怪力すぎる公爵令嬢は隣国の王子に引き取られる
3歳になる頃、窓から椅子をぶん投げたら部屋の窓に鉄格子を付けられた。
6歳になる頃、その窓の鉄格子を素手でのひしゃげたら母から力を抑える魔道具のブレスレッドを付けさせられ、「アクア、スプーンより重たいものは本当に持たないでおくれ」と真剣にお願いされた。
10歳になる頃、家の庭にある小屋を素手と脚で大破させたら、父は力を抑える魔道具を取り寄せると令嬢の両腕と両太ももに付けた。
15歳になる頃、屋敷の端に近い崖の一部を両手でもぎ取ったら、両腕と両太ももに加えて首とウエスト部分にも力を抑える魔道具を付けさせられた。
こうして私は通常の令嬢のように振舞うことができるようになったのだ。
そして学園にもようやく通えるようになったのだ。そうすると見た目は悪くなかったアクアは名だたる家の子息に熱のこもった視線を向けられるようになった。
だが、アクアは母とある約束を条件に学園へ通うことを許されたのだ。
それは”子息との恋愛禁止”というものだ。
悔しかったので「それなら令嬢との恋愛はいいのか」と尋ねたら、父と母が卒倒した。アクアは公爵令嬢なのでそんなスキャンダラスなことはしないと口を尖らせた。
だが仕方なく、子息たちには思わせぶりな態度も取らず、平民の女学生が公爵令嬢と婚約しているのにもかかわらず王子といい感じになり婚約破棄になることにも巻き込まれず、慎ましく学園生活を送っていた。
そうそう最近、魔道具の調子が悪いのか、ペンを握りつぶしてしまうことがあるが両親に相談すると心配されそうなので言わなかった。
実は両親に言えていないことはたくさんある。
この前、”辺境の地で原住民の方の生活を知ろう”という教育の一環で出かけた視察でのことだ。
こんな技術の発展した現代でもまだ、槍で動物の狩りをしているというので、槍を持たせてもらった。そして試しに動物に投げつけてみると、次々と動物に当たっていくではないか。
あぁ、槍だって十分現代に通用するのかと感心していたところ、「狩りすぎて、動物がいなくなってしまうからやめてくれ」と懇願された。
他の民族の原住民の方は魚を取っているようなので、どんなものを使っているのか見せてもらうと罠を仕掛けたり道具を使ったりして取っているようだった。
槍の件で怒られたことを反省し、難しそうな素手での魚とりに挑戦してみると、仕留めた魚で山を作ってしまい「取りすぎて、魚がいなくなってしまうからやめてくれ」と泣きながら懇願された。
また違う民族の原住民は弓矢で鳥を取るというので、弓矢は遠慮して石をいくつか拾うとまとめて空へと投げてみた。するとそのすべてが鳥へと命中し、次々に鳥が落ちてきてしまった。
これにはアクアも悪いと思い謝ると「災厄のごとく、鳥の雨を降らせないで下さい。自然神への誓いの貢ぎ物をもっと増やしますので、どうか怒りをお収め下さい」と土下座された。
どうやら私は文明の進展具合は関係なくやらかしてしまうらしい。
ある時、隣国の王子が交換留学で2週間、アクアの在籍する学園へやってきたのだ。
すると隣国の王子は熱心にアクアに話しかけているではないか。隣国の王子は毎日アクアに会いに来ては楽しく談笑しているようだった。
学園の生徒どころか国中の人がアクアと隣国の王子の会話を聞きたがっていたが、怖くて近づけなかった。
隣国の王子の交換留学の最終日、朝食を食べているとアクアは頬を赤らめながら父と母に「隣国の王子がご挨拶に来たいと言うがいいでしょうか」と聞いたら、「ぜひ来るように」と父は大きな声で返事をした。
子息に対しては、“だめだ、お前は家を没落させるだけではなく、物理的に家を潰す危険がある”と遠慮もなく禁止の一点張りだったのに、隣国の王子と聞いたら、この態度だ。
腑に落ちなかった私は「でも隣国の王子と仲良くしていいのか」と尋ねたら、「隣国だし、王族なので良い」と母は答えた。
ちょっと腑に落ちなかったので隣国の王子が来るまで、屋敷の端に近い崖をえぐり取って崖にそびえ立つ城を作ってやった。隣に建つ本物の屋敷よりも素敵だと思って、アクアは出来栄えに満足した。
夕方にアクアは隣国の王子を連れてくると、それはきれいな茶色の光沢のある髪に大きな瞳、高い鼻、チャーミングな唇に程よく締まった身体は他の令嬢が放っておかないほど整っていた。
父と母は手のひらを返したように大歓迎をした。そして隣国の王子は聡明で知識も良く知っており、父との会話も大いにはずんだ。
楽しい会食も終わりに近づいてきた頃、隣国の王子は「ご令嬢を隣国へ連れて行きたい」と言ってきたので、父と母は二つ返事に了承した。
そしてアクアはあるものを父と母に渡しながら別れの挨拶をした。
「私、向こうに行っても頑張りますわ」
父と母は渡されたもの見ると身体につけていたすべての魔道具だった。
「アクア⋯⋯これは付けていきなさい」
父は強めに言ったが、隣国の王子は「アクア嬢にはそんなものはいりません。令嬢がいれば何も入りません」と伝えた。
父と母は実の娘であるアクアとの別れより隣国の王子との別れを悲しんだ。
アクアはそれを見て、どうしでも腑に落ちなかったので、王子に頼んで時間を作ってもらい、崖に作った城の隣にそれを襲っているようなドラゴンも加えてやった。
そのあと、その崖はちょっとした観光地になった。
1年後、隣国では主要な道路の整備が1年で終わったと知らせを聞いた。
5年後には隣国の国中を結ぶ道路が完成し、都市の建物も立て直しが進んだ。
10年後には隣国は理想の国と言われるほど、公共事業が発展し建物が立ち並び娯楽施設も増えた。
アクアの父と母だけでなく、世界中の人々が隣国の王子が何をしたのか気になって仕方がなかった。
もし誰かに何をしたのか聞かれたら、隣国の王子はこう言うだろう。
「特別なことは何もない。隣にいてくれるアクア嬢に“君はいつも僕を喜ばせてくれるね”と感謝の気持ちを伝えたい」と。
適材適所って大事ですよね!
お読みいただき、ありがとうございました!
誤字・脱字がありましたら、ご連絡よろしくお願いします!
2/27 [日間] [週間]短編コメディー2位( [週間]短編コメディー15位)(驚愕)にランクインしました!皆さま、本当にありがとうございました!
[追記]
ptが伸びているので失敗ルートを悪ノリで作ってみました。
タイトル「【悪ノリ番外編】怪力すぎる公爵令嬢のルート選択を失敗しました」