修行
翌日から修業が始まった。
まずは体力錬成だった。
体力がなれば戦闘などと言う行為はできないからだ。
それもただ走るだけではない。
全身に重りをつけて走らされる。
霊札というものの力によって全身に負荷をかけるのだ。
それはプレートアーマーをつけながら走るようなものだった。
カズマの全身は極めて酷使された。
ジャンからすればそれくらいやらないと戦うなどと言う行為はできないというわけだ。
一か月はこの訓練が続いた。
カズマはもともと運動もできたので、体力はそれほど問題なく上がった。
もっとも最初のころは全身筋肉痛にさいなまれたが……。
体力が十分ついたと判断されてから、ようやく退魔師のスキルを訓練できるようになった。
ジャンは訓練を修行上にうつした。
ジャンは霊気というものを見せてくれた。
「これが霊気だ」
ジャンは全身に意識を集中すると、金色の気を放出した。
それは輝ける気だった。
「それは……すごいな……」
「すごい、ではない。おまえもやるんだ」
「ええ!?」
「まあ、最初はできない。だから私が外側からおまえに感覚をつかませる。それをますは感じてみろ」
「ど、どうやるんだ?」
「私がおまえの額に手を当てる。それから動かしてみる。まずは感じるところからだ」
ジャンは右手をカズマの額に当てた。
するとカズマの中で何かが動いた。
エネルギーとして感じることができた。
「こ、これは……」
「どうだ? おまえの中に確かに霊力があるだろう? それを放出させるまでは長い時間がかかる。だから今は霊気の源を感じられるようになればいい」
ジャンはカズマから手を放した。
「今度は自分で感じたそれを動かしてみろ」
「あ、ああ」
カズマは自分の霊力に触れてみた。
さきほど感じたものを自分から動かそうとした。
カズマは目を閉じた。
そうした方が感じられると思ったからだ。
自分の中の霊力を活性化させる。
自分には確かに霊力がある。
それはジャンによって外側から刺激された。
それを今度は内側から動かしてみる。
カズマは呼吸する。
しだいに呼吸は重く、強くなっていった。
カズマは自分の中で何かが波のように襲ってくるのを感じた。
「!? 今のは!?」
カズマは目を開いた。
何かが動いたように感じた。
「いいぞ。それが霊力、霊気の源だ。おまえはそれを感じることができた。まずはそれで十分だ。その感覚を忘れるな。暇な時があったら、おまえもそれを感じる訓練をしてみるがいい。今日はこれくらいしによう。もう十分すぎるほど今日は成果があった。おまえは誇っていい」
「そうか、な……まだよくわからない」
「最初はみんなそんなものだ。あの天音も最初は苦労したんだぞ?」
「天音さんでも?」
「そうだ。だから、今日はこれくらいにしてまた体力錬成としよう」
「ぐへえ! あれをやるのか……」
「そう言うな。あれが基礎の基礎なんだ」
「やっほー!」
そこに天音がやって来た。
「天音か」
「天音さん!」
カズマは声が裏返らないように気をつける。
カズマはひそかに天音を慕っていた。
もちろん、自分のような元引きこもりが彼女と釣り合いが取れないことはわかっていた。
カズマが学校に通っていたころはクラスでは誰と誰が付き合っていると言った話がささやかれていたものだが。
「ジャンとカズマ君に差し入れよ。ケーキを買ってきたの。食べるでしょ?」
「天音、カロリーが高いのはあまり好ましくないな」
「何言ってるの、カズマ君に地獄の走り込みをやらせているくせに。このくらい、ちょうどいいエネルギーよ。それにカズマ君はたくさん食べないとだめよ。ひょろっちゃうでしょ?」
「まあ、それは一理あるが……」
「ジャン、走り込みを追加すればいいだろ? いっしょに食べよう!」
カズマが提案をした。
「さっすが、カズマ君ね。わかっているじゃない。それじゃあ、食べましょう」
三人は机にケーキを乗せて食べるのだった。
こうしてカズマは退魔師としての一歩を歩みだした。
一方、そのころのカズマの両親は……。
彼らは警察に届け出た。
警察がカズマを見つけてくれると思っていたようだ。
カズマの失踪……。
それは両親にとって謎だった。
どうして息子はいなくなったのか?
彼らにいその理由はわからなかった。
彼らはカズマが自分の意思で、家を去ったなどとは考え突かないことだった。
今彼らにできることはただ信じて待つことだけだ。
「カズマはきっと誰かに連れ去られたんだ。そうに違いない。あいつが暇をつぶしていた物は家に残っていた」
父が漏らす。
父はそう思いたかったのだ。
まさかカズマが自発的に出て行ったとは考えなかった。
そもそも、この人はカズマが自分と同じ道を歩むと思っていた。
この人はカズマを同じ人種と思っていたようだ。
実際には違ったのだが……。
「でも、あなた、カズマの服がなくなっていたことが気になるの。あの子はもしかして自分から出て行ったんじゃない?」
「何をバカなことを……カズマに限ってそれはない。あいつは自分では決められない奴だ。自分から出ていくなど、親への忘恩行為だ」
父はまるで自分を説得するかのような言い分だった。
彼はカズマが自分たちの言いなりだと思っていたようだ。
それは現実によって痛烈なしっぺ返しを受けることになる。
父にとってカズマは操り人形にすぎなかった。
「もしかして、就職をせかせたのがいけなかったんじゃ……」
「あれは何も間違っていない。男は働いて給料を稼げばいい。俺はそうやって生きてきたんだ。カズマは俺の息子だ。カズマもそう生きるべきだ」
父は本気でそう言っているようであった。
この父はジャンとは違った。
ジャンならその人の意思に訴えただろう。
カズマの父親は自分の生き方を押し付けたいだけだ。
「それで私は補助労働としてあなたに奉仕しろというわけですか?」
「そうは言っていない。だが、俺は大黒柱だ。経済的に家計を支える必要がある」
「あなたのそんなところをカズマは嫌ったんじゃないの?」
「何をバカな! これが普通だ! 普通の人間はそうして生きていくんだ! 俺の何が間違っているんだ!」
父は激高した。
こうなると何を言っても無駄だということを母は知っている。
カズマと父親の生き方は交わらなかった。




