カズマと幸子
ジャンは食堂に三人を連れてきた。
おそらく、ジャンはルチフェールのことを話すつもりなのであろう。
ジャンは三人の対面に座った。
「さて、何から話そうか……」
「ルチフェールについてジャンは知っているのか?」
カズマが質問する。
「ああそうだな。レオーネのことから始めよう」
「レオーネ……ルチフェールの本名なの、ジャン?」
天音が尋ねる。
「あいつは私の弟子の一人だ。名前はレオーネ。私は我が師スズキと同じことができると思った」
「スズキ……ジャンの師匠ですか?」
ヴィルヘルミーネが聞く。
「そうだ。私はスズキ師から、ヒエロソフィアの知識と技術を受け継いだ。成長した私は同じことができると思った。そこで私は弟子をとることにした。最初の弟子がレオーネだ。だが、レオーネは闇に堕ちた」
「闇だって?」
「そう。世界は光と闇の対決の場だ。我らヒエロソフィストは光の側に立ち、闇と戦わなばならない。私はあいつに期待していた。だが、レオーネは闇に魅了された。闇はどす黒い本能や欲求の場だ。光の側に立つとは、精神の、霊の側に立つということだ。それこそが人のあるべき姿であるとシベリウス導師は言っていた」
「導師シベリウス……ヒエロソフィアの創始者だったか?」
「詳しいな、カズマ。おまえがそれを知っているとは思わなかった」
「私が本をカズマ君に貸したのよ」
「なるほどな。レオーネは闇に囚われた。そして今はラ・ノーチェ・スクオーラの協力者としてルチフェールという名で活動しているようだ」
「ジャンはルチフェールをどうするつもりだ?」
ジャンは押し黙った。
しばらく沈黙が続く。
それからジャンは口を開いた。
「不肖な弟子の始末は父師が負わねばならない。私の手であいつを殺す。それが、闇に堕ちたものへの慈悲だ」
「ラ・ノーチェ・スクオーラ……いったい、この組織は何なの?」
「私の調べでは、この組織は宗教法人『幸せの会』の闇黒面だ。こちらの方が組織としての真の姿だと言っていい。この法人の代表は月夜幸子だ。彼女こそが我々の倒すべき敵のボスということだ。彼女の目的はこの世界を永遠の夜で包含すること。闇に支配された究極の理想郷とういわけだ」
「俺たちは何をすればいい?」
「月夜幸子を止める。このままでは世界は闇に包まれてしまう。それを何としてでも阻止する。とはいえ、まだ準備ができてはいない。それまでは各人戦闘態勢で待機しておくんだ」
そうしてジャンは話を終えた。
「カズマさーん!」
「? カトリーナさん?」
「いいところで会いましたね。どうですか? 少しお茶でもいかがですか?」
「いいですね。いただきますよ」
カズマはカトリーナの部屋によった。
「……いよいよ決戦ですね?」
「……カトリーナさんも知っているんですか?」
「私も一応関係者ですから」
カトリーナが緑のお茶を入れてくれる。
「正直、話しが大きすぎますよ。まあ、俺にできることなんてたかが知れてるんで、やることをやるだけですから」
「ええ、それでいいと思いますよ。無理をする必要はないんですからね。うふふ」
「あれ?」
カズマは視線が歪むのを感じた。
どうしたんだろう?
急激に眠気が襲ってくる。
「俺は……」
カズマはそのまま眠気に負けてテーブルに突っ伏した。
「うふふ、睡眠薬が効きましたね。カズマさん、次に目を覚ました時は、もっといい場所にいますよ」
カトリーナの妖しい笑みがカズマを見つめた。
「ん?」
カズマは目を覚ました。
「俺は……ここはどこだ!?」
カズマは周囲を見わたした。
そこは無機質な部屋だった。
カズマはイスに座ってロープで縛られていた。
「ふふふ……目を覚ましましたか?」
「誰だ、あんた?」
「ふふふ、私は月夜幸子と言います。宗教法人『幸せの会』の代表を務めています」
「ラ・ノーチェ・スクオーラか!」
「あら、よくご存じですね」
「じゃあ、ここは……?」
「そうです。『幸せの会』の地下です、カズマさん、あなたがいるのは」
「おまえがボスか! 俺を解放しろ!」
「ふふふふ、それはできません。あなたには闇に堕ちていただきます」
「闇に堕ちるだと?」
「あなたの才能はすばらしいです。どうですか、私たちの仲間に入りませんか?」
「断る!」
カズマは即決した。
まったく迷わなかった。
この組織はカズマのいるべき場所ではない。
「カズマさん、冷静に考えてください。あなただって『性』の欲望くらいあるでしょう? 私たちの側に来ればそれを満たすこともできますよ? 私たちの側では『性』は肯定されているのです」
幸子が妖艶な笑みを浮かべる。
カズマは思わずうなずきそうになった。
カズマも男だ。
性欲ぐらいある。
あって当たり前である。
しかし、それに支配されるのも危険だとカズマの精神が告げていた。
「だいたい、あんたはいったい何ものだ!?」
「うっふふふふ、あなたは母なる神を信じますか?」
「母なる神だと?」
「そうです。母なる神は、夜の女神は実在します」
「なぜそう言える?」
「簡単です。私こそがモリガン(Morrigan)です」
「つまり、あんたが母なる神だというのか?」
「その通りです。カズマさん、あなたは選ばれたのです。夜の女神の伴侶に。さあ、私といっしょに永遠の夜で世界を支配しましょう!」
「ふざけるな! 俺はジャンの弟子だ! そんなことに力は貸さない!」
その時、ドゴーンと大きな音がした。
モリガンは携帯で状況を確認する。
「……そうですか。意外と早かったですね」
「? なんだ?」
「うふふふふ……カズマさん、お仲間が来たようですよ?」
「もしかして、ジャンたちが来たのか!?」
モリガンはカズマに近づいた。
すると、おもむろにモリガンはカズマの唇を奪った。
「んんん!?」
「ふふふふ……」
「何するんだ!?」
「カズマさんも男なら、そういう欲求を持っていらっしゃるでしょう? 続きは、またあとで。それでは」
モリガンはカズマを残して去っていった。
カズマは呆然とそれを眺めることしかできなかった。




