紫電の少女の話
side三人称
満月が昇る夜。
新蘭市の丘には小さな湖がある。鏡は別世界の入り口と言われているが今日、この日にその仮説は立証された。
湖から波紋が広がり水は沸騰しているかのように沸き立つ。黒い手が湖の中心から出てきた。夜の闇ですら霞むほどの黒。もう1本の手には鋭い鉤爪がついていた。黒い双腕は丸太のように太く樹齢云100年を過ぎた大樹の様に大きい。次に顔が出てきた。怒りに取り憑かれたような獰猛な雄牛の顔。そして体が出てきた。3階建てのビルの様なその巨体。雄牛の体は人と変わらなかった。神話を知るものならこの生物をこう呼ぶだろう。『ミノタウロス』と。想像された物よりも大きい。『ミノタウロス』はのそのそと歩き出した。神話に表記される『ミノタウロス』は牛の様な草食ではない。生け贄を食らう肉食なのだ。そしてこの個体は凄まじい嗅覚で新蘭市の人間の匂いを感知した。にたりと笑いながら雄牛は歩く。と再び湖に異変が起きた。『ミノタウロス』が出現した物よりは小さな波紋が広がる。そこから1つの影が飛び出した。蒼いドレスの様な服。胸元を守る鉄製の胸当て。そして紫の髪をツインテールにした少女。右手には身の丈はありそうな斧を持っている。この少女の名はシーリア・デュマ。魔術師である。
「・・・『ミノタウロス』ね。よくもまぁここまで良く大きくなったわね。ちゃっちゃっと済ませるわよ『アーキノス』。」
少女は自らの持つ武器に話しかける。すると大斧は紫の燐光を放ち答える。
゛了解だ。だがどうする?彼処までの巨体との戦闘経験は皆無だ。加えて向こう側での戦闘ではダメージを与えられなかったが゛
ファンタジー世界には良くある、意識を持った生きる武器ーインテリジェンス・ウェポンー彼はその類いらしい。
「わかってるわ。だから、出し惜しみはなし。全力全開で叩き焦がすわ。」
゛了解だ゛
会話を終えると少女は『ミノタウロス』の元へと飛んだ。その飛行速度は燕の如く。 一瞬にしてターゲットの前へ回り込んだ。
「BURUAAAAA!!」
咆哮。
街全体に響くほどの音の塊はしかして街には届かない。シーリアが既に結界を貼っていたからだ。
「カード56 【斬撃は雷ーボルテックスラッシュー】」
シーリアが呟くと腰に下げていたカードホルダーから1枚のカードが抜かれ『アーキノス』に触れる。カードは光と消え『アーキノス』からは紫電が漏れ出す。
「はぁぁ!!」
かくして1人の魔術師と1体の怪物との戦闘が開始された。