流星博士と満腹サプリ
ある日、ひとりの太った男が流星博士の研究室をたずねてきた。風のうわさに、博士がすごいものを発明したと聞いたからである。
それは、たった一粒で満腹になるというサプリメントだという。
それがあれば、きっと自分の悩みも解決すると思ったのだ。
男は見るからに肥満体だった。車を降りて研究室の玄関先まで歩くだけでもひいふう言っている。
そこまで太ってしまったのも、食べすぎが原因なのはわかっている。しかし、食事量を減らせといわれても、なかなかそれができない。
そのサプリメントがあれば、お腹が鳴るのを我慢することなく食事制限ができるというものだ。
希望に満ち溢れた目と、脂肪に満ち溢れた体で、男は扉を叩いた。
「すいません、流星博士はおられますか」
「なんじゃ?わしがまさに流星博士じゃが」
「こちらですばらしいものを開発したと伺いまして。一粒で満腹になるという・・・」
「おお、そのことか。確かにここにそのサプリメントを作る機械はあるぞい」
男は目を輝かせ、汗ばんだ両手で博士の手を掴んだ。
「あの、ぜひそれを作っていただきたいんです!」
博士は少し迷惑そうに手を見つめながら、「わかったわかった」と言って男を中に招き入れる。
招かれた部屋には、大きな機械が設置されていた。一見ただの四角い箱のようだが、上には何かを入れるような大きなすり鉢状の穴があり、下にはおそらく錠剤が出てくるだろう小さな穴と受け皿がある。
ハンカチで手をぬぐいながら博士は説明を始めた。
「これが、満腹サプリ製造機じゃ」
「はあ、どのように使うんでしょうか」
上の大きな穴を指して、博士は言う。
「ここから食材を投入すれば、その受け皿に出てくる仕掛けになっておる」
ふむふむと男は話を聞いた後、こう質問をした。
「それで、どのような食材を?」
「そりゃおぬしが好きな食材を、いつも食べておる量ほど入れればよいのじゃ」
そう聞いて、男は眉をひそめた。
「いつもの量?それで・・・その分の栄養はどうなるんで?」
そこがこの研究の核心であると言わんばかりに、博士は得意げな笑みを浮かべた。
「食材が小さな錠剤に凝縮されるだけで、栄養価もカロリーも一切変わることはないんじゃ。つまりまあ、腹いっぱい食べたのと全く同じ効果があるわけじゃな」
男は考えた。つまりそれは、たくさん食べているのとなんら変わりがないということだ。錠剤一粒で、いつも食べている分食べたことになってしまうなんて。
「それではなんの意味もない!」
さっきの低姿勢とは打って変わって、男は憤慨の声をあげる。
同じ太るならまだ、ちゃんと美味しいものを味わって食べたほうがよほどマシだ。
「なんと役に立たない研究なんだ!私は帰る!」
男はどすどすと足音を立てて勝手に帰っていってしまった。
流星博士は、なんのことやら、と首をかしげて見送った。
ちなみにその発明は、忙しくて食事をとる暇もないサラリーマンの間で好評だという。