表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私と彼と彼女

 



「…好きな人ができた。」

「…‥そう」



 いつか言われるだろうと分かっていた。それでも構わない、そう思っていた。

 覚悟はとっくに出来ていると勘違いしていた自分に自嘲の笑みが零れた。生憎、彼は私の瞳を見られず下を見ていたから、気づかれなかった。

 今も彼は私に恨まれはしないか、噂を流されはしないかと怯えている。馬鹿な男だ。でも、一番馬鹿なのはそんな男に縋りついて、いつまでも別れを切り出せなかった自分だ。

 タイミングは沢山あった。彼が〝彼女″とメルアドを交換した時、私が急用で二人きりで帰った時、〝彼女″が私の代わりに入院のお見舞いに行った時。その度に彼が〝彼女″に惹かれていくのが手に取るように分かったのに。そして、〝彼女″もまた彼に惹かれていくだろうと分かっていたのに。



 告白したのは私の方からだった。始めは、クラスの人気者という程度にしか気に留めていなかった。

 休み時間にクラスの連中とサッカーをして騒いでいる姿を見て、羨ましく感じた。そんな無邪気になれるほど、自分を解放することができなかった。親の期待や女友達との駆け引きに振り回されて、日に日に精神が疲弊していくのが分かった。彼の無邪気さは私の目に眩しく映った。

 放課後に居残って宿題をしていた自分に彼は声をかけてきた。一度も会話をしたことはなかったので、とても驚いた。

 当たり障りの無い話をして、時が過ぎ去った。こんなに肩肘の力を抜いて話せたのはいつ以来だろうか。それからも何度か彼と放課後に話をした。誰もいない教室でどうでもいい事を話をしただけで、ほっと心が落ちついた。

 少しして、私から告白した。彼女が欲しいとぼやいていたのもあるし、私と彼は気の知れた友人の関係をしっかり築けていたようだ。

 クラスの皆には驚かれたが、放課後に残っているのを見た事がある人が何人かいたようで、すんなりと受け入れられた。

 半年ほど経った頃、彼の話に〝彼女″の名が出てくるようになった。何の当たり障りの無い事だったり、ちょとした出来事だったり。どうやらまだ無意識のようだが、〝彼女″のことが気になっているようだ。

 気づいてから、心の奥にどす黒い澱が降り積もっていくように感じた。逃れられない何かに追われる毎日に、眠れない日々が続いた。濃い隈と痩せた身体に異変を感じた友人が、私に尋ねたが、曖昧に言葉を濁した。私の中にこんな感情があることを知られたくなかったのだ。

 彼も自分の中に〝彼女″への感情に気づき始め、私と会う回数も減っていった。私と会う度に浮かない顔をして、上の空な反応が多くなった。クラスで〝彼女″と楽しそうに会話する彼に表面状は装ったが、心が冷たく凍っていく気がした。彼と付き合い始めてから、彼が無邪気なだけでなく、ずる賢い所もあることに気づきもしたが、彼を思う気持ちが変わることは無かった。私はどんどん〝彼女″に惹かれていく彼に、別れを切り出す勇気を持てなかった。

 ずるずるとただ引き伸ばしていだけなのかもしれない。

 結局、彼から別れを切り出された。自分から言う事は出来なかった。それは自分のエゴなのだろう。

 言われてからも何処で彼との関係を繋げる手段を探してる。

 俯いたままの彼に声をかけた。


「恨んだりしないし、誰かに大っぴらに言うつもりもないわ。安心して。」


 本心、だった。そんな格好悪い真似をしたくはなかったし、自分がそれを許さなかった。

 昔から性格が男前だとよく言われたが、こんな所で発揮しなくてもいいと自分でも思うのだけれど。

 つい冷たく言い放ってしまったのは、仕方の無いことだろう。


「さよなら」



 視界の隅に彼の驚いた顔が見えたが、私は振り返らずに教室を出て行った。




始めての投稿です。拙い文章ですが宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ