8. 目覚めさせるもの
二日目の始まりです。
自分の強みは知っていた。
冷静さ。
そして、耐える力だ。
血への渇望は強い。
それはもはや呪いといっていい。
神が与えた「死を免れるもの」に対する呪いだ。
血を求め、全身が渇きを訴える苦痛。「渇きの呪い」とでも言うべきか。
その餓えと渇きに支配されやすい同族の中で、常に冷静でいられること。
常に自分を保てること。
それこそが、この呪いを受けた我が身を守り続けてきた長所なのだと知っていた。
だから、冷静に振り返る。
昨夜の狩りを振り返ることができる。
当初の目的はほぼ達成した、と考えていいだろう。
僅かだが、餓えと渇きを満たした。
望んだ男を手に入れた。
少し面白い少女がいて、多少目移りしたが、あれを屠ることは、目的ではなかった。
この地にあり続ければ、また、まみえることもあるだろう。
だから、そのことへの不満はない。
それよりも。
昨夜の獲物の方が、興味深い。
暗闇の中にあってなお、異質さを際だたせていた「闇」。
殺す。すなわち死を与えること。
そして、死に抗する甦りの力を与えること。
この呪いを受けた者にとって、そのふたつは相反しない。
同族を増やすことは、自分の勢力を拡大するという目的に対して合目的的だ
だが、数を増やすということは、敵対する存在に対して目を引きやすい、とも言える。
だから、単純な工夫が活きる。
そのための計算が役に立つ。
己を省みて、常に冷静な判断を下す。
そのために必要なのは、やはり耐える力なのだ。
終わりのない苦痛に耐え、耐えて、耐え続ける力。
その拠り所となるもの。
あの男は、それを持っているかもしれない。
それを考えるとき、身体を流れる冷たい血流が、ほんの少し熱を取り戻したような気がした。
もちろん、まだ結論は出せない。
今はまだ単なる印象の問題でしかない。
彼が同族として望ましい存在足りえるのか、それは彼自身が証明して見せなければならない。
夜が終わる。
目覚めの時間は終わり、眠りの時間が始まる。
悪夢のような現実が終わり悪夢が始まる。
いや。
眠っていようと現実であることに変わりはないのかもしれない。ただ、身動きがとれないというだけで、世界は悪意を持って動いている。
それはこの呪いを受けた身には抗いようのないこと。
この大地を陽光が炙っている間は動くことはできない。
幾重にも閉ざされた暗闇の中、それでも世界が太陽に炙られているのを感じる。
自分には一筋の光さえ当たっていないのに、陽光が皮膚を炙ろうと舌なめずりをしているのを感じる。
動けない。
完全な不死者たる自分だからこそ、禁忌は容赦なく襲ってくる。容赦なくこの身を呪われたものとして峻別する。
だから。
暗闇の中で見えざる陽光に焼かれながら、別の暗闇を見据える。
望んだ男ともうひとりの男。
条件は同じだ。
さあ。
戦ってみせろ。
そして、自分の価値を証明して見せろ。
誰にも聞こえぬ呟きを漏らしながら、「彼女」は暗闇の中、一人ほくそ笑んだ。