67 探索
ヴェラは自室に戻ると魔法でケージを作り出し、その中に猫になったキャロリンを放り込んだ。
放り込まれた途端、硬直から解けたキャロリンはケージの中でゴロゴロと転がる。
「ニャッ! ニャー!(ちょっと! 痛いじゃないの!)」
起き上がったキャロリンが抗議をするがヴェラは笑って取り合わない。
「おや、失礼。そもそもご自分が呪いに手を出すのが悪いんですよ。ちゃんと本の中にリスクについて書かれてあったでしょう?」
ヴェラはそう告げた後、何かを思い出したようにポンと手を打った。
「そういえばキャロリン様は深く物事を考えるのがお嫌いでしたね。きっと呪いをかけられる事に集中し過ぎてリスクについては気が回らなかったんですね」
図星を刺されてキャロリンはグッと言葉に詰まる。
確かにキャロリンが見つけた本には呪いの他にゴチャゴチャと書き連ねてあった。
それらをすべて読むのが面倒だったキャロリンは、呪いのかけ方のみを読んで実行したのだ。
「ニャー、ニャー!(私をどうするつもりなの!)」
キャロリンが見ていると、ヴェラは台の上に向かって魔力を込めている。
「奥様にお約束したとおり、キャサリン様の居場所を突き止めるんですよ。どうせキャロリン様が呪った相手はキャサリン様でしょう? …さあ、これでよし」
キャロリンはそこに魔法で作られた道具を見てゾッとした。
猫一匹が横たわれる位の大きさの板に四か所の拘束具が取り付けられている。
「ニャー!(やめてよ!)」
キャロリンはケージの奥へと移動するが、すぐにヴェラによって身体の自由を奪われ、仰向けに拘束具に括り付けられた。
「奥様には好きにしていいと言われましたからね。大丈夫、命までは取りませんよ。もっともいつまで正気でいられるかはわかりませんけれどね」
ヴェラは鼻歌でも歌うような調子でキャロリンに笑いかける。
キャロリンは拘束されたままポロポロと涙を溢すが、ヴェラはそんな事には気にもとめていない。
「さて、呪い返しが何処から来たのか探りましょうかね。そうすれば自ずとキャサリン様の居場所も判明するでしょう」
ヴェラの手がキャロリンの頭へと伸びてくる。
その指先に伸びた赤い爪がキラリと光って見える。
「……!」
キャロリンの叫びは声にはならなかった。
ヴェラがキャロリンの頭に指を当てると、その爪の先がキャロリンの頭に食い込んでいく。
「猫の頭は小さくて扱いやすいわね。今度から頭の中を探る時はすべて猫にしてからにしようかしら」
キャロリンは既に気を失ったようで、先程からピクリとも動かなくなった。
「呪い返しを行ったのは…。コールリッジ王国のサイモン…。あの魔法使いね。…と言う事は、キャサリン様はコールリッジ王国にいる事になるわね…」
ヴェラはキャロリンの頭の中からサイモンの魔力の残滓を抜き取った。
この後を追っていけばキャサリンの元に辿り着けるはずだが、当然その場にはサイモンもいるに違いない。
「…直接乗り込むわけにはいかないかしらね。無駄にサイモンと戦いたくもないし…。近くまで行って隙を見てキャサリン様を連れ戻すしかないわね」
そう独りごちるとヴェラは猫の姿のまま気を失っているキャロリンを見下ろした。
「奥様から楽しい玩具も頂いたし…」
ヴェラは猫の頭をそっと撫でる。
その指先にはもう尖った爪はなかった。
ヴェラはキャロリンの拘束を解くと、元のケージの中にキャロリンを閉じ込める。
キャロリンはうっすらと目を開けたが、その目には何も映っていなかった。




