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天音

カズマとジャンは剣術の訓練をしていた。

こういう訓練は二人でペアにならないと難しい。

ただの素振りでは対人の剣術は身につかない。

カズマは刀でジャンに斬りかかる。

ジャンは大太刀でそれを薙いでいく。

「はあ……はあ……はあ……」

「どうした、カズマ? 息が上がっているぞ?」

「わ、わかってるさ!」

ジャンはフッと笑った。

こうした訓練はひたすら反復するしかない。

そして経験的につかむしかない。

ジャンの大太刀がひらめいた。

その時、カズマの刀は宙を舞っていた。

ジャンの大太刀がカズマに向けられる。

「!? ま、まいった!?」

「まだまだ甘いな、カズマ」

「ちぇっ、ジャンが強すぎるんだよ」

「やっほー、二人とも元気にやってる?」

「天音か」

「天音さん」

「お茶を持ってきたんだけど、飲む?」

天音が水筒を見せる。

ほかには紙コップを持っていた。

「ああ、いただこう。カズマ、休憩だ」

「ああ、わかったよ」

カズマはタオルで汗をぬぐった。

けっこうな運動量だったので、カズマも汗をかいている。

三人は木のテーブルの周囲に座った。

カズマはやや落ち着かなかった。

カズマは今だ、天音と会話するのに照れる。

なかなかうまく話せなかったのだ。

「ねえ、カズマ君?」

「はい、なんですか?」

「カズマ君って高校には通っていないのよね?」

「……ええ、まあ」

カズマは今のところ中卒である。

もっとも、退魔師は学歴が給料に影響しないのであまり、問題にはならなかった。

ただ、カズマに劣等感があるのは確かだった。

「もしよければなんだけど、通信制の高校に通ってみない?」

「え?」

カズマは不意を突かれた。

「退魔師の仕事は学校と調整できるから、高校進学もできるわよ?」

「は、はあ……」

カズマは今一つ意欲がなかった。

いまさら、学歴にこだわる意味もない。

「勉強のことなら、安心して。私が教えてあげる」

「ええ!? 天音さんが!?」

カズマはびっくりした。

自分でやれとばかり思っていたが、まさか天音が教えてくれるという。

「カズマ君が高校を卒業するのはきっと精神的な成長にもつながると思うわ。まずは、考えてみるだけでいいから、資料の請求をしてみない?」

「は、はい! お願いします!」

「ふふふ、じゃあ、私の方でそれは進めておくわね」

実のところ、カズマは前向きになったのは天音といっしょの時間を過ごせるという考えからだった。

天音が教えてくれる以上に、天音といっしょに過ごせることに喜んだのだ。

天音はカズマにとってイル・チエーロのマドンナだったからだ。

カズマは天音に惹かれている自分がいるのも知っていた。

ただ、天音と自分では釣り合わないと思っていたのも事実だった。

「カズマ君、不安があるの?」

「はい、まあ……」

カズマは学校の勉強で一度挫折している。

カズマは学校の勉強はできるのだが、かつては親の願望をかなえるために必死に勉強したのだ。

その結果として燃え尽きたのだが……。

「自分はかつて、勉強で失敗していますから……」

「カズマ君はできると思うな」

「え?」

「カズマ君は霊学を理解できたんでしょ? なら、学校の勉強なんて簡単よ」

「はあ……そうでしょうか……?」

「私はね、カズマ君が通信制とはいえ、学校に行くことは意味があると思うの」

「意味、ですか?」

「そう。通信制の学校には、カズマ君と同じような背景をもった子供たちがいるわ。そこで同じような子供と過ごすのはとてもいいことだと思うの」

「それはわかる気がします」

「じゃあ、考えてみて、それじゃあね」

そう言って天音は去っていった。

そんな天音の後姿をカズマは見送る。

「カズマ、天音と付き合いたいんなら、高校は卒業しないと厳しぞ?」

「え、いや、そんなつもりは……」

カズマはお茶を濁す。

カズマは自分と天音は不つり合いだと思っていた。

彼女はまぶしすぎる。

自分では天音を幸せにしてやることはできないだろう。

「退魔師の仕事は、融通が利くから進学するのは問題ない。勉強も天音が見てくれるというなら心配ないだろう。ただ、問題は……」

「?」

「おまえ自身だな」

「俺自身?」

「そうだ。おまえは一度学業で挫折しているだろう? それを克服するいい機会だ」

「そうかな……」

「だいたい、高校の勉強は中学の勉強の延長線にある。おまえなら問題なくクリアできるだろう」

「俺は……かつて親が言うから勉強した。確かに、勉強はできた。ただそれは俺が自分の意思を持たず、親の言いなりだったからできただけだ。今回は違う。自分の意思で、俺は勉強ができるのか?」

カズマは確かに勉強ができた。

だが、それは親が望むままにやった結果だった。

カズマには劣等感がある。

それは自分は本当に勉強が好きにはなれないというものだった。

「学校の勉強ができる人間には共通点がある」

「なんだ、それは?」

「それは本を読むことだ」

「本を?」

「おまえは天音から本を借りてるんだろう? それも内容を理解しているようだし、おまえは学業がおろそかにはなるまい」

「そんなものか?」

「それにあの天音が勉強を教えてくれるんだぞ? こんなことはほかの人間に天音はしたことがない。おまえは期待されているんだ」

「だけど、それは天音さんの意思であって、俺の意思じゃない」

「それは確かだ。ただ、カズマよ。おまえの中の劣等感はおまえ自身が解決するしかない。天音もおまえがとても勉強ができる結果を望んではいない。大事なのは結果ではなく過程だ。何をどう学ぶか、それが大切なんだ。おまえは退魔師としても成功した。だから、今度は学業と向かい合う時なんじゃないか?」

「俺は……」

カズマの劣等感は自分でしか解決できない。

学校に適応できなかった自分……。

カズマの中には何かをやるなら、最高の結果を出さねばならないという観念だった。

それは親から植え付けられたものだ。

別に卒業できれば、最高の成績を出さなくてもいい。

卒業できればいいのだ。

超人でなければ、卒業できないわけではない。

普通の生徒でいいのだ。

日本には追試という救済制度まである。

あとはカズマが勇気を出して、自分の過去と向かい合う時だった。

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