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
「なぁ」
「なんでしょう」
「俺やるよ、お前の勇者を倒しに行くことにする」
「私の世界のためですか?」
「違ぇよ、ただ魔法を使いたいしな」
「そうですか…」
「…大丈夫だ」
テーゼの頭にポンっと手を置き、そのまま撫でた。
「ふぇ!?なにするんですか!」
「お前の世界もちゃんと治してやるから、安心しろ」
「では、約束してくれますよね?破るかもしれませんし、私と指切りしてください」
「ほいほい、ゆーびきりげーんまん、嘘ついたら、針千本のーます、ゆびきった」
水紫とテーゼは今どきの子どもがやらなくなったようなことを2人で無邪気に指を絡めて、楽しんでいた。
それより、テーゼって、指切りげんまんのこと知ってたんだね。驚いた。
「詳しいことは移動してから話しますね。では、魔界に飛びます」
「あぁ…」
「では、ルート」
あぁ、またこの感覚か…。早く慣れねぇとなぁ…。
修正を結構したら文字数が増えました。
書いたのは溜めていますので、しばらく、一気に投稿すると思います。
なんか、修正しかしてないな