霊装
こうしてカズマの修業が続いていた。
修行が一定のレベルになれば、ジャンはカズマに実戦を経験させるつもりだった。
だが、まだその段階ではない。
妖魔との戦闘は命懸けだ。
それは妖魔を狩るのが退魔師だからだ。
退魔師の方が狩られても文句は言えないのである。
そのため、基礎訓練は熾烈をきわっめた。
カズマがそれに応えたのは、それしか生きる道がなかったからである。
それ以外に道がなければ人間は奮闘するものだ。
だが、ジャンはカズマに普通とは違った生き方を示した。
ジャンについて行くことは、カズマにとってもうひとつの生き方を成就することだった。
それは妖魔と戦う道だ。
カズマの修業は順調に進んだ。
もともと才能はあったのであろう。
カズマは簡単な霊気の扱いならできるようになった。
「見事だ、正直ここまで早く霊気を扱えるようになるとは思わなかった」
ジャンは感嘆した。
カズマの霊気制御は完璧に近い。
ジャンが見た生徒の中でこれほどの者はいなかった。
これなら、次の段階に進んでもいいだろう。
次の段階とは霊気を結晶化させた武器を具現化することである。
「よくぞ、ここまで来た。正直、おまえはすごい」
「そ、そうかな?」
カズマはそもそも評価の基準が分からないし、比較の対象もないので分からない。
カズマは親からはあまり褒められなかったので褒められるのに慣れていない。
「おまえには次の段階に移ってもらう」
「次の段階?」
「霊装具現化だ」
「霊装?」
「霊気を結晶化させることによる武器だ。このようにな」
ジャンは右手から霊気の武器を出した。
それはあの時見せた光の剣だった。
「霊装『スパーダ(Spada)』だ。私の霊気を刃としている」
「どんな武器をイメージしたらいいんだ?」
「そうだな、おまえが扱いやすいなら、剣でも槍でも斧でもいい。どれかはおまえが選べ」
「俺が使いやすいもの……なら、刀かな?」
「それならおまえが霊装をイメージしてみることだ」
「イメージ?」
「そうだ。自分の武器を思い浮かべろ。おまえが望む魂の武器を」
「俺の魂の武器……」
カズマがジャンの言葉を繰り返す。
やはりイメージはすでに固まっている。
それは自分が扱う武器は刀だということだ。
カズマは黒い一振りの刀をイメージした。
霊子が形を成していく。
光が刀の形になった。
だが、刀はできずに霊子は消える。
「ああ!?」
「安心しろ。最初はそんなものだ。しだいにイメージを固定できれば自在に呼び出せるようになっていくだろう」
「もう一回やってみる」
「ああ、チャレンジしてみろ」
「刀……黒い刀……」
カズマは霊子を形にしようとした。
今度は前より、刀の形になっていく。
そこには一本の刀ができていた。
「これは……」
「見事だ。それがおまえの霊装だ。名は何とする?」
「え?」
「自分の霊装に名をつけろと言ったのだ。名前があれば簡単に出せるようになる」
「そうだなあ……烏丸って言うのはどうだ?」
「黒いからカラスか。まあ、いいんじゃないか」
「これが、俺の霊装……あっ!?」
カズマが気を抜くと、霊装は消えてしまった。
霊装を維持し続けるには、集中力を必要とする。
「まあ、今日はこれまでにしよう。霊装の訓練は明日以降もやるぞ。今日はもう休め」
「ああ、わかった」
カズマは寮の部屋に帰るのだった。
カズマは部屋でテレビをつけていた。
このテレビは退魔師の給料で買ったものだ。
カズマがテレビを見ていると、ドアがノックされた。
「はい」
カズマはドアを開ける。
「はーい、カズマ君」
「あ、天音さん!?」
天音がカズマの部屋にどういうようだろう?
「カズマ君、最近訓練がんばっているね。私にもわかるよ」
「そ、そうですか」
天音はカズマにとってまるでイル・チエーロのマドンナだった。
憧れの女性だったのだ。
カズマはうまく応えられない自分に嫌気がさす。
どうして自分は女性とうまく話せないのか。
天音のような女性はきっと話術が巧みな男が好みだろう。
「カズマ君は本に興味はないかな?」
「本ですか?」
「そう。本を読むことは頭の体操にもなるのよ。つまり、思考力がつくのね? カズマ君は霊学以外は本を読まないなと思って。さっきまで何をしてた?」
「実はテレビを見ていました」
「うーん、それだと考える力がつかないよ?」
「そ、そうですか……」
「だからさ、本を読んでみない?」
「俺が? 本を?」
カズマは自分の人生で学校の教科書や参考書くらいしか読んだことがない。
天音の提案は新鮮だった。
「まずは日本の歴史から知るといいと思って持ってきたんだけど……」
「これ、天音さんの本ですか?」
「そうよ。退魔師って肉体が資本だけど、頭がパーじゃ残念じゃない?」
「そうですね……」
「それにカズマ君って女性と話したことないでしょ?」
「ぐっ!? どうしてそれを!?」
「いやー、最初会った時からこの人は女性と話したことがないなって思っていたんだけど、その反応は図星ね?」
「あ……」
カズマは誘導尋問にひっかかったのだ。
「同じ本を読めば、私と共通の話題ができるわよ?」
それは実に魅力的な提案だった。
天音と話せる……それがカズマを本に向かわせた。
「いいんですか?」
「読み終わったら感想を聞かせてね? そうそう、暇な時間があったら読書をお勧めするわ。もし、読み終わったら私の部屋に来て。次の本を貸すから」
「じゃあ、読んでみますね」
「うん、素直でよろしい! それじゃあ、またね」
「はい、また!」
天音は去っていった。
正直、天音と接点ができるのはうれしい。
カズマは日本の歴史とかかれた本を見る。
カズマは昔、日本史の授業で暗記させられたのを思い出す。
「いやなことを思い出したな」
カズマはベッドに横になると、本を読み始めた。
正直最初は暗記させられるのかと思ったが、天音が持ってきた本は違った。
日本の歴史入門と書かれていた。
日本の歴史が全体的に書かれていた。
カズマはテレビを消して、夢中で読み始めた。
時間はいつしか五時になっていた。
カズマは本を置くと、食堂に行った。




