表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

ジャン・カルヴィヌス

カズマは家に帰った。

カズマは両親を避けて、部屋に戻った。

あれはいったい何だったのだろう?

今でもカズマには恐れが思い出される。

妖魔……人間の敵……。

恐ろしかった。

漏らさなかったのがふしぎなくらいだ。

カズマはジャンが言った言葉を思い出す。

ジャンはカズマに道を示した。

それは退魔師にならないかということだ。

ジャンによれば、カズマには才能があるという。

ジャンは再びコンタクトを取ろうとしてくるだろう。

その時、カズマはどう答えたらいいか?

そもそもあのジャンとかいう人物は何者だろうか?

カズマにはジャンが今までの世界観にないものを持っているような気がした。

それはカズマにとって必要なものだ。

それが具体的に何かはわからない。

カズマにとって未知の何かだ。

それは行き詰ったカズマに可能性を与えてくれるだろう。

「俺はいったいどうすべきなんだ? 俺はどうしたいんだ?」

カズマにはわからないことだった。

そもそも主体性を侵害されて育ったカズマには自分自身が決断するなどと言うことはやったことがない。

自分の人生にかかわることだ。

自分が決めねばならない。

カズマにもそれはわかっていた。

カズマには自分が普通に就職し、働くということがイメージできない。

そんなことはやったことがないからだ。

それが普通の道であることはカズマにもわかっていた。

多くの人間はそうして生きるのだろう。

その生き方に疑問を持つことはない。

だが、ほかの可能性があったなら?

それが自分の前に提示されているとしたら?

二つの道がある。

一つは普通の道。

もう一つは退魔師の道。

どちらが正しいのか?

いや、正しいも正しくないもないのだろう。

どちらを取ってもいいのだ。

ただそれが、決定的な違いをもたらすのは確かだった。

カズマは今までの生活が好きではなかった。

それは仕方なくやっていることであって、好きでやっていることではない。

家の中でただマンガを読むか、ゲームをやるか……。

ただそれだけの生活。

いい加減にそれにも飽きてきた。

自分の人生は一度しかない。

自分の決断で人生を決められるのなら、それを選ぶべきだ。

「退魔師……本当に俺になれるのか?」

ジャンは『運命』と言った。

カズマが何も決められないとしたら、待っているのは普通に就職する道である。

だが、それとは異なる道を歩めるのなら?

ほかの可能性があるなら?

少なくとも、ジャンの言葉を信じるなら、その可能性はあるのだ。

カズマは悩んだ。

カズマは今の自分が嫌いだ。

何も決められない自分。

何もできない自分。

非力で無力な自分。

それから決別できるなら?

カズマの今までの人生は両親の圧倒的な影響のもとに生きてきた。

カズマは生まれて初めて両親に反発した。

カズマはもう両親の思う通りに生きる気はない。

自分に退魔師となる道があるなら、むしろそれこそ選び取る道ではないのか?

「俺は……退魔師になりたい……」

それがカズマの出した結論だった。



平日……カズマの両親は出勤する。

カズマのために母は朝食と昼食を用意してくれる。

ジャンの言葉ではジャンの方から接触してくれるという。

カズマは両親がいなくなったリビングでレンジで温めて食事を取る。

カズマは基本的に一人で食事を取る。

両親といっしょというのは気まずいからだ。

「はあ……」

カズマは自分自身に嫌気がさす。

それからカズマは自虐的に笑う。

その時、ピンポーンと、音が鳴った。

カズマは基本的にはこういった訪問には出ない。

カズマは閉じこもっていたから、こうした訪問は苦手だ。

だが、今回は違った。

ジャンが来ると言っていたからだ。

気が重かったが、カズマは玄関に行き、家のドアを開ける。

「やあ、カズマ君。私だ。ジャン・カルヴィヌスだ」

「どうも……」

カズマは自分でも愛想がないと思ったが、対人関係のスキルはカズマには乏しい。

そこにはジャンがいた。

「どうして俺の家が分かったんですか?」

「君の霊力をたどった。一度感じればその後は問題なく感じられる」

「そうですか……まあ、何ですから入ってください」

「悪いな。それではごめんください」

カズマはリビングにジャンを通した。

まずはお茶を用意する。

カズマはジャンと対面して座った。

ジャンはお茶に口をつける。

それから本題に入った。

「それで、結論は出たかい?」

「はい、俺は退魔師になりたいです」

「本当にそれでいいのか?」

「え?」

「退魔師のなるためにはこの家を出て行かねばならない。その覚悟はあるか?」

「それは……」

カズマは躊躇した。

ジャンはこう言っているのだ。

退魔師になりたいなら、この家を出ろ、と。

それだけの覚悟がないなら退魔師にはなれないと。

「もちろん、新しい生活の場はこちらで用意する。君はこの家を出て、新しい生活を始めるんだ。退魔師は現在、寮で暮らしている。当面の間君は退魔師として修行をしてもらう。戦えるようになるためには訓練をしなければならないからな」

「はい、俺は今の生活が嫌です。俺はこの家から出て行きたい」

「そうか。それなら荷物を今すぐまとめるんだ。必要なものだけを持って、この家を出て行きなさい」

「わかりました」

カズマは言われた通り、荷物をまとめ始めた。

基本的には服くらいしか持っていくものはない。

マンガやゲームはすべて置いていく。

カズマは自分の部屋を見わたした。

もうこの部屋に戻ってくることはない。

自分の部屋とはここでお別れだ。

感慨があるわけではない。

ただ、カズマは自分の生き方を変えたかった。

この部屋は呪縛の象徴だ。

この部屋にい続ける限り、自分は変われない。

カズマは自分が日本人であるということは一種の呪縛だと考えていた。

ああ、日本人の呪縛だ。

外国の人ならこの呪縛を克服できるかもしれない。

カズマはそう思った。

「お待たせしました。もう準備はできました」

「そうか。君は荷物がずいぶん少ないんだな?」

「置いていくものばかりですから」

「まあ、必要なものは売店でも買えるから、心配はいらない。ちなみに退魔師は訓練期間中から給料が出る。それで必要になったものを買うといい。それでは、行こうか」

「はい」

カズマは家を出た後、もう一度振り返った。

こんな家にはもう用はない。

自分はこの家から出て行く。

引き留めるものは何もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ