伝説のペンギン
氷の山にたどり着いたじーたち。寒風が吹きすさぶ中、ひよはガタガタと震えながら叫んだ。
「さ、寒い! なんでこんな寒い場所に来るのよ!」
「なるほど、確かに寒い」じーが頷く。
「お前、毛皮あるから平気だろ」とニックがツッコむが、じーは「そうとも言う」と特に否定しなかった。
レンとアムも防寒対策が甘かったのか、「寒すぎる……」と小さく震えている。
「このままだと凍えるな……」
ひよが魔法を使おうとした瞬間、じーは黙ってアイテムボックスを開いた。そして、何かを取り出す。
「……これが役に立つとはな」
「何それ?」
「パンダ師匠がくれた『パンギンスーツ』だ」
「は?」
次の瞬間、じーはモフモフの着ぐるみのようなものを広げた。まるでパンギンの毛皮のようなふわふわした質感。
「防寒対策だ」
「いやいや、ちょっと待って!」ひよが慌てて手を振る。
「防寒って……着ぐるみ!? もっと魔法的な防寒具とかないの!?」
「あるが、これは特に暖かい」
「モフモフ……」アムの目がキラリと光る。
「ちょっと可愛いかも……」レンも興味津々だ。
「俺の分もあるのか?」ニックが聞くと、じーは無言で別のパンギンスーツを取り出して手渡した。
そして——
「うわぁ……ぬくい……」
「これ……最高では?」
「モフモフモフ……」
全員、着ぐるみ姿のパンギン集団になっていた。
「ちょっと待って! なんでみんな素直に着てるのよ!? こんなの……こんなの……」
ひよはスーツを手に取って少し悩んだが、寒さには勝てず……結局着た。
「……あったかい」
「だろう?」
こうして、じーたちは見た目まで完全にパンギンになりきった状態で、伝説のペンギンのもとへ向かうこととなった。
伝説のペンギン登場! しかし……
じーたちは険しい氷の道を越え、ついに伝説のペンギンと対峙した。
「……いたぞ」
目の前に立ちはだかるペンギンは、凛々しくも堂々とした姿だった。鋭い眼光に、風格を漂わせるその佇まい。
まさに伝説の存在——
「えっ……」
レンとアムの動きが止まった。
「なにあれ、モフモフ……」
「やばい……触りたい……」
「え、ちょっと!? 戦うんだからね!?」 ひよが焦るが、レンとアムはペンギンにじりじりと近づいていく。
ペンギンもペンギンで、じーたちをじっと見つめた後、小さく呟いた。
「……お前たち、なぜそんなにパンギンなのだ?」
じーは「なるほど」と頷いた。
「パンギンスーツを着ているからだ」
「パンギンスーツ……?」
「そうだ」
「なんだそれは?」
「パンダ師匠がくれた」
ペンギンはじーたちの姿をじっくりと観察し、困惑したように首を傾げた。
「つまり、お前たちはパンギンではなく、パンギンスーツを着た者たちということか?」
「そういうことだな」
「……つまり、モフモフなのは偽物……?」
「モフモフは本物だ」
「…………」
ペンギンはしばし沈黙した後、一歩前に出た。
「触ってもよいか?」
「よい」
ペンギンはじーの腕をモフモフと撫でる。
「…………」
「…………」
「……確かに、モフモフは本物のようだ」
「そうだろう」
「これは……悪くない」
「だろう?」
ペンギンは神妙な顔でじーたちを見回し、結論を下した。
「お前たち、戦う前にひとつ言っておこう」
「なんだ?」
「……私もパンギンスーツがほしい」
「…………」
「…………」
「え、ちょっと待って!? なんでそうなるのよ!」ひよが叫ぶ。
「パンギンスーツは一着しかないのか?」
「あるが、お前のサイズはない」
「そんな……」
ペンギンは肩を落とし、じーをじっと見つめる。
「……それならば、せめてモフモフさせてくれ」
「許可する」
こうして、戦うはずだった伝説のペンギンがじーたちが、ただひたすらモフモフする風景が広がった。




