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7 悲しみのBeliever

 アラスター王太子が入って来たので立ち上がって挨拶をしようとしたら、軽く手でいなされた。


「キャサリン嬢。ここは私的な場所ですのでかしこまった挨拶は必要ありません。それにしてもまさかあなたが猫に姿を変えられていたとは…。何があったか聞かせてもらえますか?」


 アラスター王太子は私の向かいに腰を下ろすと、私を安心させるように優しく微笑んだ。


 アラスター王太子の後ろには従者であるウォーレンが控えている。


「助けていただきありがとうございます。私も実のところ何があったのかさっぱりわかっていません。朝、目を覚ましたら既に猫になっていたんです。そのうちにメイドが部屋に入ってきて私を見つけて外に追い出されてしまいました。ご存知のように話す事も出来なくなっていたので、あてもなく歩いている所をアラスター様に拾っていただいたというわけです」


 ここで、私が前世を思い出したとか言う必要はないだろう。


 だけど、私の話を聞いてアラスター王太子が何か言い淀んでいるのはどうしてかしら?


「そうだったんですか。朝起きたら猫に…。どうやら禁術である呪いをかけられたようですが、そのような人物に心当たりはお有りですか?」


 私に呪いをかけた人物…。


 朝から考えてはいるけれど、誰もが怪しく思えて一人に絞り込めないでいる。


「私がセドリック王太子の婚約者である事を心良く思っていない方はいらっしゃいますが、その方達の誰かかどうかはわかりません。何しろアラスター王太子もご存知のように、昨夜の夜会で婚約解消を告げられましたから…」


 セドリック王太子の婚約者の座を狙っていた令嬢達も昨夜の夜会に顔を出していたから、私が婚約者でなくなった事を知っているはずだ。


 だからわざわざ私に呪いをかける必要もなくなったはずなのに、どうして私は猫にされたのだろうか?


「確かにそうですね。キャサリン嬢がセドリック王太子の婚約者である事に不満を持っていたなら昨夜の婚約解消で溜飲を下げているはずですから、呪う必要はなくなったわけですよね」


 アラスター王太子は顎に手を当てて考え込んでいる。


 そんな姿もかっこいいと思わせるんだから罪な男だわ。


「呪いをかけた相手はともかく、こうして人間に戻れたんですから、私はひとまず自宅に戻ろうと思います」


 これ以上ここにいてもアラスター王太子の迷惑になってしまうわ。


 そう思って自宅に帰ると提案したのに、何故かアラスター王太子は慌てふためいている。


「お待ちください。そんなに急いで戻られなくても…」


 何故か私を引き止めようとするアラスター王太子に私は首を傾げた。


「これ以上こちらにいてはアラスター王太子にもご迷惑でしかないでしょう。助けていただいたお礼は後日改めてお伺いいたしますわ」


 そう言って立ち上がろうとした私をアラスター王太子はなおも押し留めた。


「キャサリン嬢、お待ちください」


 怪訝な顔をする私にアラスター王太子は「ハァ」とため息を吐くと、意を決した顔で私に告げた。


「実は、キャサリン嬢を拾った時はレイノルズ公爵家を訪れた後だったのです。キャサリン嬢とお話をするために訪れたのですが、そこでレイノルズ公爵夫人にこう告げられました。『キャサリンは公爵家を出て行った。セドリック王太子に婚約解消を告げられたキャサリンは公爵籍を抜く』と」


 アラスター王太子が酷く苦い顔をしているのは、私を慮っての事だろう。


 まさかお母様にそんな事を言われていたなんて…。


 セドリック王太子に婚約解消をされた私は、もう公爵家では利用価値のない人間だと言うことなのだろう。


 両親に厳しく育てられたとはいえ、それなりに良好な親子関係だと思っていたが、どうやら違っていたようだ。


 キャロリンも私とセドリック王太子があまり親密でないのを、知っていてセドリック王太子に近付いたのだろう。


 そしてまんまと私からセドリック王太子を奪い去った。


 キャロリンに負けた私は両親にとっては不要な存在に成り下がってしまったわけだ。


 私は今まで何のために頑張ってきたのだろう。

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