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妖魔

カズマは部屋でマンガを読んでいた。

とそこに誰かがやってくる。

ドアがノックされた。

「はい」

カズマが答える。

「カズマ、入ってもいい?」

「ああ、いいよ」

来たのは母だった。

母がドアを開ける。

「ねえ、カズマ。話があるの」

「何だよ?」

カズマと母の関係は良くない。

この人は学校の外のことはあまり知らないのだ。

カズマはあまり母と会話したくない。

たいてい、説教だからだ。

カズマはベッドに座った。

母がその隣に座る。

「ねえ、カズマ。あなたはもう十八よ。いい加減に働きなさい」

「そんなこと言われてもな……どこで働けって言うんだよ?」

「それは自分で考えなさい」

「はあ? 今までさんざん命令しておいて、自分で決めろってか? そもそも仕事ってどうやって探すんだよ?」

「ハローワークに行きなさい。そこで相談に乗ってもらうのよ」

「俺一人で行けってか? ずいぶん無責任だな?」

「あなたはもう十八なんだから、いつまでも親同伴っていうわけにはいかないでしょう?」

カズマには母親の言葉が、ただ無責任にしか思えなかった。

今までさんざん、いうことに従わせておいて、ここにきて自分で考えろとはどういう了見か!

カズマには自分一人で何かを為すといった経験がない。

それも親の教育の成果だった。

カズマという人間は自立心や独立心が希薄なのだ。

両親はカズマに自立や独立といった価値を身につけるような教育はしていなかった。

当然だが、カズマにそういったものがあるわけがない。

それでなおかつ自立しろというのだから、矛盾にもほどがある。

カズマという男は理解力や、知性に問題はない。

親が、突き放すことを言っているのも理解している。

だが、今になって自分で考えろとは無責任にもほどがある!

「今までさんざん、命令しておいて、今度もそうするのかよ? 俺の人生は何なんだよ? 俺は操り人形じゃない!」

カズマは怒りで部屋を出た。

カズマは母親との会話を拒否したのだ。

カズマには耐えられなかった。

カズマは外に出た。

行き場所はない。

カズマには家にしか居場所がないのだ。

とりあえず、カズマはコンビニに行くことにした。

外はもう夜で暗くなっていた。

カズマの行動半径は自宅とこのコンビニだけだ。

カズマはコンビニに入った。

行くところは同じだ。

それはマンガのコーナーだった。

カズマはマンガを手に取る。

ここは立ち読みをしても何も言われないコンビニだった。

とりあえず、目を通す。

別にマンガがおもしろいわけではない。

それしかやることがなかっただけだ。

マンガの中では主人公たちはずっと子供だ。

マンガは大人を主人公にはしない。

マンガの主人公はたいてい未成年である。

もともと未成年を読者対象としているのだから当然だ。

カズマは考える。

こんな状態でいいはずがない。

自分の人生はどう考えても行きづまっている。

だが、それを打開できるような知恵はない。

自分はいったい何をしたいのだろう? 

自分はいったい何をすべきなのか?

カズマには考えられない。

カズマという男には自分のことを考えるということが基本的にできないのだ。

自分が生きてきて、これからのことを考えるなどしてこなかった。

それらはすべて親から『与えられた』。

目的は所与のものとされ、自分から目標や目的を考えるなどということはしてこなかった。

カズマには思考力がないのである。

カズマが受けた教育では徹底的な暗記が要求された。

暗記は正解があるという前提に立っていた。

だが、生き方に正解はない。

この生き方という難問に、カズマは答えられなかった。

カズマにはそれに答えられるほどの知性が欠落していたわけではない。

そういったことを考える力がなかったのだ。

それは後天的に身につけられるものだ。

カズマは自分のことさえわからなかったのである。

もっとも、自分のことだからと言って自分が分かっているというわけではないのだが……。

カズマには目の前のマンガが答えにならないことくらいは承知していた。

これは逃避だ。

カズマはいたたまれなくなって外に出た。

「帰るか……」

カズマは夜道を歩いた。

ふと背後から何かを感じた。

これは何だ? 

カズマは今まで感じたことがないプレッシャーを感じた。

カズマは後ろを振り返った。

するとそこには円形の頭部を持つ怪物がいた。

「な、何だ、こいつ!?」

怪物はカズマを狙っているようだった。

カズマは腰を抜かした。

「く、来るな!」

怪物はカズマがいい獲物だと思っているようだ。

カズマには本能的にこの怪物が自分を喰らおうとしているのが分かった。

カズマを恐怖が支配する。

自分の人生はここで終わる。

それをカズマは自覚した。

こんなところで俺の人生は終わるのか?

嫌だ!

誰か、助けてくれ!

そんなカズマの叫びがかなったのか、目の前の怪物の頭が切断された。

それをしたのは光の剣だ。

光の剣はあっさりと怪物の頭を斬り飛ばした。

怪物の体が粒子化して消える。

「ふう……無事か?」

怪物を倒したのは一人の男だった。

髪は金髪で、年は四十くらいだろうか。

茶色いローブを着ていた。

手には光の剣があった。

「少年が一人で夜道を歩いているとはな。いくら日本でもほめられたことではないぞ?」

「あ、あんたは?」

「私か? 私はジャン。ジャン・カルヴィヌス(Gian Calvinus)だ」

「が、外国人?」

「まあ、そうだな。立てるか?」

ジャンが手をカズマに差し出す。

カズマはその手を取る。

「危ないところだったな。だが、安心しろ。『妖魔』はもう倒した」

「『妖魔』?」

「先ほどの怪物のことだ。私は妖魔と戦うことを仕事としている。私は『退魔師たいまし』だ」

「退魔師?」

「妖魔と戦う職業だ。それにしても、ふむ……」

ジャンは思案した。

何かを考えているようだが、カズマにはそれはわからない。

「君は霊力を持っているようだな」

「何を言っているんだ?」

「君の名は?」

「俺か? 俺は結城 カズマだ」

「カズマか。覚えておこう。君は自分の運命を変えたいと思ったことはあるか?」

「運命?」

「そうだ。君には運命を変える力がある。だが、今はそれは眠ったままだ。それは君の才能だ。君さえよければ、退魔師になる才能がある。まあ、考えてみてくれ。私は君のもとにまた現れるだろう。このまま普通の人間として生きていくか、それとも退魔師として生きていくか、君は選べる。それでは君の選んだ道に幸があらんことを!」

そう言うと、ジャンは去っていった。

カズマは呆然としていた。

いったい何だったんだ?

俺はいったいどうすればいい?

カズマは自分が自宅に戻ったことさえ、覚えてはいなかった。

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