第一話後編「努力と劣等感」
今回で第一話終焉です、ここまで見ていただいて感謝致します。
風呂から上がり、朝ぶりの自室に戻った。
湿った髪から落ちる水滴の音が、妙に響く。
机、ベッド、本棚。
男子高校生の部屋ってのは、たぶんどこもこんなもんだろ?
俺はアルテリヤに余裕を持って勝てると思っていた、でも...
『あと死ぬな~?今のコージの実力だと普通に死ぬ可能性あるからさ?』
あすちゃん先生に言われた、あの言葉...飯食ってる時も
風呂入ってる時も、俺の頭のどこかにはあった。
「慢心...だったかもな」
俺は本棚から一冊引き抜く。
『魔導書・氷』──ありふれた、安物の魔法指南書。
アルテリヤの魔力の流れ、あの冷気の揺らぎ。
多分、氷の魔法適性高めのAランク。
対して俺は、無属性適性のFランクか...。
冷静に考えりゃ...部の悪い賭けだ
俺の手札は4つ、体術と子供でも使える無属性魔法3つ
まず手札の数が違いすぎるわな。
それでも、アイツを泣かした
アルテリヤは許せねぇし許さねぇ。
だから、少なくとも負ける確率を0に近付ける、
その為には、相手の手札を少しでも知る所から。
「それにしても...高校生活初めての宿題が、“俺が勝つ為に”か...。」
本を読み始めて、何時間経っただろうか?
自分のスマホを取り出し、時間を確認する──23:49
俺が風呂出て、部屋に戻って来たのは確か10時前...。
あ~、もう2時間も経ったのか...。
他の部屋から物音一つしねぇし、2人共寝ちまったか?
そんな時、扉からコンコンと音が鳴る
あすちゃん先生...冷やかしにでも来たのか?
俺は扉を開け、その来訪者を迎える。
そこに立って居たのは、ヒナだった。
「あ、浩次くん...起こしちゃった?」
「ん?あぁ、勉強してたからモーマンタイ」
普段なら、ヒナはもう寝ているはずだった。
だからこそ、この場にヒナが居るのに驚きを隠せない。
俺が驚いている事を汲み取ったのか、ヒナは少し笑う。
「ちょっと、寝むれなくって......その...。」
「じゃあ、ちょっと話でもするか?」
並んでベッドの上に座る。
小学から今まで、こういう事は少なかったがありはした。
ただ、少し心が大人になろうとしているのか...何故か少し気まずい。
この場の静寂を切り開く様に、ヒナは言葉を発した。
「...ごめんね、浩次くん...こんなことになっちゃって」
謝罪、その言葉は俺の心を締め上げる。
謝らないでほしい、俺はお前に牙を向けさせた
普段の俺なら、お前に牙を向けさせず、その牙を叩き折ることだって出来た。
計算しつくして、作り上げた状況なんだ...我ながら反吐がでる。
「あ~、何の話だ?」
とぼけんなよ、俺はわかってるだろうが。
コイツは、俺とアルテリヤが殺り合う事になったことを
自分の所為だと思ってるって、罪悪感でコイツは押し潰れそうになってるって。
「...浩次くんが戦う事になったことは私の所為だって思ってる」
ヒナの指が、パジャマの裾をきゅっと握る。
「私はずっと護られてばっかりで......私のせいで、浩次くんが傷つくのは
嫌なの...なのに...なん、も...できなぐってぇ...」
声は震え、今にも涙が零れそうになっている。
「ちげぇよ!!...お前は、何にもできなくなんかねぇ」
声が荒くなった。
喉から声が溢れ、止められなかったんだ
「お前は俺の前に立った。
魔法から俺を庇ったじゃねぇか」
「でも……私は浩次くんを巻き込んで──」
「俺が勝手に顔突っ込んだんだ、気にしてんじゃねぇよ」
そしてヒナは俺の手を取ると、俺と目を合わせる。
「お願い、浩次くん...あした、無事に帰ってきて」
その目からは、大粒の涙が一つ流れ落ちた。
心臓を掴まれたみたいに、苦しくなる。
「おう、俺はめちゃ強だからな!約束するぜ」
──約束できる保証なんて、どこにもねぇけどな。
単純な強がりだが、こうしないとコイツはもっと泣く、
コイツの涙は、もう見たくない。
「学校でも言ったろ?大丈夫、俺に任せとけ!」
ヒナは泣きながら微笑んだ、少し無理させてしまったかもな。
ヒナが俺のベッドで寝静まったあと、握られた手は離れなかった。
離れないでと、俺に訴えるかのように...。
だからこそ、俺はその小さな手を、そっと包む。
大丈夫だ。そう伝えるみたいに。
──作戦は決まってた、明日は大分厳しい
賭けになるかもしれない、アイツに心配かけるかもしれない、だからこそ...絶対に勝ち切らなければならない。
第一話「魔法社会の落ちこぼれ」完
第二話「努力と凡人、才能と天才」へ続く
次回、第二話前半
「劣等生 と 天才」




