バニード
カズマとジャンは剣で打ち合っていた。
もっとも実のところ、ジャンがカズマに合わせているだけだ。
ジャンはカズマの剣を受け流し、カズマに反撃した。
「くわう!?」
「どうした? そんな剣筋ではいくらでも反撃されるぞ?」
「くっ、くそっ!?」
カズマはいろんな剣筋でジャンを攻撃するが、それらはすべて見切られていた。
無理もない。
カズマは剣術はまだシロウトだ。
ただ、カズマの剣筋は徐々に鋭さを増していた。
これはカズマが剣術を身につけていることを指す。
一撃、一撃は稚拙でも、カズマはジャンとの打ち合いで剣術を会得しつつあった。
ジャンはそれを楽しそうに受ける。
「? どうした?」
「ふふっ、別にな」
「何か気になるな」
「いい傾向だ」
「傾向?」
「ああ、傾向だ」
カズマはいぶかる。
正直、ジャンはカズマの成長に目を見張った。
このあいだ、実戦を見せたが、それもモチベーションに与えた影響は大きい。
これではそろそろ実戦にカズマを出してもいいだろう。
実戦を経験することによって、カズマはさらなる成長を見せるだろう。
ジャンの剣がひらめいた。
「うっ!?」
カズマから刀が落ちる。
刀はそのまま消滅してしまった。
「まだまだ、隙があるそ?」
ジャンが剣をカズマののど元に持っていく。
カズマはただただ呆然とするしかない。
「ま、まいった……」
ジャンは剣をカズマから離す。
「ふっ、だがずいぶんやるようになった。この分なら、そろそろ実戦にデビューしてもいいころだ」
「実戦か……」
見習い退魔師はまずジャンといっしょにペアで仕事をする。
実戦で死亡しないようにジャンがフォローするのだ。
退魔師は育成するのに膨大な時間がかかる。
人命はとても大事にされた。
イル・チエーロでは基本的に二人一組で仕事する。
それは互いにフォローし合えるようにだ。
それだけ、退魔師の人命を重視している証である。
カズマはいい感じにでき上っている。
実戦経験が豊富なジャンでもカズマは成長が早かった。
ジャンはいろいろな退魔師を育ててきた。
その中には天音も含む。
そんな生徒たちの中でもカズマは突出していた。
これほどの実力者が無名だったなどと信じがたい。
カズマの両親はよほど無能だったに違いない。
子どもの才能を見抜けなかったのだ。
カズマには退魔師として豊かな才能がある。
体力、知識、剣術、霊力、いずれも高いレベルを誇っていた。
これならそこら辺の妖魔には負けることはないだろう。
ジャンはカズマが実戦を経験するのが楽しみだ。
それにここまで来たらもはや通常の訓練では成長が鈍化する。
実戦こそ最大の教師だ。
ジャンにとっては教え子が自立していくのが楽しみだった。
教え子は必ず自立する。
それはジャンにとってさびしいと同時に誇らしかった。
カズマもそんな教え子の一人になりつつあった。
カズマの独立も近い。
ヴィルヘルミーネの仕事は情報の収集である。
主にPCやスマホで情報を集めていた。
ヴィルヘルミーネのもとに妖魔の情報も入っている。
今、ヴィルヘルミーネが追っていたのは象の妖魔『バニード(Banido)』だった。
この妖魔は現在指名手配されており、凶悪犯罪を重ねていた。
このバニードが廃工場を拠点としていることをヴィルヘルミーネは突き止めた。
「これは……間違いないですね……」
ヴィルヘルミーネがPCの画面を見つめる。
ヴィルヘルミーネはジャンに連絡する。
「こちらヴィルヘルミーネです。ジャン、巨悪犯罪妖魔バニードの居場所が分かりました。彼は廃工場に拠点を構えています」
「そうか。よく突き止めてくれた。その妖魔はカズマのデビューにちょうどいいな。どこまで戦えるか、実戦を経験させたい。カズマにも連絡してくれ」
「はい、わかりました」
カズマの携帯に連絡が入った。
「? 誰だ?」
携帯にはヴィルヘルミーネの番号が登録されており、誰が連絡してきたかは分かる。
ただ、カズマはヴィルヘルミーネとは話したことがなかった。
「カズマさんですか? 私はヴィルヘルミーネ。情報分析担当です。初めまして」
「あ、ああ。ジャンから聞いている。初めまして。ところでどういった用件だ?」
「今回はあなたの初任務になります。妖魔バニードが廃工場にいます。彼を倒してください。初めての実戦です。ジャンが同行します。現地では彼の指示に従ってください。すでにジャンはこの情報を知っています。あなたはジャンと合流し、廃工場に赴いてください。以上になります」
「わかった。ジャンと合流する」
「あなたにとって初めての実戦です。まずは生き残ることを考えてください。死ななければ今回の仕事はクリアしたことになります。無理に敵を倒そうとは思わないでくださいね」
これはヴィルヘルミーネからの配慮だろう。
それに感謝しつつ、カズマは携帯を切った。
「実戦か……とうとうこの日が来たな。これまでの修業の成果を見せてやる!」
カズマは弱い自分が嫌いだった。
どこまで強さを求めても、必ずそれより上の奴は存在する。
そういう意味ではいつでも弱者と言える。
強さは相対的なものにすぎない。
「カズマ、出撃だ!」
カズマのもとにジャンがやって来た。
話しはもちろん実戦のことだ。
「ああ、わかっている。俺は自分の力がどこまで通じるか試してみたい!」
「それは頼もしいな。敵は象の妖魔バニードだ。奴は廃工場を根城にしていたらしい。奴はいくつも凶悪犯罪を重ねている。ここらで倒したいと思っていた。おまえの実戦デビューにちょうどいい相手だ」
「そいつは強いのか?」
「まあ、それなりに強いな。おまえより経験は上だ。安心しろ、私が後方に控えている。おまえの命が危ないと思ったらすぐに私は手を出す。ただ、それでも真剣勝負であることには変わりはない。気を引き締めていけ」
「あ、ああ」
カズマはひそかな不安と共に実戦へと向かった。




