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外出

カズマは寮の食堂に来ていた。

今日の食事はマーボー豆腐だった。

カズマは自分のトレイを取って、席に着こうとした。

「おーい、カズマくーん!」

「? 天音さん?」

天音がカズマに声をかけた。

天音はヴィルヘルミーネと並んで食事していた。

「いっしょに食べない?」

「え? いいんですか?」

「もちろん! いいわよね、ミーネ?」

「ええ、かまいません」

「じゃあ、こっちに来なよー!」

「はい! じゃあ!」

カズマはトレイを持って、天音の前に座った。

天音の前に座ったのは、天音の横は遠慮したからである。

「ねえ、ねえ、カズマ君」

「はい、何でしょうか?」

「今週空いてる?」

「まあ、暇ですが?」

「それじゃあさ、この三人で映画でも観に行かない?」

「ええ!?」

カズマはびっくりした。

まさかのお誘いだった。

二人きりではないとはいえ、これは驚きだった。

それも天音の方から誘ってきたのだ。

「いいんですか?」

「カズマ君は弟みたいなものだからね、別にいいよ」

「お、弟……」

カズマは内心でがっかりする。

そうか、俺は弟としか思われていないんだ……。

「なんていう、映画ですか?」

「La Missione Impossibile」

「は?」

カズマはヴィルヘルミーネの発音を聞き取れなかった。

「ラ・ミッシオーネ・インピッシービレ。スイス映画です」

ヴィルヘルミーネが改めて日本語訛りで発音する。

「カズマ君はスイスについて何か知ってる?」

「いえ、俺はスイスについてほとんど知りません」

「スイスはおもにドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の四つの言語が話されているのね。ジャンやミーネの出身地もスイスなのよ」

「そうなんですか……大変そうですね」

「それで、どう、いっしょに映画を観に行かない?」

「ええ、いいですよ。俺は特別何もやることがありませんし」

カズマはドキドキしていた内面を悟られないように答えた。

「それじゃあ、日曜日の十時に食堂前に集合でいいかな?」

「はい、いいですよ」

「出かけますから、お出かけ用の服装で来るように、カズマさん」

「わかってますって」

ヴィルヘルミーネの言葉にカズマがうなずく。

「ふふふ、カズマ君はデートは初めてでしょ? よかったわね、こんな二人とデートできて」

天音がからかってくる。

「い、いえ……」

「まあ、冗談はさておき、カズマ君は清潔感のある服装なら大丈夫だよ」

「清潔感ですか?」

「女性は男性にそんなに高度なファッションなんて求めていないし、私たちとしても清潔感があればそれでいいから」

「は、はあ……」

かくして、カズマは天音やヴィルヘルミーネと一緒に出かけることになった。



カズマは着替えて食堂の前に来た。

服はポロシャツにジーンズといった格好だ。

天音に言われた通り、清潔感を重視してきたのだが、どうだろうか?

「こんにちは、カズマ君!」

「あ、天音さん」

天音は髪を下ろしていた。

服は黒いブラウスにロングスカートだ。

カズマは天音のいつもとは違う格好にどぎまぎする。

「カズマ君はアドバイス通りの格好だね?」

「何か変ですか?」

「別に悪くないよ。後はミーネが来ればいいだけね」

「ヴィルヘルミーネさんはどんな人なんですか?」

「ああ、そうね。あまり、ミーネとカズマ君は接点がないものね」

「はい、だからどんな人かわからないんです」

「彼女はパンが好きよ」

「パン、ですか?」

確かに外国人なら米よりパンの方が好きそうだ。

外国ではパンが主食だとか。

「やっぱり、米よりパンの方がいいっていうわね。こればかりは簡単には変えられないからね」

「そうですね」

カズマはパンではおなかが膨れない。

どこかパンを食べても満たされないのだ。

やっぱり、飯は米に限る。

「お待たせしました。Bonan tagon!」

「はい?」

「Bonan tagon! エスペラントでこんにちは、です」

ヴィルヘルミーネがやって来た。

彼女はいつも通りメイド服である。

彼女が来たのは時間ぎりぎりだった。

これが日本人ならもっと早く来ただろう。

外国人である彼女は日本人とは時間観念が違う。

そもそも、天音が時間通りに来るようにくぎを刺していたのだ。

「え? え?」

カズマが混乱していると。

「カズマ君、彼女は多言語に堪能なのよ。あまり気にしないほうがいいよ?」

「は、はあ……?」

ヴィルヘルミーネはドイツ語、イタリア語、フランス語、英語、エスペラントに堪能である。

母語はドイツ語だが、次に気に入っているのがエスペラントだった。

「カズマさんはエスペラントについてご存じですか?」

「いえ、俺は英語くらいしか知らないです」

その英語もカズマは大して知っているわけではない。

あくまで学校の勉強で知っているくらいだ。

「エスペラントは人工言語です。ポーランドの眼科医ルドヴィコ・ザメンホフが考案した言語です。文法には例外がないので非常に覚えやすいですよ。もしよければ、カズマさんにもエスペラントをお教えいたしますが?」

「Cxu vi volas paroli Esperanton kun ni? カズマ君は私たちとエスぺラントで話したい?」

「い、いえ、俺は日本語だけでいいです。外国語は苦手なので」

「残念ですね。できればこの機会にエスペラントを広めたかったのですが……」

ヴィルヘルミーネが残念そうに言う。

「天音さんはエスペラントを話せるのですか?」

「私? 英語より、私はエスペラントのほうが話せるかな。ミーネと話し相手になる時はエスペラントで話すことも多いよ」

「天音はエスペランティストなのです」

「エスペランティスト?」

「エスぺラントを話す人ってことよ。残念だなあ。カズマ君もエスペランティストになってくれればいいのに……」

「す、すんません! 俺には無理そうです!」

英語だけでも訳が分からないのにその上エスぺラントまではとてもできそうもない。

「まあ、この話はこのくらいにしましょうか。じゃあ、私の車で移動しましょう」

三人は天音の車のもとに向かった。

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