三話、施設。
カノンは自分の姿を見て絶句した。デフォルトからほとんど弄っていないはずの自身の分身体は小柄な少女の姿へと変化を遂げていた。
「このゲームってな、ネカマとか出来ない仕組みになってんだよ、つまりお前はいい経験をしたってことだな」
「それだけで済まそうとするな!作り直すから」
「待て待て、せっかくだからこのままプレーしな。それにしてもお前なんて種族だ?」
カノンは自分は咎人だと名乗った。
「そんな種族なかったぞ、それも何かのバグか?それにしても銀髪に紅い瞳か。かなりの美少女になってんぞ」
「……しょうない、このままプレーするか。ところで、さっきボイチャで言ってたやつがそれか」
カノンはグレイの持っている初期装備を指してそう言った。
「そうだ、それとボイチャってのはなんか野暮ったいし、あれは念話って言うんだ」
VRシステムが運用されたゲームを初めてやるカノンには今まで慣れ親しんだボイスチャットと呼んだ方が分かりやすかった。
「本当にファンタジーだね」
カノンは辺りを見渡しながらそう呟いた。
「だろ、テスターとしてゲームをやってたときも思ったがかなりの自由度でお前も楽しめると思うぜ。とりあえず、ギルド会館に行くとするか。初期装備を貰わないとどうしようも出来ないしな。初期装備を貰ったらある程度は俺がレクチャーしてやる」
「ありがとう」
「気にするな」
そう言って街まで案内してくれたグレイは本当に頼りになる存在だった。街に入ると入口近くに立っていた衛兵に一礼し、町全体を見回す。
『双丘の街』別名『始まりの街』
冒険者からは『始まりの街』の愛称で親しまれ、NPCからは『双丘の街』として知られている。『双丘の街』の由来が、街を出て南西に向かうと名の通りの双丘があるためだ。街の観光名所ともなっている。モンスターの出現率は低く、毎年春になるとそこでお花見をやるそうだ、時期的はあと一月か二月もすればそのイベントが開催されるだろう。
それはそれで楽しみである。
南口の門から北西に進むと商業区があり、さらに北西に進むとギルド会館と呼ばれるギルドの元締めをしている大きい施設があった。
「ここがギルド会館だ。主な役割として冒険者の登録だったり仕事の斡旋だったり、新しいギルドの認定だったり、ダンジョンへ行くための入場券を発行してくれたりと挙げたらきりがないくらい利用する大切な施設だからしっかり覚えておけよ」
ギルド会館の異常なまでに大きな扉を開けると外観からは想像も出来ないほど中は広く、仕事の難易度事にカウンターが違い、それぞれ受付のお姉さんが待機していた。
グレイ曰く、登録するには入口近くにある一番大きな窓口で登録が出来るそうだ。その場所へ目を向けるとまだ登録途中の冒険者見習いたちが数多く集っていた。
「ギルドってもっと酒臭い場所だって思ってた」
「それは小説の読み過ぎだ。お前も銀行とかがそうだと嫌だろ。ある意味この世界での公務員みたいなもんだよ。それにここでは銀行のような仕組みもあるし、店で売らないアイテムなんかの買い取りもやってるしな」
この世界の公務員か。グレイの例えが面白かったのかカノンはクスっと笑った。
「それにしても凄い人数だね」
「そうだな、俺達テスターはすぐさま登録を済ませてるからあれだけど、初見の連中はああやって並ぶしかない。お前も諦めろ」
「あれって並ぶ必要あるの?」
「いくらNPCとはいえ、人間のパーソナルデータを基にしてある種本物の人間と変わらない。つまりだ、本物の受付嬢があんな人数どうやって捌ききるかって話だよ。一人ずつ相手するに決まってるだろ」
「妙なところはリアルなんだね」
「ま、そこがいいだろ。それにあんまり人工知能っぽいつうかロボットっぽい、まあ、機械的な対応されてもただそれで終わるだけだろ。けどさ、かなり人間に近い人工知能が搭載されてる彼女らは人間ぽく親しみがわきやすい」
「確かにね。ゲームだから機械的でもって意見もあるでしょ」
それを言われたらおしまいだと言わんばかりのグレイは両手を挙げながらケラケラと笑う。
「ま、確かにそうなんだけな。それでもそんな細かいところまで気を巡らせてるゲームってのは自分の居るべき場所のように感じられて愛着が湧くってもんだ」
「そういうもの?」
「そういうもんだ。お前もこのゲームをやっていればいやでも分かるようになるさ。それよりもそろそろお前の番だぜ」
グレイと会話しているうちに列は進みいつの間にか自分の順番となっていた。
「登録したいのですが」
「冒険者登録ですね、承りました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「カノンです」
「カノン様ですね。職業は何をなさっていますか」
その質問にグレイの方を見ると
「この場合お前のなりたい職業だったり、今お前が持っている職業技能でも構わない」
「因みにグレイは?」
グレイに尋ねたつもりだったがそれよりも早く受付のお姉さんが答える。
「グレイ様は騎士をなさっているそうですよ」
その返答に笑いそうになるが我慢して自分の職業を答えた。
「僕は薬師をしています」
「これは珍しいですね、女性の方の薬師はあまりいませんから」
受付のお姉さんがカノンを見て女性だと断言するとカノンは苦虫を噛み潰したよう顔をした。
「では、登録致します。説明の方はグレイ様にお任せしても?」
「ああ、いいぜ」
本当に人間的だとカノンは思った。
<ステータス>
名前 カノン
種族 咎人
レベル 1
HP80/80
MP40/40
攻撃力5
防御力1
魔法攻撃力2
魔法防御力1
回避力7
速度7
技術力4
幸運1
所持金0ガルム
貯金0ガルム
固有技能
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
なし
既存技能
【投擲】レベル1 【採取】レベル1
職業技能
【薬師】レベル1
<装備>
武器 なし
武器 なし
盾 なし
頭 なし
胴体 薄汚れた衣服
腰 なし
脚 壊れかけのサンダル
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし