美少女を助けるときに、下心が1ミリもない人って、本当にすごいと思う
「おい、あんた。その子、嫌がってるだろ」
可愛い女の子が、一昔前のヤンキーみたいなダサい恰好をした男に絡まれていたので、俺は見かねてつい声をかける。
「なんだ、お前。関係ねぇやつは引っ込んでろよ」
男には用はないと言わんばかりに睨んでくるダサ男。
……目つき悪いな。
「関係ない……だと? その子は俺と同じ学校の生徒……」
だと思っていたが、よく見ると若干俺の通う高校の制服と違う。
「――ではないが……君、どこ中出身?」
俺は女の子に訊ねる。
「……えっと、すぐそこの西中ですけど……」
女の子は小声でそう呟く。
西中か。ああ、校舎がきれいで素敵な学校だね。……俺は東中だけど。
「じゃあ、どこに住んでる?」
「……四丁目、です」
なるほど、四丁目か。景観がグッジョブな良い通りだよね。……まあ、知らんけど。
「じゃあ、趣味は?」
「読書です」
文学少女ー!
「なら、誕生日」
「八月です」
夏休み、サイコー!
「好きな食べ物」
「パセリ」
ベジタリアンー!
「得意教科」
「英語」
アイ、キャント、スピーク、イングリーシュ。英語の成績常に2!
「休日何して過ごす?」
「友達と買い物とか、勉強とかですかね」
いいね、君。そういう流されない人、嫌いじゃないよ。
だから俺は助けるよ。君のことを。
「ふっ……同じ人間同士、関係ないわけないだろ!」
「共通点ゼロかよ! ってか、それだったら俺も同じ人間だし!」
……えっ? 人間? マジで?
「何、その顔っ! 俺のこと何だと思ってたんだよ!」
「人間のフリして、嫌がる女子高生に無理やりハレンチなことしようとしてた変態生命体」
それ以外、何が考えられる。
「そんなことしねぇよ! ちょっとカラオケに誘ってただけだ!」
「誘う? おいおい、路上で卑猥な表現は慎めよ。通報されるぞ」
「どこが卑猥だよ。普通に放送可能用語だよ。ってか、お前舐めてんじゃねぇぞ! 喧嘩売ってんのかっ!」
暴力で解決しようとする。まさに獣の考えじゃないか。
ここは、理性的な対応をすべきだな。
「おい、止めとけ。後悔することになるぞ」
「はっ、今更ビビってんのか?」
はっ、ビビッてねぇーよ。
この足の震えは、いわゆる武者震いだ!
「いや、俺の父親はな――」
「まさか、警察官?」
焦るダサ男に、俺はこう告げる。
「市役所に勤めている!」
「安定してるな馬鹿ヤロー! だから何だよ!」
……ったく、これだから、最近の若者は。
人の話は最後まで聞けよな。俺も若者だけど。
「まあ、最後まで話を聞けよ。俺の父親の上司の娘の旦那の弟が、警察官だ」
「赤の他人じゃねぇか!」
そこに気づくとは、こいつ意外と頭良い?
だが、この状況でただの赤の他人のことを取り上げるわけないだろ。
「残念だったな。その警察官とは面識がある」
「知人なら、そう言えよ!」
……ごもっともで。
「あ、そういえば、この間、殉職……じゃなくて、転職したって聞いたな」
「いやいや、そこ間違えるところじゃねぇよ! 二階級特進しちまうだろ!」
詳しいな、こいつ。まさか警察官志望?
「安心しろ。今は元気に家業を継いでいるそうだ」
「心配してねぇよ! おまえが勝手に死んだことにしたんだろ!」
何言ってんだ、この人。
困っている女の子を助けようとしている俺が、そんなことするわけないだろ?
「何、理解できませんって感じに首を傾げてんだよ! 何か俺が変なこと言ったみたいだろ!」
ダサ男がまたキレる。
……それにしても、よくツッコむな。
「はっ、まさか、芸人志望?」
「いや、お前の所為だよ!」
はぁー、はぁーとなぜかお疲れのようだ。
「息荒いぞ。大丈夫か?」
「……ったく、ふざけるのも大概に――」
と、不意に男性の声がした。
「おい、君たち、こんなところで何をしている!」
げっ、警察官!
「ヤバっ! 逃げろ」
「って、なんでお前が真っ先に逃げるんだよ!」
「バカヤロー。公務員の息子が補導されるとか、マズイだろ!」
「いやいや、お前、絶対やましいことあんだろ」
結局、女の子は置き去り。
そして警察官から逃げ切った俺とダサ男は、意気投合し、友人になったのだ。