人質
「見事だったぞ、カズマ」
「あ、ああ。ぶっつけ本番だったが、何とかできた」
カズマは放心した。
さすがに、霊気を乗せてドクローマの頭を砕くというのは、賭けに近かった。
「ところで、人質はどこに消えたんだろう?」
「そうだな。奴らは意図的に人質をどこか別の場所にうつした。何か理由があったのだろうが……」
『クワーッカッカッカッカ!』
「これは!?」
「校内放送か!」
『俺たちは今、体育館にいる! 人質は丁重に扱っているとも! 先生も無事だ! だが、ここには爆弾を仕掛けた! もし俺たちに不用意に近づいてくるなら、これを爆破させる! いいか、手っ取り早く現金を用意するんだ! でなければ、人質を一人ずつ、殺していくぜ? これははったりじゃねえ! 本気だ!』
こうして校内放送は終わった。
カズマは押し黙った。
これはまずい展開だ。
子供たちは一層危険な状況に置かれたというべきだろう。
カズマにはこれを打開する方法はない。
カズマはジャンを見た。
ジャンは険しい表情をしていた。
「どうする、ジャン?」
「ふむ、子供たちが一か所に集められたのは、むしろ好都合だ。奴らの居場所はわかった。まずは体育館で敵の配置を確認しよう。すべてはそれからだ」
体育館には重苦しい空気が流れていた。
人質は緊張した表情をしていた。
妖魔たちは教師を管理することで、生徒全員を管理することができた。
羊の管理と同じである。
そのためには、教師を殺すわけにはいかなかった。
教師を殺害してしまっては、生徒全体をコントロールできなくなるからである。
ここまで子供たちが泣きじゃくったり、暴れたりしないのは、女性教師がいたからだ。
妖魔たちはこの女性教師を通して、間接的に生徒をコントロールしていた。
だが、それも徐々に限界に近づいていた。
子供たちがあまりの緊張とストレスに耐えられなくなったのだ。
「うわ、うわ、うわーーーーーーーん!」
その時、一人の男子生徒が泣き出した。
緊張の糸が切れたのだ。
「あああん? 何、泣いてんだこのガキ! ぶっころずぞ!」
カラステンが恫喝する。
カラステンは子供が嫌いだ。
カラステンが好むのは従順な羊である。
「ボス、始末いたしますか?」
「そうだな、一人くらい始末しても問題ないか。やれ」
コガラスが自動小銃を子供に向ける。
妖魔たちは本気で子供を殺す気だ。
「やめてください!」
「ああん? おまえ、邪魔すんのかあ?」
カラステンが不快な声を上げる。
この女、生かしてやってるからっていきがりやがって!
ぶっ殺されてえのか!
女性教師は子供の前に立ちはだかった。
まるで壁のようだ。
「この子を殺すなら、私を殺してください!」
「……」
おそらく、この女性教師には今までのやり取りで、自分が必要な存在だと認識したに違いない。
それで、このようなふざけたことを言い出したと思われる。
ちいっ、こちらの都合を理解しやがって。
厄介なアマだ。
女性教師の瞳には自信があった。
殺せるものなら殺してみろとでもいうべきか。
そこに油断が生じた。
その隙をジャンは待っていた。
ジャンとカズマは体育館に乗り込む隙をうかがっていた。
女性教師が今、妖魔たちの注目を浴びている。
これはチャンスだった。
ジャンとカズマは霊装を構えて、体育館に突入した。
「そこまでだ!」
「カカッ!?」
妖魔たちの注目がジャンに向けられる。
「何だてめえは!? おい、殺せ!」
「へい、ボス!」
カラステンが命じると、コガラスたちは自動小銃でジャンを撃った。
だが、ジャンは霊装でそれらを反射する!
ジャンは剣で銃弾をはじき飛ばしているのだ。
それにカズマは刮目する。
ジャンが強いのは知っていたが、ここまでできるとは思わなかった。
銃弾は正確に射手にはじき返され、コガラスたちはすべて無力化された。
「子供たちを解放しろ!」
「クワーッカッカッカッカッカ! ふざけるな! よくも俺様の計画を邪魔してくれたな! おまえは許せねえ! ここでぶっ殺してやるよ!」
「カズマ、おまえは人質を解放しろ! こいつの相手は私がする!」
「わかった!」
カズマは子供たちを助けるために女性教師のもとにやって来た。
「俺たちはあなたがたを助けに来ました! さあ、こっから脱出してください!」
「ありがとうございます! さあ、みんな! ここから出るわよ!」
女性教師に率いられて、子供たちは体育館を後にした。
「ちいっ! ガキどもを逃しちまったか!」
「おまえも降伏しろ」
「バカなことを言うんじゃねえ! てめえだけでもぶっ殺してやるぜ! ヴェント・トランチーロ!」
カラステンが両手のナイフをジャンに向けて投擲してきた。
ジャンはそれを霊装ではじく。
ヴェント・トランチーロは風のナイフだ。
その切れ味はかなりのもの。
ジャンはそれに反応して、的確にはじいている。
カラステンのナイフはジャンに当たらない。
ジャンはそのすべてをはじき飛ばす。
「クワー! 気にくわねえ奴だぜ! ヴェント・シュトゥルモ!」
風の竜巻がジャンに襲いかかる。
ジャンはそれを一刀のもとに斬り伏せた。
「ニグラ・プルーモ!」
カラステンが黒い羽をジャンに送ってきた。
おそらくこの攻撃には目つぶし要素がある。
ジャンはそれを光の柱を上げて迎撃した。
「死にやがれ! マルルーマ・オンブロ!」
カラステンから影が伸びて、人の形をしてジャンに斬りかかる。
これがカラステンの最強技だった。
ジャンは霊装を輝かせると、そのまま影を一撃で屠った。
「バ、バカな……」
カラステンが呆然自失する。
その隙にジャンがカラステンに接近し、殺さないように斬りつける。
「がっ!?」
カラステンが倒れた。
かくして妖魔による人質事件は解決した。
「ありがとうございます。おかげで事件を解決できました」
警官がジャンにあいさつする。
「我々は自分たちの仕事をしただけです。事件が解決されてよかった」
そこに子供たちがやって来た。
カズマはジャンにお礼を言いに来たのかと思った。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「お、俺?」
カズマは驚いた。
自分に感謝されるとは思わなかったからだ。
「退魔師のお兄さん、あなたが助けてくれたおかげで、私たちは無事です。ありがとう」
「いや、そんな……」
カズマは照れた。
こんなことを言われても恥ずかしいだけだ。
「はっはっは! そうだぞ、カズマ。おまえはよくやった! 今日はほめられておけ!」
こうして事件は解決し、カズマはまた一歩、成長したのだった。




