ドクローマ
カズマとジャンは校舎に侵入した。
校内はひそかで、誰もいなかった。
「静かだな……誰もいないぞ?」
カズマは意外な印象を受けた。
もっと、妖魔があふれていると思ったからだ。
「どこに妖魔が潜んでいるかは分からない。気を引き締めていけ」
「あ、ああ」
校内の電気は消えていた。
暗いというよりも、あえて暗くしたと言えようか。
「妖魔たちはいったい何を考えているんだろうな?」
「それは私にもわからん。まずは人質がいる教室に行くぞ」
カズマとジャンは二年生の教室に向かった。
壁に隠れて、二人は妖魔をやり過ごそうとする。
彼らは音を聞いてみた。
ところが、教室の方からまったく音がしない。
これはいったいどういうことか?
「おかしい……人の気配がない」
ジャンも何か気づいたようだ。
子供たちは人質にされていたはずだ。
だが、それがいないという。
ジャンはひそかに二年一組をのぞいてみた。
そこには。
「これは……!?」
「どうしたんだ?」
カズマも教室の中をのぞいてみた。
そこはもぬけの殻だった。
カラステンも、教師も、子供もいなかった。
「……はかられたか」
「どういうことだよ、ジャン?」
「おそらく、犯人たちは子供たちをどこか別の場所にうつした」
「じゃあ、子供たちはどこに?」
「わからん。どうやら奴らに一本取られたようだ」
二人は教室を出た。
すると廊下で何かの気配を感じた。
「カズマ、気をつけろ! これはトラップだ!」
「トラップ?」
「妖魔が罠として配置されていたんだ! 出てくるぞ!」
空間がまるで歪むかのように妖魔が出現した。
その妖魔はドクロで、骨で構成されており、右手には大きな刀剣がはえていた。
妖魔ドクローマ(Dokrooma)である。
「カズマ、来るぞ! 霊装を構えろ!」
「ああ!」
カズマとジャンは霊装で武装した。
ドクローマは恐ろしい異形で訴えてくる。
カズマが刀で斬りつけた。
傷らしきものはできた。
だが、そこまでだった。
それ以上のダメージは与えられなかった。
「こいつ、攻撃が効かないのか!?」
カズマが与えた傷は再生された。
「それに傷が再生するようだ。厄介だな」
ジャンも光の剣でドクローマに攻撃を仕掛ける。
ドクローマは傷を受けたものの、その傷はあっさりと再生した。
ドクローマの攻撃。
ドクローマは左でてジャンを押しつぶそうとしてきた。
ジャンは後方に跳びのいた。
ドクローマの鋭い爪が振り下ろされる。
廊下に傷がついた。
「何という力だ。これほどまでの妖魔はそうはいない。カズマ、おまえは本格的に攻撃はするな。こいつはおまえの手には余る!」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「こいつは霊気による攻撃をしなければ倒せない。通常の物理攻撃は通用しないからな」
ジャンは全身から霊気を出した。
ジャンの霊気は武器にまでいきわたる。
霊気をここまで操れる退魔師は少ない。
ジャンの能力は突出している。
「アガアアアアアアアア!!」
ドクローマが吠えた。
ドクローマの体は曲がっていた。
そんなドクローマから右手の大太刀が繰り出される。
このままジャンを突き刺すつもりだ。
「ジャン!」
カズマが叫んだ。
だが、カズマの叫びは杞憂だった。
ジャンは大太刀をあっさりと受け流す。
大太刀はジャンの横を通り過ぎて行った。
ジャンがドクローマの腕に霊気の斬撃を振り下ろす。
その一撃はドクローマの腕を切断した。
「グギャオオオオオオオオオ!?」
ドクローマが叫ぶ。
ドクローマの右腕は破壊された。
ドクローマは左手で、ジャンを叩き潰そうとした。
だが、ジャンはその攻撃をかわす。
ドクローマは憎々し気にジャンを眺めた。
ドクローマの口に黒い闇が集まる。
「むっ!?」
ジャンが警戒する。
ドクローマの口から黒い、暗い、闇のブレスがはき出された。
すさまじいブレスが廊下を薙ぎ倒す。
ジャンは前面に光の力を展開することでこれを防いでいた。
カズマの前にジャンはいた。
ジャンはカズマをかばったのだ。
「……無事か?」
「ジャン!?」
「カズマ、この妖魔は強敵だ。おまえは霊気のコントロールができるな? 私はこいつの攻撃を防ぐだけで精いっぱいだ。だから、おまえがこいつの頭を攻撃しろ。もちろん霊気の攻撃でだ」
「無理言うなよ! 俺にそんなことなんて……」
カズマは自分の力にまだ自信がなかった。
だが、ここでやらなければ二人ともやられることは理解していた。
ぶっつけ本番だが仕方がない。
「カズマ、いいか。人間はやらねばならない時がある。今がその時だ。やれるかやれないかではない。ただ、やるんだ。やれなければ、私たちはここでやられるぞ?」
「ジャンが言っていることはわかる。だけど、俺の力じゃ……」
「カズマよ、おまえは自分が思っているより強い。信じろ、自分の力を。おまえにはできる!」
ドクローマが再び口に闇の力を収束した。
闇息だ。
今度は前よりさらに威力が上だった。
「わかったな、カズマ! 今度は私は防御に回るしかない! 攻撃はおまえに任せたぞ!」
「ああ、ちくしょう! やるしかないか!」
カズマは自分の全身に霊気をまとった。
ここでやらなきゃ男じゃない!
カズマは全身に力を入れた。
ドクローマが口から闇の息をはいた。
すさまじいブレスが大波のように押し寄せる。
ジャンは全力で防壁を構築する。
「くううっ!?」
ジャンがうめく。
この作戦は二段階だ。
まず、ジャンがブレスを防ぐ。
それから、カズマがドクローマを攻撃する。
それが成功して初めて二人の作戦は成功する。
ジャンは苦悶にあえいだ。
だが、ジャンの苦痛は無駄ではなかった。
ブレスはジャンの前で消え失せる。
「今だ、カズマ! 行け!」
「おおおおおおおおお!」
カズマは全力をドクローマに叩き込む。
カズマの霊気はドクローマの頭に叩きつけられた。
ドカーンと衝撃音が響いた。
ドクローマの頭が割られたのだ。
ドクローマは倒れた。
そのまま黒い粒子と化して消えていく。
「よくやった、カズマ!」
「ああ、何とかできたな」
「これが実戦だ。実戦では何が起こるか分からない。おまえはまた一つ壁を越えたんだ」




