表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

第6話 



「こっちだ!」


カイはネイの手を引き、複雑に入り組んだ路地裏を走り抜けた。

人目のつかないさらに奥の路地の奥へ滑り込む。


二人して壁に体を預け、息を整える。

ネイは座り込むようにして膝を抱えていた。


カイは少し間を置いてから、口を開いた。


「なあ、お前。どうしてあんな連中に追われてたんだ?」


ネイは一瞬びくりと肩を震わせた。

そして、答えを言おうとするように唇を動かす……が、途中でやめた。


「……わかりません。……というか、あまり……話したくありません」


「そっか……悪い、無理に聞こうとしたな」


カイはその反応に深くは踏み込まず、目を逸らして言った。


けれど、ネイは言葉を選ぶように、ぽつりと続けた。


「……でも、きっと……“これ”のせいです。……僕に、“変な力”があるせい」


「力……?」


ネイはこくりと頷く。

けれど、それ以上は語ろうとせず、腕を強く抱きしめるだけだった。


(異能──か)


カイは口には出さなかったが、その言葉の重みを感じていた。


「……まあ、いいさ。今は逃げ切っただけで充分。命拾いできたんだからな」


そう言って、カイがわざと軽く笑うと、ネイもわずかに唇をゆるめた。


――だが、その静けさは、すぐに破られた。


「……コツ、コツ、コツ……」


硬質な足音が、石畳の路地裏に響く。

ゆっくりと、こちらへ向かってくる。


「……!」


カイは反射的に立ち上がり、剣に手をかけた。

背後から迫る気配。その歩幅、そのリズム──聞き覚えがある。


振り返ると、そこには。

“倒したはず”の痩せた男が、無言で立っていた。


目は虚ろで、口は半開き。

だが確かに、生きて歩いている。いや、“動いている”。


「嘘だろ……殺した……はずだろ……?」


ネイの小さな声が、震えを含みながらも、はっきりと告げる。


「……あれは、“鬼化”です。僕の……力です…」


「……“鬼化”って……お前の異能か?」


カイは剣を抜きながら、後ろのネイに問いかける。

視線の先では、痩せた男がゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。


その歩みには、生きた人間の“揺らぎ”がない。

心も思考も削ぎ落とされたような、ただ“目的だけに向かう”動きだった。


「……はい。僕の力です。……一度だけ、死者を……“鬼”として呼び戻すんです」


ネイの声は小さいが、はっきりしていた。


「それって……蘇生ってことか?」


「違います……“命”じゃなくて、“動き”を戻すだけです。

心も、理性も、声も……もう、戻らない。……だから、あれはもう人間じゃないんです」


カイはその言葉を噛み締めた。

確かに、目の前にいる男は何かがおかしい。

さっき斬り捨てたときにはなかった、異様な“重み”が、その気配にある。



「……怖いんです。……僕が何をしてるのか、本当は……わかってなくて……

もし、次に呼び戻した誰かが……もっと酷いことをしたら……止められないかもしれない……」


その言葉に、カイは少しだけ目を細めた。

同情ではない。共感でもない。ただ、理解だった。


「……わかった。なら、お前はそこで見てろ」


カイは剣を構え直し、痩せた男へ一歩踏み出す。


「その代わり──俺はこいつに全力でぶつかる。

お前が作った鬼だろうが、過去に殺した奴だろうが……関係ねぇ。

今、俺の前に立ってるなら、ぶっ倒すだけだ」


闇の中で、カイの目が静かに光った。


次の瞬間、“鬼”が動いた。


“それ”は、一歩目から異常だった。


鬼と化した痩せた男が、足を踏み出した瞬間――カイの全身が警鐘を鳴らす。

速い。

さっきの斬り合いとは比べものにならない。

それはもう、ただの人間の動きじゃなかった。


「……っ、はえぇ!」


カイが踏み込む。

鋭く、躊躇なく斬りかかる。

狙いは頸動脈。迷いのない一閃。


だが──


ガキィン!


その刃は、鬼の剣に正確に受け止められた。

無言のまま、鬼は視線も動かさずに反撃の構えをとる。


「なっ──!」


間髪入れずに振るわれる返しの一撃。

剣筋は荒いのに、力が違う。カイは後方へ跳び退り、体勢を立て直す。


(まずい……明らかに“強くなってる”)


無意識のうちに、膝に力が入っていた。


鬼が走る。いや、突進する。

石畳を砕きながら、一直線に。


カイは剣を振り上げ、真正面から受けにいった。


「──うおおおおっ!」


打ち合い。

だが──


ゴガッ!!


次の瞬間、カイの体が宙を舞った。

剣ごと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「がはっ……!」


肺の空気が一気に抜け、視界が白く染まる。

背中が鈍く痺れ、剣は手から滑り落ちた。


(こんな……まるで、怪物じゃねぇか……!)


鬼は歩いてくる。

無言で、感情もなく、ただ殺すために。


ネイの力。

“鬼化”の現実。


――これが、“異能の世界”か。


カイは、唇を噛みながら、立ち上がった。

感想お願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ