1 出会い
黄金の長髪をなびかせながら走る少女の荒い息遣いと草をかき分ける音が、暗闇の森の中に響いている。
「ハアッハアッ…ハア……」
彼女の後方を、赤色と黒色の斑紋をした鱗を纏った大蛇が体をうねらせながら、追走している。獰猛な息遣いは、森中の生物達が息をひそめるには十分であった。
「我が家はどうしてこんなに、蛇との縁があるのですかね…」
彼女は肩を上下にゆらし、肺が締め付けられる痛みに襲われながら、諦めと憎しみの気持ちをこめてつぶやいた。
森の中を抜けると、開けた場所にでてしまった。
「やられるなら、せめて…」
邪悪な大蛇は、木々をなぎ倒した後、彼女の眼前に姿を現した。
彼女は恐怖で押しつぶされそうになる気持ちを隠すために、腰に添えていた指揮棒を震える手で、力の限り握りしめる。彼女の碧眼には強い憎しみの色がにじみ出ていた。
「独奏 光槍」
彼女がそう唱えると、白銀の光を灯した槍が出現し、大蛇に向かって高速で解き放たれる。
白銀の槍が大蛇に直撃し、暗闇の森を照らす。光が輝きを失ったのちに現れたのは、傷ひとつついていない鱗であった。
先の割れた舌を出し、大蛇は舌なめずりをする。自分がこの場で絶対的な強者であることを確信している。
「お父様、お母様、敵をとれず申し訳ありません」
彼女はそうつぶやきながら、唇をかみしめ胸にかけたリングを握りしめる。相手の最後の言葉を聞くのをまっていたのか、強者の余裕なのかは分からないが、彼女が呟いた後、大蛇は大口を開け飛びつく。彼女は目をつぶり自分の最後を迎えようとした。
彼女はいつまでたっても訪れない死の痛みを不思議におもいながらも、痛みなく絶命し、死後の世界を迎えたのかと思い、握りつぶすように閉じていたまぶたをゆっくりあける。
目を開けた先に広がっていたのは、あの世でも天国でもない、目の前で脳天を黒刀で貫かれ絶命した大蛇の姿であった。大蛇の鮮紅色の血しぶきが飛び散り顔面に飛び散り黄金の髪から滴る。その先に見えたのは、黒刀を大蛇に突き刺した、癖毛で黒髪の、冷たい切れ目をした男であった。
「弱い奏者が一人で、こんなとこをうろつくな」
少年は黒刀を引き抜き、そう呟いた。
少年と少女のはじまりであった。




