地獄
「はぁ、はぁ。」
ここは例えるならまさに地獄だ。
破壊された建物が並ぶ廃墟とかした街。
横たわる直視できないくらいひどい状態の大量の屍。
漂う死臭と砂煙と鉄のにおい。
遠くで響く爆発や銃声、そして人の痛々しい断末魔。
そんな地獄を歩いている青年がいた。10代後半で汗や土、血で汚した顔は整っており美形であった。背中にはライフルを背負っている、おそらく兵士だと思われる。
彼の名は「十勝 直樹」一等兵。
彼は元々、第23大隊に所属していて、この市街地の攻略に当たっていたが、2時間前に敵の大反攻を受け、戦線は崩壊、第23大隊も大被害を受けた。
その時十勝は逃げた。必死に逃げた。もう息が苦しく、体力が無くなっても逃げ続けた・・・
そして十勝は本隊とはぐれ、この地獄に取り残された。
「はぁ、はぁ、みんな・・どこ?・・どこにいるの?」
彼は半泣きであった。あたりを見渡してもあるのは同じ景色だけだ。
恐怖と不安で覆いつくされかけたが彼は必死で「大丈夫だ」と自分に念じた。
すると近くで爆音がした。それと同時にキャタピラの音もした。
「せ・・戦車か!?」
十勝は慌てて今歩いている大通りから裏道の瓦礫の物陰に身を潜めた。地響きとキャタピラの音がどんどん大きくなり、近ずくいて来るのがわかった
十勝は息を殺し、通り過ぎるのを待った。
しばらくすると、地響きが小さくなっていくのがわかった。
「よかった。はぁはぁ」十勝は安心して表に出た・・しかし。
激しい爆音がすぐ背後でなった。直接心臓に伝わってきた。
十勝は後ろを振り向いた。すると曲がり角から発砲しながら逃げる味方が見えた。そして、砲撃音からすぐ、彼らは一瞬バラバラに吹き飛びで「生き物」から肉の塊という「物」になった。
「やばい!」十勝はすぐに身を潜めていた裏道から裏裏裏のコースで逃げた。
パパパンッ
目の前にあった空き瓶が砕け散った。誰かが自分に発砲しているのだっとすぐにわかった。
十勝は裏道を左に右に逃げた。十勝はこれで巻けると思ったからだ。
はぁはぁはぁ。完全に息が上がっていた。十勝は後ろを見た。自分に発砲していた敵兵はいなかった。
十勝は少し安堵した。
十勝はまた表通りに戻ろうとした時誰かに手を引っ張られた。
「!?」驚く暇もなく引き止められた、引っ張った奴は服装は我が軍で顔を見ると30代後半の渋めの男であった。
「敵がうじゃうじゃいる大通りに行くなんて、お前はアホか」
男は真剣な顔で言った。十勝は怒鳴り声以外で相手に圧倒されたのは生まれて始めてであった。
「まあ、死にたいのなら別だがな。」
今度はさっきよりは穏やかな?顔立ちで言った。
「まあ、あんな必死に逃げている様子だと死にたくはないみたいだな。」
「あ・・当たり前であります!」十勝は答えた。”ありますと”つけたのは階級章が”伍長”でからである。
「そらぁそうか。ついて来い、本隊のところまで案内してやる。お前みたいな奴は命がいくつあっても足らん。この地獄ではな。」
十勝はその男に付いていくことにした。
「そういえばまだ自己紹介がまだだったな。俺の名前は”木村 明”伍長だ。」
「十勝 直樹上等兵であります。」
「お前、いくつだ?」
「今年で18になるであります。」
「そうか」などと会話をした。ずっと一人で地獄をさまよっていた十勝は安心していた。
「あとはここを右に曲がりそのまままっすぐ行けば本隊本部だ。」
「はい!」十勝は喜んだ。やっとこの地獄を一人でいなくてすむと。
すると上からプロペラ機のエンジン音がなった。友軍機だ。市街地はすでに制空権は敵に落ちているはずだから、やっと戻ってこれた安心した。
「ん?あの機体・・様子が変だな?」木村はつぶやいたがもうすでに遅かった。
友軍機を猛スピードで追いかける。そして機銃を放ち打ち落とした。
「くそ!もうすでにここまで進行されていたか・・ん?どうした十勝上等兵?」
十勝は目はさっきまで希望で溢れていたが今は絶望に染まって立ち尽くしていた。
「そんな・・やっと帰れると思ったのに・・母さん・・」
「ええい!十勝!逃げるぞ!もうすぐ敵の部隊が来るぞ。」
「母さん・・母さん・・」
「・・!くそ!着やがった」木村は敵の大部隊を確認した。もうすぐで到着すると思われる。
「・・・十勝・・よく聞け。"殿"は俺がやる。だから今のうちに逃げろ」
「!」この言葉はいまの十勝でも聞こえた。”殿”とは敵の進撃を食い止める時間稼ぎである。つまり、生きている保証はない。
「この規模じゃ本隊は全滅しちまう。俺一人で足止めして大勢の兵が助かるのなら安いものだろ?」
「でも、そんな事したら・・木村伍長は・・」
「お前は軍人だろ!!軍人なら上官の命令を素直に聞け!!」木村は十勝に向かって怒鳴った。
「・・・わかりました。」十勝はその場を離れ、本隊本部に向かった。
「・・・はぁ、また先のことを考えずにこんなこと言っちまった。」木村は背負っていた機関銃を構えた。
「まぁいっか、どうせもう、”二度”とこんなこと言うことはないし。」
木村は機関銃を乱射した。
時はしばらくたち、戦争も終わり、十勝は自宅にいた。
「・・・・」十勝は涙を流し黙っていた。自分を助けてくれた恩人を見捨ててしまった罪悪感と・・
木村伍長、私はあなたみたいな目をした兵士を見たことがあるんです。その兵士は戦友を失い、死にたがっていました。そうです。あの目は死に場所を求めている目です。木村伍長の率いていた第26小隊は前回の市街地戦で誤った指揮を出して、あなた以外全滅しました。仲間を自分のせいで失った悲しみで死にたがっていたのでしょう。
そして十勝の脳裏にあの言葉が流れた(死にたいのなら別だがなって・・死にたいのはあなただったじゃいですか)
外に目をやると子供たちが元気よく遊んでいた。
今回は登場人物の会話よりも背景に力を入れました。舞台や時代背景は特に決めていませんが、一応第2次大戦をイメージしています。