開設します。異世界現象課 相談窓口
「えー…これまで市民生活課で相談窓口を設置し、案件解決まで包括的に行なっていたが、毎週毎日のご相談に対して、生活課の業務が滞ってしまい、職員からも面倒臭、いや、専門部署を立ち上げて解決すべきだとの声もあり、さらに市議会の圧力…嫌、市民の皆様からのご要望も大きく、来年度から異世界現象に対する窓口を別途用意することとなった。まぁ、つまり来月の一日です。」
しらーっとした空気が庁内大会議室に響く。一般窓口閉窓後のことである。
参加者は主任以上の中間管理職と助役だけであったが、会議室は無駄に広く豪華である。なんというかバブル時代におっ立てた、権威を目に見える形で装飾しゴテゴテした気味の悪い会議室でとにかく落ち着かない。
時は3月の中頃、とっくに内々での人事は決まり終わっていたはずだが、ここに来て急な助役の発表に市役所中間管理職一同、恐れ慄く戦慄のお告げであった。
「何を今更…」と心の中で全員舌打ちしたに違いない。
1年間必死に業務を覚えながら諸先輩方の嫌味に耐えようやく後輩ができるかもしれない新人職員も、この時期になると誰がどこに 異動するのか、必死にアンテナを張って情報収集に全力を注ぐ、「歩く人事異動ワイドショー」と呼ばれる主査も、皆、はっきりと移動したくない部署があった。
今日まで正式発表されたわけではないが、そこはつまり「人の口に戸は立てられない」というやつである。いつになっても内示がないので本当に新設されるのか疑心暗鬼なところ、やっぱりといった手前ではあるが、それはそうと全員がしれっとした面持ちで嫌な会議室のこれまた嫌な装飾を見つめている。
心中、舌打ちの意味はすっとぼけ人事異動ではなく、その移動先になる新設課、「異世界現象課」である。
遡ることここ数年、北足界市では怪奇現象とも呼べる事故が起きるようになってきた。最初はあまりに現実離れした現象に、案件を持ち込まれる市としても、ろくに現場検証を行うわけでもなく、また専門部署でもなく…現実離れすぎて警察も門前払いであったのだが。
しかし次々起こる奇々怪界な事象は無視できない状況となり、とうとう市内にある大学教授のとある発表からこう位置付けられたのである。
「異世界現象」
それは大学の有権識者、市議、各自治会会長、市長の後援会などなどのご意見により、行政で専門的に解決にあたるほど、市民の生活に影響を及ぼしていると。
つまり、市役所でなんとかしろ。というわけである。
こうして異世界現象課ご相談窓口が設置されることとなり、どこの部長も回れ右をして「触らぬ神に祟りなし」の態度を示し管掌するのを露骨に嫌がった結果、とうとう市長直轄となって設立に至るわけである。
助役の発言に誰も返すわけでもなく、表情と雰囲気でやり過ごしていた。当然、その空気を予想していたのか、リアクションを期待しているわけでもなく、自分で沈黙を破りに行くのであった。
「というわけで、新任の課長は現在生活相談課の主任、無石くん。来月から異世界現象課初代課長よろしく!」
会議参加者全員の目が無石と呼ばれた中年の男に向けられた。続いて安堵の空気まで送りつけてしまった職員もいるが、無意識にて責められまい。
名前を呼ばれたのに自覚があるのかないのか、聞いていなかったのか、呼ばれた本人はしれーっと虚空を見つめたまま、「ん?」と小さく声を漏らすだけであった。
続く
助役・・・副市長
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