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修行前日

カズマは十二時になると、カトリーナのもとに行った。

十二時に食事だと聞いたからだ。

カズマはカトリーナの部屋をノックした。

「はーい」

中からカトリーナの声がした。

カトリーナが中から出てくる。

「あら、カズマさんですか。ちょうど昼食の時間ですね。食堂に案内しましょう」

「はい、お願いします」

「はいはい、それではついてきてください」

カトリーナはカズマを連れて食堂に入った。

食堂には多くのテーブルとイスがあった。

「まずは手を洗ってください。それから食事を取りに行きましょう。ふふふ、焦らなくても食事は逃げませんよ?」

カズマは言われた通りにした。

食事はコンテナの中に置かれていた。

「それではお好きなところで食べてください」

「あ、はい」

カズマは敢えて壁側の席に座った。

ちらりと、周囲を眺める。

ここで食事をしているのは退魔師かその関係者だろう。

「こんなところで食事をしているのか?」

「あ、ジャン」

「隣にいいか?」

「あ、ああ」

カズマの隣にジャンが腰かけた。

ちなみに今日の昼食はカレーライスである。

「明日から修業を始める。今日は自由時間でいい。明日のために今日はじっくり休んでおけ」

「ああ、わかったよ。ところで、修行って何をするんだ?」

「まずは基礎体力を上げる。それから霊的な修行をする。これは自発的に活動するために必要なものだ。退魔師になるには霊性を磨かねばならない」

「霊性?」

「まあ、口で言ってもわからないだろう。実際にやってみるまではな。最初のころは基礎体力を上げる訓練だ。とにかく体力だ。退魔師に必要なのは体力と言っていい。体力がなければ戦えないからな」

「体力を鍛えるって……走るのか?」

「そうだ。それだけではない。重りの呪符をつけて走ってもらう。でないと使い物にならないからな」

「俺について行けるかな?」

「はっはっはっは! おまえには才能がある。必ず、やり遂げられる。自分を信じろ」

「あ、ああ。わかったよ」

カズマには自分がついて行けるか不安があたt。

ジャンはそんな不安を晴らしてくれる。

こんなことは初めてだった。

両親はこんなとき、異常なほど復習をしいた。

カズマのことは信用しなかったと言っていい。

「私がおまえの父師ふしになる」

「父師?」

「父なる師という意味だ」

「父師……」

カズマはこの言葉を初めて知った。

この言葉には実はものすごい力が秘められていたのだが、今のカズマはそれを知る由もない。

それにカズマにとって父なるものとはイメージできるのは実の父だ。

教育には一切かかわらない、会社人間の父――。

カズマは父という単語にまったく別のイメージを感じ取った。

カズマは本質的に頭がいい。

だから、『父』という言葉の意味の違いを感じ取れた。

そして、これが決定的なことだったのだ。

こんな『父』を、カズマは知らない。

カズマにとって未知の概念だった。

「それでは先に行く。まあ、おまえはゆっくり食べろ」

そう言うとジャンは去っていった。



カズマは食事の後で、部屋に戻ってきた。

私物がほとんどないため、ここに来てもやることがなかった。

カズマはとりあえず寝ることにした。

明日からは厳しい修行が始まる。

今日のうちは休んでリラックスしておくべきだろう。

そんなことを考えていた時、部屋のドアがノックされた。

「? はい」

カズマがドアを開ける。

「こんにちは、カズマ君」

「あ、天音さん!?」

カズマは動転した。

どうして彼女がここに!?

カズマは天音の突然の来訪に驚いた。

カズマはそのまま硬直してしまった。

いったい何の用だろう?

「君にちょっと用があって来たんだけど、今いいかな?」

「は、はい」

「ちょっと部屋の外で話さない?」

「いいですけど……」

二人は欄干に身をゆだねる。

「ジャンのこと驚いた?」

「え?」

「ジャンって外国人だから、今まで会ったこともないような人だったでしょう?」

「ええ、まあ」

「あれって本当の『父』なのよ」

「『父』?」

「そう。日本にはないものよ。日本人の父親って言うのは基本的に給料を稼いでくるだけでしょう? ジャンは違うわ。彼は人を導く人なの。人生の導師とも言えるわね」

「人生を、導く……」

カズマには天音の言葉が新鮮に感じた。

それにずっと感じていた違和感もわかったような気がする。

「父には二つあるの。『天の父』と『地の父』。天の父は人生の導師よ。そして地の父は母なるもののしもべよ。少し、難しいかしら?」

「いえ、何んとなくわかります」

「カズマ君はどうジャンと出会ったの?」

「俺はジャンに妖魔から襲われたところを救われました」

「そう。私もそうよ。私もジャンに助けられて退魔師になったの」

「天音さんも?」

「以外かしら?」

「い、いえ」

「私もね、自分の人生が分からなかったの。今思えば、どう生きればいいかわからなかったのね。私はジャンに会えたことを天に感謝しているわ。ジャンと出会えて、私は自分の道を歩むことができた。もちろん、厳しい修行もしたわ。でも、ジャンは私に生きる希望を与えてくれた。それが修行をやり抜かせたのよ。君はどう生きてきたの?」

「俺は……」

カズマは迷った。

憧れの女性を前に、自分が引きこもりだったなどと言えるだろうか?

「俺はずっと、親の言いなりになって生きてきたんです。俺はただ親の言うことに従っていただけだった。自分で人生のことなんて考えたこともなかった。俺は操り人形でした。そんな俺にジャンは声をかけてくれた。ジャンが新しい道を示してくれたんです。ジャンには感謝しています。だから、俺はそれに答えたい。俺はまだ退魔師のことを理解していませんが、これからいろいろと知ろうと思います」

「そっか……君も大変な人生を歩んできたんだね。でも、大丈夫。ここにいる人は誰も君を支配しようとはしないから」

そう言うと天音がカズマの頭をなでた。

よしよしという感じだ。

「あ、天音さん!?」

カズマは恥ずかしくなった。

いくら年上の女性とはいえ、こんなことをされるのは……。

「それじゃあ、明日からの修業をがんばってね。私もフォローするから」

「あ、はい。こちらこそ」

そうしてその日は過ぎて行った。

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