カメレーオ
ある日、カメレオン型の妖魔が街で暴れていた。
その名はカメレーオ(Cameleo)。
「ケケケケ! もっとだ! もっと暴れたりないケ!」
カメレーオは口の中の舌を伸ばし、電柱を引きづり倒した。
人々は妖魔の恐るべき力に逃げ惑う。
カメレーオは人々がただ逃げ惑うのを見ると、調子に乗った。
カメレーオに対抗できる人間などいるわけがない。
カメレーオは前面にトゲをたくさん作った。
それを車にカメレーオは撃ち出した。
車がたちまち穴だらけになる。
カメレーオは残酷な顔を浮かべると、闊歩していった。
カメレーオが街で暴れているという情報はイル・チエーロに届いていた。
一人の少女がスマホから連絡を受ける。
その少女はセミロングの髪に、メイド服を着ていた。
「……わかりました。イル・チエーロはすみやかに妖魔の殲滅に動きます」
少女はジャンの携帯に電話をかけた。
「こちら、ヴィルヘルミーネ(Wilhelmine)です。妖魔が街で暴れています。すみやかに出撃すべきかと」
「わかった。こちらで動く。天音に出撃準備をさせておけ。ああ、それと」
「? なんでしょう?」
「今回はカズマも連れて行く」
「カズマさんもですか?」
「ああ、ちょうど実戦を見せようと思っていたころだ。戦わせはしないが、戦いを見せるくらいなら大丈夫だろう」
「わかりました。そのように手配いたします」
「頼むぞ、ヴィルヘルミーネ」
「ふう……一人の新米退魔師が参加ですか。まあ、天音さんが同行するなら大丈夫でしょう」
ヴィルヘルミーネは今度は天音の携帯に電話をかけた。
妖魔が暴れている。
その情報はカズマにも届いた。
カズマはその時素振りをしていた。
素振りは剣術の基本だ。
最高の一撃を出せるようになるには、体に覚え込ませるしかない。
カズマは愚直に型を繰り返す。
これは繰り返し、覚えるしかない。
もちろん、ただの素振りではない。
霊装による素振りだ。
最初のころはなれずに霊装を維持できなかった。
今は霊装を維持しつつ、素振りができている。
最近の訓練はジャンとの剣術である。
主に霊装同士で剣術を覚える。
カズマは日中に訓練、夜に読書という生活を送っていた。
そんなカズマにジャンが告げた。
「カズマ、妖魔が街で暴れている。私たちは出撃する。おまえもついてくるんだ」
「え?」
カズマは最初言われたことが分からなかった。
「今回はおまえは戦闘に参加しない。実際に妖魔と戦うのは天音だ。私はそれを解説する。出撃の準備を整えておけ」
「……今回のは実戦か?」
「そうだ。退魔師の仕事を直接見るいい機会だ。駐車場で待ち合わせよう」
そうしてカズマの実戦見学が始まった。
「あ、カズマくーん! こっちよー!」
「天音さん!」
駐車場にはすでに天音がいた。
天音は巫女装束を着ていた。
「どうして、巫女装束なんですか?」
「これは私の戦闘服なの!」
「そ、そうですか」
「カズマ君、君は私が守ってあげるから心配しないでね」
「は、はあ……」
女性から守ってあげると言われるとカズマとしては複雑な心境である。
それは自分が未熟ということを否応なく突き付けられるわけで……。
カズマとしては天音を守れるようになりたいくらいだった。
だが、今はまだそれに届かない。
今の自分は弱い。
もっと強くなりたい。
天音を守れるくらい強く。
「カズマ君はこの三か月でずいぶん伸びてる。でもまだ実戦を経験させるわけにはいかないわ。今日のところは私の戦いを見ていてね。まあ、私の霊装は弓だからあまり参考にはならないかもしれないけれど」
「そんなことないです! 勉強にさせてもらいます!」
「二人とも、準備はいいか?」
そこにジャンが現れた。
ジャンは茶色のローブを着ていた。
「それでは出撃だ。カズマは後部座席に乗れ。私が車を運転する」
こうして三人は妖魔のもとへと向かった。
カメレーオが暴れることで、街は至る所で破壊の後があった。
自動車は転倒され、窓は割られ、電柱は倒された。
「ケケケケ! 人間どももいなくなったし、もう帰るか」
そこに一台の車が向かってきた。
車はカメレーオの前で止まった。
中から三人が出る。
ジャンと、天音、そしてカズマだ。
「ケケケケ? おまえたちはもしかして?」
「我々は退魔師だ。妖魔よ、おまえの悪行もこれまでだ」
「退魔師! ケーケケケケケケ! 殺しがいがある人間だ! 最高だ!」
カメレーオはむしろ退魔師が来たことを喜んでいるようだ。
こいつはいかれている!
カズマはそう思った。
と同時に、こんな奴を相手にする天音が心配になった。
「カズマ、おまえは私の後ろにいろ。絶対に前に出るなよ?」
「あ、ああ」
「天音、この妖魔のお相手をして差し上げろ」
「ええ、いいわよ」
天音が前に出る。
その姿にカズマは息をのんだ。
天音が全く妖魔を恐れていないことが分かったからだ。
「霊装・具現化!」
天音の手に弓が現れる。
霊子が形を成し、桜色の弓となった。
「霊装・吹雪!」
天音が弓を持つ。
その姿は神々しかった。
この弓には矢がない。
矢は天音の霊力を矢に変換するのだ。
「ケーケケケケケケ! おもしろくなってきたぞ! 死ねえ!」
カメレーオが天音に急接近し、舌を伸ばして攻撃してきた。
天音も人間だ。
あの鋭い、矢じりのような舌先に貫かれたら、お終いだ。
天音は円を動くように足をスライドさせると、そのままカメレーオの舌をよけた。
「霊光矢!」
天音が霊気の矢を放つ。
カメレーオはそれに反応する。
後退すると同時に、回避する。
「ケケケ! 楽しいケ! ヴェルダイ・ドルノイ!」
カメレーオが上から緑のトゲを落下させた。
緑のトゲは雨のように降り注ぐ。
天音はそれを後退してかわす。
一進一退の攻防が行われた。
それを見てカズマは嘆息する。
「す、すごい……こんな戦いができるなんて……」
正直、カズマが天音を守る必要などなかったのだが。
カズマにはこれが実戦なのかと強烈に焼き付いた。
ここで行われているのは殺し合いである。
「よく見ておけ。これが退魔師の戦いであり、仕事だ」
ジャンは霊装スパーダを持ちながらカズマを守るように立つ。
「死ねケ! ペネトレータ・ジェート!」
カメレーオが緑の妖気を貫通する光に変えて撃った。
天音は矢を振り絞る。
霊気が矢に変換されて、収束していく。
さらに天音の矢には月のような光が放たれていた。
「月光撃!」
天音が矢を射った。
月光のごとき輝きを持つ矢がカメレーオの緑の光線とぶつかる。
勝敗は一瞬だった。
天音の矢がカメレーオの光線を打ち破ったのだ。
月光の矢はカメレーオの腹を貫通し、カメレーオを絶命させた。
「ニェニェニェ……」
カメレーオは倒れた。
そのまま粒子化して消えた。
妖魔は倒されると粒子と化して消えてしまう。
カメレーオも例外ではない。
「ま、こんなものかしらね」
天音が霊装を消す。
それから天音はカズマのもとに来た。
「どうだった、カズマ君?」
「すごかったです。俺じゃあ、あんな戦いはできません」
「カズマを連れてきて正解だったな。よし、これで妖魔は退治した。帰るとしよう」
こうしてカズマの実戦見学が終わった。




