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モリガン

天音は走った。

天音は巫女装束になって霊装・吹雪を持っていた。

彼女は今、幸せの会本部に来ている。

ジャンや、ヴィルヘルミーネ、そのほかの退魔師もいっしょだ。

その目的はカズマの救出だった。

カズマは未だ見つかっていない。

「それにしても……」

天音はあることに気が付いた。

それはまったく人影がないことだ。

信者も一人としていなかった。

妖魔でさえ、見当たらない。

「むしろ、不気味ね」

天音はカズマを心配している。

天音はカズマが来てから世話を焼いてきた。

天音には年の離れた弟がいる。

ただ、その弟はもう亡くなった。

病だった。

カズマはその弟とかぶるのだ。

「カズマ君……」

「カズマさんは渡しませんよ」

「誰!?」

そこに現れたのは幸子だった。

彼女は黒い女性用スーツを着ていた。

「あなたは幸せの会代表、月夜幸子ね?」

「そういうあなたはカズマさんとはどういう関係ですか?」

「私? 私は姉のようなものよ」

「うっふふふふ、カズマさんならこの地下にいますよ。助けたいならどうぞ」

「? やけにあっさりしてるのね? 罠かしら?」

「それはご自由に。ただ、カズマさんは私の、このモリガンの伴侶となるのです」

「伴侶?」

天音は心のどこかで反発を覚えた。

それが何かはわからなかったが。

「そうです。彼は選ばれたのです。母なる神モリガンの伴侶に!」

「それはあなたが選んだということでしょう?」

「そうですよ。うふふふ、もはや隠しはしません。我が名はモリガン。母なる神にして夜の女神!」

「あなたがモリガンだったのね! なら!」

天音は霊子矢を射った。

モリガンは片手でそれをつかんでしまう。

「なっ!?」

「ふふふ、よいことを考え突きました。カズマさんの意思は未だに私に屈していません。そこであなたを利用することにしましょう。それにもう、ここにも用はありませんしね」

「何をするつもり?」

「うっふふふふ、あなたには『魔の山』に、『Monteモンテ Magicoマージコ』に招待しましょう。カズマさんはあなたを追ってくるでしょう。あなたを取り戻すために。トルタージョ!」

「ああ!?」

天音が黒い縄で縛られた。

天音はそのまま床に倒れる。

「ふふふ、聞いていましたか、ジャン・カルヴィヌス?」

「聞いていた。魔の山か。そこで決戦か?」

「そうです。この私モリガンと、ルチフェールもお待ちしていますよ。それでは」

モリガンは天音を闇で包むと、そのまま消えていった。



「カズマ!」

「ジャン!」

カズマは部屋から出された。

現在幸せの会はイル・チエーロの退魔師たちが調査されている。

「モリガンは?」

「あの女は魔の山へと行ったようだ。そこで永遠の夜のための儀式を行うのだろう」

「何だって!? すぐに向かわないと!」

「ああ、そのつもりだ。それと天音がさらわれた」

「!? 天音さんが!? モリガン! 俺はあいつを許さない!」

「焦るな。私たちは魔の山に向かう。そこですべての決戦を行う。カズマ、おまえは戦えるか?」

「ああ、もちろんだ!」

「あの女の真の目的は世界を永遠の夜に包み込むこと。それとおまえだ」

「俺が?」

「あの女にはおまえが必要なのだろう。では今から行くぞ! 時間がない」



「さて、ジャンたちは来るかな?」

「ふふふ、来ますわ。天音さんは大事な人ですから」

「それにしても、最後まで気づかれなかったな、カトリーナ?」

「ふふふ、私がスパイだとはあのジャンでさえ気づけませんでしたからね」

魔の山の中腹にルチフェールとカトリーナがいた。

二人はジャンたちが来るまで、会話していた。

今は時間は夜だ。

周囲は暗闇に包まれている。

「おまえの情報はずいぶん役に立った。それもモリガンへの忠誠か?」

「うっふふふ、そうですよ。私はモリガン様のしもべですから」

「さて、奴らはそろそろ来るだろう。戦闘準備を整えておけ」

「当然ですわ」

「ルチフェール!」

そこにカズマ、ジャン、ヴィルヘルミーネが現れた。

「クックック、来たな」

「レオーネ、いやルチフェール! この戦いはここで終わりにしよう」

「ああ、もちろんだ。いい加減におまえたちの相手をするのも面倒だ。ここで追わらせてやろう」

「カトリーナ……」

それでは私たちも行きましょうか」

ジャンとルチフェールが一組となった。

そこにヴィルヘルミーネがカトリーナと組みになる。

「カズマ! おまえは山頂へ急げ! 天音を頼む!」

「カズマさん、天音さんを頼みます!」

「ああ! わかった!」

カズマは一人で山頂へと向かった。



山頂……。

そこには母なる神モリガンが火を起こしていた。

それも大きな火だ。

「さて、カズマさんは来るでしょうか」

「……」

天音がキッとモリガンをにらむ。

モリガンは黒いレオタードをまとっていた。

その体の豊満さが嫌でも目に付く。

「うっふふふふ、反抗的ですね。ですが、無駄ですよ。世界は永遠の夜によって包み込まれるのですから!」

「ジャンたちが必ず、あなたを倒すわ。あなたの野望はついえる。残念だったわね!」

「さてそれはどうでしょうか。正義が必ず勝つとは限りませんよ?」

「天音さん!」

「カズマ君!」

「ふふっ、やっと来ましたか、カズマさん」

「モリガン! 天音さんを離せ!」

「ふふふ、どうですか、カズマさん? この私の体は? これはあなたのものなんですよ?」

「くっ!?」

モリガンがカズマを誘惑する。

モリガンは見事な肢体を持っていた。

男としてカズマも反応してしまう。

カズマは天音の前でぶざまな姿を見せたくはなかった。

カズマは霊装を向ける。

「うっふふふ、カズマさん、正直になってください。あなたはこの私の体を求めている……違いますか?」

ノーと拒絶するにはモリガンの肢体はあまりに魅力的だった。

これはモリガンの誘導だ!

カズマは話を変えた。

「モリガン! いい加減にしろ!」

「ふふふ、いいでしょう。カズマさんがお望みならいくらでもお相手いたしますわ」



ヴィルヘルミーネとカトリーナは。

「グラツィイージョ!」

カトリーナが氷の柱を作る。

これをまともに受けたら、一撃で即死だ。

ヴィルヘルミーネは器用にかわす。

「ふっふふふふ! それにしても、イル・チエーロもおバカさんばかりでしたね!」

カトリーナがあざける。

「私がラ・ノーチェ・スクオーラのスパイだと、全く気付かなかったのですから!」

「カトリーナ!」

「ふふふ、仲間のふりをするのは苦痛でしたわ。その恨みをここで晴らさせてもらいましょうか! グラツィーオ・ランツォ!」

氷の槍がヴィルヘルミーネに飛来する。

ヴィルヘルミーネはそれをワイヤーウィップで拘束し、砕く。

「あなたが戦えるとは思ってもみませんでした。これは私の不覚です。ですが!」

カトリーナの顔が引きつる。

「私もあなたを殺す気で攻撃します!」

「フッフン! それはこちらのセリフですわ! グラツィーオ・ネージョ!」

カトリーナが氷雪を出す。

ヴィルヘルミーネにはこれだけの攻撃をかわす手段はない。

「あっはっはっはっは! そのまま、凍り付きなさい!」

ヴィルヘルミーネは氷に包まれていく。

その時、雷の柱が上がった。

それは轟き、雷光をまき散らす。

「なっ!? 私の氷が!?」

「カトリーナ、これをくらいなさい! ビンドゥングス・ドナー!」

ヴィルヘルミーネはワイヤーウィップでカトリーナを拘束すると、雷を放電させた。

「ああああああああああああ!?」

カトリーナはそれをもろに受けた。

ヴィルヘルミーネの反撃はカトリーナを黙らせた。



ジャンとルチフェールは。

二人は激しく、剣で応酬していた。

ジャンの輝く大太刀と、ルチフェールの闇の剣が。

「フハハハハハ! 父師よ! あなたとこうして戦えるのは最高の気分だ! どうだ? 最高の傑作を前にしての感想は!」

「おまえの不始末は私が取る! 私はおまえを殺す!」

「ハッハッハッハッハ! そうこなくてはなあ!」

ルチフェールは闇をいくつか形作った。

「コンステラツィーオ!」

闇から一斉にビームが放たれる。

ジャンはそれをかわそうとしたが、すべてはかわしきれなかった。

「ぐおお……」

「ヴェスペルステーロ!」

赤い闇が炎のように破裂する。

ジャンはそれに呑み込まれた。

「フッ、もうケリがついてしまったか。なっ!?」

闇の星から輝くような大きな槍が出てきた。

ルチフェールはそれをまともにくらってしまう。

「がはああっ!?」

「グランダ・ブリルピクスタンゴ……」

闇の星からジャンが現れた。

五体満足とはいかないが。

「レオーネ、いやルチフェール。おまえの最期だ」

「フン! やれ! あんたには俺さえも残してやらない! あんたはあまりに光過ぎた!」

ジャンは何も言わずに、ルチフェールの首をはねた。



カズマとモリガンは。

カズマは必死に黒い刀を振るう。

モリガンはすべてわかっているとばかりに、黒い湾曲したブレードでカズマの攻撃を防ぐ。

モリガンにはわかっているのだろう。

カズマはモリガンの体から目を離せない。

カズマが必死に剣を振るうのはそれを見ないようにするためだ。

「ああ、カズマさん! すばらしいですわ! あなたには才能がある! その才能を闇の側で生かしてみませんか?」

「断る! 俺は光の側に立つ!」

「闇の側にはあなたの欲望をかなえる力があります! それが闇の祝福です!」

「はああああ!」

カズマは今までの訓練のすべてを出し切っていた。

その斬撃にはキレがあった。

モリガンのブレードにひびが入る。

「うふふふふ」

モリガンは逆にうれしそうだ。

自分が追いつめられているという自覚がないのか?

「いいでしょう、私の真の力をあなたがたに見せて差し上げましょう!」

モリガンの縄が天音から解かれた。

天音は解放された。

モリガンの闇が膨れ上がる。

モリガンは背に四つの翼と、下半身を蛇に変えた。

モリガン・インペラトリクス(Morrigan Imperatrix)である。

「ヴェスペルト!」

モリガンがコウモリの弾を撃ち出す。

「カズマ君、加勢するわ!」

天音は高速の矢を射出して、それを撃ち落とす。

「ヴェスペルト・ストゥルモ!」

モリガンはコウモリ弾を大量に放った。

カズマと天音が埋め尽くされる。

「うわあああああああああ!?」

「ああああああああああ!?」

「マルルーマ・ランツォ!」

妖しい闇の槍が形成された。

そのまま、モリガンは一斉に闇の槍を放った。

「くらうか!」

「撃ち落とすわ!」

二人は協力して闇の槍を迎撃する。

「うっふふふふふ! そうです! もっと激しくいきましょう! ああ! カズマさん! 最高ですわ!」

モリガンが恍惚とした表情を向ける。

「はああああああ! プロヴィデンツァ・ノクト!」

暗い闇がすべてを呑み込む。

暗い。

とてつもなく暗い。

こんな暗いのは初めてだ。

光はそれでも消えないし、消せない。

意思あるかぎり、光は、希望はある。

カズマはこのくらい闇の中で一層光が輝くのを知った。

「これは……今なら放てる! くらえ、モリガン! シャイニング・フェニックス!」

光輝く鳥がモリガンへと向かう。

モリガンは最期の前にふと笑った。

まるでその死を受け入れるかのように。

シャイニング・フェニックスはモリガンに直撃した。

「これが、カズマさんの光……まぶしい……」

モリガンは闇の粒子と化して消えた。



「天音さん!」

「カズマ君!」

「大丈夫ですか?」

「カズマ君こそ……」

カズマは天音を助けた。

それは心から望んでいたことだった。

この瞬間をどれだけ待ちわびていたことだろう。

いざ実現すると、どこか照れくさかった。

「俺は……ここまでジャンとヴィルヘルミーネさんが手助けしてくれたんで」

「そうだったの。それにしても、カズマ君も大変だったね。そんなにモリガンの体が良かった?」

「え?」

「私、カズマ君がモリガンの体をちらちらと見ていたの、知ってるよ?」

「いやー、それは、不可抗力! 不可抗力です!」

「不可抗力?」

天音は納得していないようだ。

あからさまに不快な気持ちになっている。

まずい!

何とか否定しないと!

「いや、その、俺は天音さんみたいな方が好みっていうか……」

「はい?」

気まずい沈黙が訪れる。

カズマはそれを何とかしたかったが、どうにもできなかった。

「二人とも、無事だったか」

「モリガンを倒したんですね」

「ジャン、ヴィルヘルミーネさん!」

その時、夜が明けた。

そして空からあかつきが見えた。

日の光が世界を照らしていく。

永遠の夜の終わりだった。

日は必ず昇る。

これが世界を祝福するあかつきだった。



カズマは天音の部屋の前にいた。

ドアをノックする。

「はあい」

中から天音が出てくる。

今日はあることのためにここに来たんだ。

「カズマ君、どうしたの?」

「あ、あの……」

「?」

「これ……」

「それ……私が渡したチケット? どうしたの?」

ここで勇気を出せ!

カズマは自分を奮いただした。

「俺、天音さんといっしょに行きたい!」

「え?」

天音は一瞬呆然とした。

天音はこんな話題を振られると思っていなかったのだろう。

「しょうがないなあ……お姉さんがいっしょに行ってあげるよ」

こうしてこの物語の幕は下りる。

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