バニード2
「むう……暇だ」
バニードは大型の象の妖魔だった。
彼はリザードマンをしもべとして、配下にしていた。
バニードは自分が指名手配されていることを知っている。
むしろ、それを楽しんでいたくらいだ。
指名手配されれば、自分を狙って退魔師どもがやってくる。
そうなれば戦いに事欠かない。
バニードにとって戦いは楽しむものだった。
だが、最近は退魔師も襲撃してこなくなった。
つまらない。
退魔師どもを絶望に陥れて殺すのがバニードのやり方なのだ。
死ぬ間際の絶望こそバニードにとって最大の快楽だった。
「つまらんな。わしを殺そうとするやつがいないのは退屈だ。どこかにわしを殺しに来る退魔師がいないものか……」
バニードが嘆息する。
バニードを最も楽しませるもの、それは殺しである。
殺しこそ最大の快楽なのだ。
もっと、もっと人を殺したい!
それも強い奴であればなおいい!
「ん? 何か強い気配がやって来たぞ」
バニードはニヤリと笑った。
またバカが来たのだ。
こう言ったバカに限っていい顔で絶望してくれる。
バニードにとって最大の獲物だ。
「グフフフフ……これはいい機会だ。今度はどんなバカがやって来たのか」
バニードは廃工場の奥で残酷な笑みを浮かべるのだった。
「ここか? 妖魔バニードがいるのは?」
カズマは車から降りる。
工場はもう操業していない。
完全に閉鎖されており、対入り禁止のテープが張られている。
「ここだ、間違いない。奥から妖気を感じる」
「妖気?」
「霊学で習っただろう。妖魔は私たちと違って、妖気を持つ。そして妖術を使う。霊と妖は相反するのだ」
「確かに言われてみれば、よこしまな気を感じるな」
カズマとジャンは工場の中に入っていった。
すると奥からトカゲの人間、リザードマンが現れた。
彼らは剣で武装していた。
「来るぞ! 霊装を出せ!」
「霊装・烏丸!」
カズマは言われた通り、霊装を出す。
リザードマンたちが襲い掛かってきた。
「カズマ! 背後は、任せたぞ!」
「ああ、任せろ!」
カズマは迫りくるリザードマンを斬り伏せた。
なんてことはない。
このリザードマンはただ剣で斬りかかってくるだけだ。
そこには剣術というものはない。
スキルもアートもなかった。
ただ無差別に剣を振り回しているにすぎない。
こんなものか?
こんなものが妖魔か?
カズマは拍子抜けした。
ただ突っ込んでくるだけの敵など、カズマには敵ではない。
リザードマンはジャンにも襲い掛かったが、圧倒的な力によってねじ伏せられた。
「こんなものか」
「こいつらは?」
「どうせただの配下だろう。バニードは部下をこちらに送ってよこしたのだ。では裸の王様のもとに行くとしよう。霊装はそのままにしておけ」
「ああ、わかった」
二人は工場の奥へと進んでいった。
工場は機械の残骸が至る所に残っていた。
そして工場の最深部に売妖魔バニードはいた。
灰色の体に、赤い模様をした体の妖魔――。
妖魔バニードが玉座に腰かけていた。
まるで王を気取っているかのようだ。
「グフフフフフ! よくやって来た。最近は暇で暇で仕方なかったところだ」
「おまえが妖魔バニードか。覚悟するがいい。おまえは今日ここで死ぬことになる」
「ぐっはっはっはっはっは! よく言うな人間よ! わしはよわっちくせに大言壮語をはく奴を叩き潰すのが大好きなんだよ!」
バニードが立ち上がった。
身長は四メートルはあるだろう。
カズマはバニードの大きさに恐れを抱いた。
「カズマ、こいつの相手はおまえに任せる。修行の成果を見せてみろ」
「あ、ああ……」
カズマは烏丸を握りしめる。
体が震えた。
「グッハッハッハッハッハ! 小僧、震えているのか? わしが怖いか?」
「……」
沈黙は肯定の証。
カズマは初めて本格的に妖魔と対峙した。
俺はこいつに勝てるのか?
カズマの脳裏に不安がよぎる。
「グッハッハッハッハッハ! いたぶってから殺してやろう! ファイロ・クーグロ!」
バニードが手から火の弾を出した。
バニードが使う属性は炎らしい。
カズマは霊装でそれを斬り裂く。
カズマは霊装で火の弾を斬れてほっとした。
こちらの攻撃が通じる。
それはカズマに自信をもたらした。
「んなにい? わしのファイロ・クーグロを斬っただと? 人間にくせに生意気な! これでもくらえい!」
バニードは火の弾を次々と連射してきた。
これだけの数をさばき斬ることがカズマにはできるだろうか?
カズマは拘束で刀を動かし、ファイロ・クーグロをことごとく斬り捨てた。
「ええい、これは何かの間違いだ! ボンボ・クーグロ!」
バニードが爆発性の弾を発射した。
カズマはこれ斬れないと確信した。
横によけて、爆発をやり過ごす。
「ちびめえ! わしをいら立出せたなあ! これで燃え尽きろ! アトーマ・ファイロ!」
バニードは大型の炎を作り出した。
炎はカズマを狙って、志向してきた。
カズマは全身に霊気を集める。
そしてそのまま炎を刀で斬った。
炎が霧散する。
「ば、ばかな……」
バニードが愕然とする。
カズマは確実にバニードを追いつめていた。
カズマは、いける!と確信した。
さきほどの攻撃はバニードの中でも強力なものだったのだろう。
カズマは震えが止んだ。
「なめるな! これで斬り捨ててくれるわ! ギガント・トポーロ!」
バニードが大型のバトルアックスを呼び出した。
確かにあれで斬られたら、真っ二つになりそうだ、
だが、カズマは戦いの主導権を握っていた。
もはやバニードが何をしようが、カズマの勝利は変えられなかった。
「くらえい!」
バニードがバトルアックスを振り下ろす。
それは無駄な悪あがきにすぎなかった。
カズマはそれをあっさりとかわすと、烏丸をバニードの心臓めがけて突き刺した。
「ぐほおおおおおおおおおお!?」
バニードは大絶叫を上げた。
そしてそのまま倒れた。
バニードは赤い粒子と化して消えた。
それをジャンが黙ってみていた。
「ジャン、やったぞ!」
カズマの体にはまだ戦いの恐怖が残っていた。
勝てたとはいえ、恐れは簡単に克服できるわけではない。
「カズマ、怖かったか?」
「あ、ああ。俺は怖かった」
「それを大事にしておけ」
「大事に?」
「そうだ。それは本源的な恐怖につながる。とても大切なものだ。それにしても見事だった。私が思っていた以上だ。よくやったな」
「俺は……俺は退魔師になれたのか……」
「おまえは立派な退魔師だ。それに間違いはない」
「ジャン……」
「さて、では帰ろう。今日はどこかに飯を食べに行くか。祝いだ」




