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9 お触り禁止

「「キャサリン嬢!?」」 


 アラスター王太子とウォーレンの声が重なる。


「…ニャー…(はい)」


 相変わらず猫の鳴き声しか出てこない。


 もっともこの姿で人間の言葉を喋るのもシュールだけどね。


 着ていたワンピースに埋もれるような形で座っている私を抱き上げようとアラスター王太子が手を伸ばしてきた。


 流石にもうアラスター王太子に抱きかかえられたくはないわね。


 何しろ人間に戻ったら裸なんだってわかったから。


「アラスター様! おやめください!」


 その途端、ウォーレンがアラスター王太子の手を押し留める。


「何故止める」


「キャサリン嬢は服を着ていらっしゃいません。いくら猫の姿とはいえ抱き上げて良いものではありません」


 うんうん、と頷く私をアラスター王太子は恨めしそうに見ているけれど、これだけは譲れないわ。


「わかった。エイダを呼んでくれ。それならば良いんだろう?」


「呼んできますからそのまま出来ませんいてください。くれぐれも触らないように。キャサリン嬢、アラスター様に触られそうになったら引っ掻いても良いですからね」


 そう言い置いてウォーレンは部屋を出て行った。


 主従関係にしては妙に気安さがあるから、小さい頃から交流があるのかしら。


 アラスター王太子は私に手を伸ばしかけてはやめるという事を何度かを繰り返している。


 流石にちょっと可哀想になってきた頃、ウォーレンがエイダを連れて戻って来た。


「お待たせいたしました、アラスター様。キャサリン様がまた猫の姿になられたそうですね」


「ああ、そうだ。どうやらクシャミで姿が変わるらしい。だが、猫のままでは会話が進まないので人間に戻してやってくれないか」 


「承知いたしました。キャサリン様もそれでよろしいですか?」 


 エイダが私の意志を確認するように尋ねてくれるけれど、私としても異論はない。


 コクリと頷くと、エイダは私が着ていた服をひとまとめにして私を抱き上げた。


「それでは一旦下がらせていただきますね」

 

 ウォーレンが開けてくれた扉を出ると、廊下を通って隣の部屋に入って行った。


 隣の部屋とは違ってこじんまりとした造りになっている。


 ここは従者が使う部屋でエイダが割り当てられているようだ。


「キャサリン様。あまり座り心地は良くないかもしれませんが、とりあえずベッドの上に降ろしますね」


 エイダは私を自分のベッドの上にそっと降ろしてくれた。


 貴族が使うようなベッドではないけれど、それなりに寝心地の良い布団が敷かれている。


「クシャミで人間と猫に変化されるそうですね。試しにクシャミをさせてみてもよろしいですか?」


 猫のままじゃ話す事も出来ないので私としても断る理由はない。


「ニャー(はい)」


 コクリと頷くとエイダはティッシュの先ををコヨリにして私の鼻先をそっとくすぐった。


「クシュン!」


 クシャミと同時にポンッと私の姿が人間へと戻る。


「良かったですわ。もし戻らなかったらどうしようかと思っていました」


 エイダは安心したように微笑むけれど、素っ裸の私としてはちっとも安心出来ない。


 いくら女性同士とはいっても一人だけ裸なのは居心地が悪いわ。


 私はエイダから手渡された下着を素早く身につけると、それからワンピースを身にまとった。


 エイダに髪を整えてもらうとようやく落ち着いた気分になる。


「ありがとうございます、エイダさん」


「とんでもございません。アラスター様のお世話係として付いて参りましたが、それほどする事もなくて持て余しておりました。こうしてキャサリン様のお世話が出来て嬉しいですわ」 


 エイダさんに付き添われてアラスター王太子の所に向かう。


 部屋に入るとホッとしたような表情を浮かべたアラスター王太子に出迎えられた。


「良かった。あのまま戻らなかったらどうしようかと思ってたよ。とりあえずこれからの事について話をしようか」


 私は頷くとアラスター王太子の向かいに腰を下ろした。


 エイダは私の後ろに控えてくれている。


 またクシャミで猫の姿になってもすぐにエイダが対応してくれるようだ。


 こうなってくるとつくづく花粉症でなくて良かったと思う。


 クシャミの度に姿が変わるんじゃ人前になんて出られないものね。


 それにしても、アラスター王太子が言っていたように私が公爵家から籍を抜かれているとしたら、私はもうこのエヴァンズ王国にはいられないと言うことなのかしら。

 

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