邪龍ルファンヤ
「クックック、クハハハハハハハ!」
施設の内部でルチフェールが笑った。
三人とも全滅か!
これは片腹痛い!
ルチフェールにとってあの三人は使い捨てのコマにすぎない。
そもそもルチフェールはNSの協力者であって、幸子の部下でも配下でもない。
「やるじゃないか。イル・チエーロのメンバーは。彼らの力は予想以上だ。これはあれを実戦投入すべきだな」
あの三人を観察すると、彼らは合流したようだ。
魔獣も駆逐されてしまったし、もはや戦力はあれしか残っていない。
「まさかこれほど早くあれを出すことになるとは思わなかったぞ。さあ、出てこい! 邪龍ルファンヤ(Lufanja)!」
ルチフェールが新たな魔物を呼び出そうとしているころ、カズマたちは合流していた。
「天音さん、ヴィルヘルミーネさん、大丈夫ですか?」
「こっちはばっちりよ、カズマ君!」
「カズマさんが心配する必要はありません」
「それにしても、いったい何だったんでしょうね?」
カズマが疑問を呈する。
いったいなぜこんなところに妖魔が現れたのか。
それが謎だった。
「ラ・ノーチェ・スクオーラ……」
「え?」
「ミーネ?」
ヴィルヘルミーネがある言葉を漏らした。
「彼らはラ・ノーチェ・スクオーラ――『暗い夜』という組織の者だそうです。この組織が何を意味するのか、私たちにはわかりません。ですが、この組織は一度、イル・チエーロを襲撃しました。あの時の襲撃者と今回の襲撃者は同じラ・ノーチェ・スクオーラのメンバーでしょう」
「奴らはいったい何者なんだ?」
「それを知りたいかい、君たち?」
「誰だ!?」
そこに現れたのは、金髪にメガネをかけ、紺色のローブをまとった男。
「クックック、君たちいいね。最高だよ。さすがイル・チエーロだ」
「私たちのことを知っているの!?」
天音が男をにらむ。
「魔獣や、戦闘員程度では君たちは止められないようだね」
「あなたが魔獣を呼び出したのですか!」
ヴィルヘルミーネが非難する。
「ああ、そうさ。すべてはラ・ノーチェ・スクオーラの差し金だよ」
「おまえはいったい何者なんだ!?」
カズマが叫ぶ。
「ククククク! 俺の名はルチフェール。ラ・ノーチェ・スクオーラの協力者だ」
「協力者?」
天音が目を細める。
「そうだ。俺はかく理由があってこの組織に協力している。ああそうそう、この組織はモリガン教の宗教法人『幸せの会』の暗部でね。君たちの存在は、邪魔なんだとさ」
「どういうことだ!」
カズマがくってかかる。
彼がこれほどの怒りを表すのは珍しい。
「君たちは父なる神に属している。モリガン教では母なる神を信仰している。ヒエロソフィアは彼女にとって邪魔なんだよ。そこで君たちには死んでもらいたかったんだが、まあうまくいかなくてね。それで俺がわざわざ出てきたというわけさ」
「ふざけるな! そんな理由で無関係な人を襲ったのか!」
「カズマ君! 落ち着いて!」
天音がカズマを止める。
この時カズマは本気で怒っていた。
だが、怒りは危険な感情だ。
「俺は神が父でも母でもどっちでもいいんだが、教団の連中はどうだろうな? 教団の代表は女で月夜幸子というんだが、この代表は母なる神をこの地上に降臨させるつもりだ。そしてこの世は開けることのない永遠の夜と化すのさ! 太陽が消える世界! ただ、激烈な闘争の世界! さぞ楽しいとは思わないか?」
ルチフェールは心の底から楽しそうに邪悪な笑みを浮かべた。
この男は危険だ。
カズマの中の何かがそれを告げていた。
「それが、おまえが協力する理由か?」
「ああ、そうだ。元引きこもり。最近調子がいいからって、人生や世界をなめるなよ? おまえが逆立ちしてもどうにもならないことだって、この世にはあるんだぜ?」
「!? 俺のことを知っているのか?」
「当然だろう? 何を驚くことがある? ジャン・カルヴィヌスの弟子なら当たり前だ。さて、それでは君たちにはここで消えてもらおうか。さあ、これがフィナーレだ! 邪龍ルファンヤ!」
ルチフェールは緑の魔法陣を展開した。
それは回転して、強大な圧力を周囲にもたらす。
施設の中には緑色の、まるで王者のごときドラゴンがいた。
四つ足歩行、黒い翼、長い尾を持っていた。
「ゴオオオオオオオオオオオオ!」
ドラゴンが吠える。
「フハハハハハハハハ! さあ、やれ、ルファンヤ! こいつらをひねりつぶせ!」
ルチフェールが笑う。
この展開はルチフェールが思い、望んだものに違いない。
おもしろくはなかったが、カズマはそれを認めざるをえなかった。
ルファンヤの口に青い光がともる。
「カズマ君!」
天音がカズマを後ろに引っ張った。
「くっ、天音さん!?」
ルファンヤは青い息で床を薙ぎ払ったのだ。
カズマがいた位置は溶解し、黒ずんでいた。
あのままくらっていたら、カズマは地上から消えていたに違いない。
「散開しましょう! 密集しているのは危険です!」
ヴィルヘルミーネが指示を出す。
ここは彼女の言う通りだ。
密集していてはいい的だ。
「わかりました!」
「了解よ!」
三人はルファンヤをかく乱する作戦に出た。
カズマは内心震えていた。
こんな化け物相手にどう対応したらいいのか。
カズマにはそれが分からなかった。
「俺の力が通じるのか……いや、やってみるしかない!」
ルファンヤが稲妻を槍の形に形成した。
フルモ・ランツォだ。
「ギィヤオオオオオオオオン!」
稲妻の槍が三人に向けて放たれる。
当然、稲妻の槍は分散される。
これをヴィルヘルミーネは予測していた。
三人は霊気でそれをあしらう。
ルファンヤが口に雷をたくわえた。
それは雷の息だった。
トンドロ・ブローヴォだ。
ルファンヤは薙ぎ払いようにブレスをはいた。
カズマはジャンプして、ルファンヤの首に斬りかかる。
取った、と思った。
だが。
「くっ!? 硬い!? なんて硬さだ!?」
ルファンヤの首は斬り落とされなかった。
ルファンヤはカズマにかみつきにかかる。
カズマはその場から跳んで回避した。
危ない。
ルファンヤにかまれたら即死だ。
「桜花閃!」
天音が桜の矢を放つ。
カズマを援護するためだろう。
「ドナー・パイチェ!」
ヴィルヘルミーネが雷の鞭で攻撃を仕掛ける。
だが、ルファンヤの硬さの前に手も足も出ない。
三人は分散することでルファンヤの注意をそらすことに成功していた。
しかし、そこから先が通らない!
「はっ!」
そこに人影が現れた。
人影は大太刀でルファンヤの首を斬り飛ばした。
それは見事な一撃だった。
「無事か?」
「ジャン!」
ルファンヤがドシーンと倒れる、
そのままルファンヤは緑の粒子と化して消えた。
「ククク、こんなところで再会するとはな。お久しぶりだ、我が父師よ」
「レオーネ?」
「レオーネ……?」
カズマはジャンとルチフェールを相互に見る。
ルチフェールは何と言った?
父師?
「レオーネ・ジュスティニアーニという名は捨てた。今の俺はルチフェールだ、我が父師よ」
「ではそう呼ぼう……ルチフェールよ、ここで何をしている?」
「クククク、あなたの弟子を屠ろうとしていた」
「なら、それで見過ごすわけにはいかん」
ジャンは光の大太刀を構えた。
「クックックック、そう行きたいところだが、今日はお暇させてもらおう。俺も暇ではないのでね。それでは父師よ、さらばだ」
ルチフェールは深い闇の中に消えた。
後には気まずさが残った。




