6 結末
紫煙が錬成場の中央に、ゆらゆら舞っている。煙の源を辿ると、レオンが茶褐色の紙で巻かれたものに火をつけ、一服している姿があった。セシリアは、打ち負かされたことで、唇を強く噛み首を垂れていたが、苦味の中に甘さがある香りが鼻腔を刺激し、少し懐かしい匂いを感じた。匂いの元を辿ろうと、俯いた顔を上げるとフォルティスとの模擬戦を終えたレオンが、魔香草を吸っている姿が目に入った。父がよく吸っていたものと同じような匂いに感傷的になっていたが、我に帰り、レオンを厳しく指摘する。
「レオンさん!あなた未成年でしょ!?魔香草を吸うなんて何を考えているんですか!?」
「うん?ここは禁煙だったか?」
少し戯けてレオンが言う。
「そういう問題ではありません!未成年が吸ってはダメだと言っているんです!」
先ほどまで見るからに気落ちしていたセシリアであったが、レオンの衝撃的な行動を注意するため、毅然とした振る舞いでレオンに近づき注意を促す。
「こいつを吸うことで一時的に魔力の回復と…反動を抑えることができるから必需品なんだがな…」
意味深に呟くレオンであったが、おとなしくセシリアの言うことを聞き、魔香草についた火種を履いているブーツの裏で揉み消す。灰と残り火が小さな火花となって舞い上がり、そして、口から苦甘い香りを漂わせながら、セシリアの耳元で囁く。
「どうなるかは相手次第だが、俺の力を見せたことで蛇野郎はすでに気づいてるはずだ。蛇野郎に俺の存在を気づかせばなんらかの行動をとってくるはずだ。そうすれば探す手間も省けるからな。だからお前には、最上級の魔奏を使わさせ、俺の力を示させてもらった。弱い魔奏じゃあ意味がないからな」
セシリアは、レオンの吐息から父の懐かしさを漂わす苦甘い香りに安らぎを感じると共に、同じ年頃の異性に耳元で囁かれたことで、恥ずかしさで体を硬直させる。
「それで、転入試験とやらは合格でいいと思うが俺はどうしたらいい?」
セシリアとフォルティスに向かって改めてレオンは問い直す。
「わたくしからは何も言うことがないほど合格です。本当にわたくしが使える最高の魔奏を無力化されたので」
セシリアは硬直していた体を、素早く動かし恥ずかしさを誤魔化すように姿勢を正して言う。
「私の無茶振りにも答えてくれて礼を言う。試験はなんの問題もなく合格だ。君の魔奏は今まで見たことがない特殊なものに見えるが…それで試験が不合格となっては優秀な魔奏士を育成する我が校の理念にも反するからな。剣術についてはまた色々と教えてもらうぞ」
フォルティスは悔しさを滲ませてはいたが、教師としての威厳から表情には出さず言う。
「そいつはよかった。今日のところは終わりでいいか?」
「転入準備もありますし、今日は授業はないので、これで終わりでいいですかね?フォルティス先生?」
2人の問いにフォルティスが答える。
「そうだな。タイミングがいいことに秋期休暇がおわり本格的な授業は明日からのため、今日はすることはないな。転入手続き等は私の方で終わらせておくが、後で必要なものを送らせてもらうが…寮の方はどうする?」
「そうだな…飯はうまいか?」
フォルティスは、呆気にとられたが、気を取り直し端的に答える。
「今日は寮の食堂は休止中だな」
「そうか…セシリアの飯が食べたいな」
何かを察したような顔をフォルティスがしたため、取り繕うように矢継ぎ早にセシリアが答える。
「先生!ええっと、彼は遠い親戚みたいな関係で、昨日こっちに来たばかりだったので、私の寮宅に招待しただけで決してそういう関係の方でありません!!」
慌てふためき目を泳がしながら答えるセシリアに対して、なぜか頷きながらフォルティスが返す。
「そうか。ならセシリアの寮宅に書類等は送らせてもらうぞ。特待生であることと君の今までの校内での振る舞いから口やかましくは言わないが……」
含みを込めた後、フォルティスは真面目な顔で言う。
「不純異性交遊はだめだぞ。学業にも支障が出るからな」
「なななな、何をいってるんですか!先生!やめてください!彼とはそういう関係ではありません!」
顔から湯気が出るんではないかと思わせるほど、耳まで真っ赤に染めたセシリアは、両手をぎゅっと握りしめ、肩を小刻みに震わせながら叫ぶように言う。
「楽しそうだな。お前たち」
人ごとのことのように言うレオンに対して、セシリアは言う。
「誰のせいでこうなってると思ってるんですか!?お食事は抜きにしますよ!」
「むっ、それだけは勘弁してくれ…」
珍しく潮らしく答えるレオンであった。
時を同じくして、セラフィム魔奏学園のとある一室にて1人の少女が鏡の前で佇んでいた。鏡を見つめる。 鏡の中には、金髪碧眼の美少女が微笑んでいる。
「姉さん…」
鏡が割れる。 割れた破片に、セシリアの顔が映る。 少女の目から、涙のようなホクロが血で滲む。
「…また、奪われる…奪われるくらいなら壊さなくちゃね」
そして少女は笑う、口を醜く歪めながら。




