花火の後のかき氷
当作品は作者が以前、「エッセイ村へようこそ」の夏企画に参加した際、七草せりさんから頂いたタイトルを元に創作したものです。誤字脱字などに若干の修正を加えています。
「おっちゃん、カキ氷ひとつ!」
「あいよ、三百円ね」
今年も夏恒例の花火大会が終わり、上げていた興奮と熱気の余韻がまだ残る中、私は今年も知り合いのおっちゃんが開いているカキ氷の屋台に立ち寄った。
ちなみにどうでもいい話だが、ここのおっちゃんは普段は酒屋をしている。
毎年花火を見終えた後にここのカキ氷を食べるのは、もうずっと小さい頃から続く恒例行事のようなもので、花火大会から帰るときには必ず寄っている。
あんまり長く続いているものだから、元カキ氷のお兄ちゃんは、すっかりカキ氷のおっちゃんと化してしまい、代わりに私はうら若き乙女へと変貌を遂げてしまった。
「へいおまちっ!」
デンと目の前に、シロップのかかっていないそのままのカキ氷が置かれる。
メロン、イチゴ、みぞれにレモンと、シロップはどれもかけ放題であるものの、選ぶ味は昔からブルーハワイ一択と決めてある。
理由はただなんとなく。青だし、ブルーだし、その方がより夏っぽい気がするのだ。
シロップだくのカキ氷を手に、適当に道路の柵に腰を落ち着けてカキ氷を食べはじめる。
――シャク、シャク。
口に入れたカキ氷が、熱気で火照った体を冷ましてくれる。頭にジンとくる痛さが襲ってくるけど、それでも心地いい。
しかし、氷をただ削ったものに、タダ同然のかけ放題のシロップ。元価を考えると牛丼とほぼ同額の三百円でどれだけボッタクっているのだろうか。
そんな野暮な考えを抱いたのは、いつの頃からだったか。
私もお兄ちゃんがおっちゃんになったどうのこうのなんて、人の事をとやかく言えないな。
煤けてしまった心を洗うべく、楽しそうにしている人達でも眺めていよう。
カキ氷を食べつつ、ふと道行く人や屋台にぼんやりと目をやる。
花火を見終えて帰ろうとしている客は往来に建ち並ぶ屋台に足を止め、屋台の側は最後のかき入れ時とばかりに威勢の良い声を飛ばす。
花火は終わってしまったものの、人も屋台も誰もが、まだまだ活気に満ち溢れている。
(お祭りは、帰るまでがお祭りか)
ふと、そんな考えが自然と浮かんだ。
たとえメインの花火が終わったとしても、最後の最後までお祭りを楽しもうとしているのかもしれない。
――グイッ。
カップの底に溜まるほぽ溶けているカキ氷を一息に飲み込む。
あー、頭痛の大きいのが一気に来たわ。
おもむろに柵から立ち上がる。
「さあ、明日は仕事だ。頑張ろう」
近くにあったゴミ箱にカップを投げ捨て、私は家に帰る人波の中へと進んで行った。
【当時のあとがき:原文まま】
花火には、牡丹や菊や蜂など様々な種類がありますが、皆さんはどれが好きですか?
私は柳です。あの花開いた後の枝垂れた金色の火の尾に、風情を感じるのです。
七草せりさんのこのお題を貰ったときから、お祭りでの打ち上げ花火とカキ氷の絵が浮かんできました。
花火の後=お祭りの終わり ということでセンチになる所を、あえて明るく締めてみました。
「や」まなし、「お」ちなし、「い」みなし、の三拍子そろった空気系の作品に仕上がったのですが、読んでくださった皆さんはいかがだったでしょうか。