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75 脱出の後

 パメラがキャロリンの部屋に出向くと、開け放しているはずの扉が固く閉じられていた。


(扉が閉まっているということは、セドリック様がキャサリンと既成事実を作っているとみて良いのかしら。これでもうキャサリンだとわかっても婚約破棄される事はないわね)


 パメラにとってはどちらかがセドリック王太子と結婚してくれさえしたらそれで構わなかった。


 だが、それにしては侍女達が部屋の外にいないのが気になった。


(ただ単に扉を閉めているだけなのかしら?) 


 軽くノックをして扉を開けると、ベッドの中で睦み合うセドリック王太子と侍女の姿があった。


(キャサリンじゃない! 一体どういう事!)


 しかも他の侍女達は魂が抜けたような無表情で部屋の隅に立ち尽くしている。


「ヴェラ! これは一体どういう事なの!」


 パメラが叫ぶと、何処からともなくヴェラが姿を現した。


「お呼びですか? 奥様」


 しれっとした顔で問いかけるヴェラにパメラは怒鳴り散らす。


「『お呼びですか』じゃないわ! どうしてキャサリンじゃなくてあの侍女がセドリック様と一緒にいるの! キャサリンは何処に行ったの!」


 青筋を立てて怒鳴るパメラにヴェラは肩をすくめた。


「どうやらキャサリン様を連れ戻しに来た魔法使いの仕業のようですね。どうします? あの侍女をキャロリン様に仕立て上げますか? それとも何事もなかった事にしますか?」


 ヴェラに選択を迫られてパメラは言葉に詰まった。


 何事もなかった事にすれば、婚姻による王家との結びつきもなかった事になってしまう。


 この際、実の娘ではなくてもあの侍女をキャロリンとして嫁がせる方が良いだろう。


「仕方がないわ。あの侍女をキャロリンにしてちょうだい。彼女の両親には『駆け落ちしていなくなった』と伝えておくわ」


「承知しました」 


 ヴェラが杖を振るうとベッドの中の二人はピタリと動きを止めた。


 それと同時に侍女の顔はキャロリンのものになっていた。


 起き上がったセドリック王太子は、パメラの姿を見ても動じる事はなかった。


「公爵夫人も人が悪いな。私とキャロリンの邪魔をするなんて」


 ヴェラの魔法による言動なのか、素で言っているのか判断がつかないパメラは引き攣った笑みを浮かべる。


「申し訳ございません、セドリック様。それよりもキャロリンとこうなった以上、責任は取っていただけますか?」


「当然じゃないか。キャロリンさえ良ければこのまま王宮に連れて行ってもいいんだが、どうだろう?」


 セドリック王太子に問われた侍女は、胸元をシーツで覆ったままコクリと頷いた。


「わかりました、セドリック様。それでは急いで準備をさせましょう」


 パメラは部屋の隅にいた侍女達にキャロリンとなった侍女の支度をさせた。


 侍女服からドレスへと着替えた侍女は、キャロリンの顔でセドリック王太子に寄り添う。


「ああ、嬉しいよ、キャロリン。今日からずっと一緒にいられるね」


 侍女の腕を取ったセドリック王太子は、満面の笑みでパメラに伝える。


「結婚式の日取りが決まったら連絡するよ。それじゃあ、行こうか」


 王宮へ向かう二人を見送ったパメラは、ヴェラのほくそ笑む顔には気付かなかった。


 あの侍女がヴェラの娘で、素性を偽って公爵家に入り込んでいた事を。


 娘がセドリック王太子の事を好きになったと知ったヴェラは、ずっと娘とキャサリンを入れ替える機会を探っていた。


 すると、キャサリンの代わりにキャロリンが婚約者になり、キャサリンが呪われて猫になった。


 キャサリンに呪いをかけたのがキャロリンだと気付いたヴェラは、いずれキャロリンが呪い返しに合うと踏んでいた。


 例えば呪い返しに合わなくても、いずれキャロリンと入れ替えさせるつもりだったヴェラは、サイモン達がキャサリンを取り戻しに来たのに便乗した。


 サイモンは適当に選んだつもりでも、そこにはヴェラの思惑が入っていたのだ。


 こうしてヴェラは自分の娘の恋を叶えたのだった。

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