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54 ロナルドの受難

 オリヴァーを抱っこしたまま研究室に戻り、そのままソファーへと寝かせた。


 猫のままのオリヴァーは一瞬身じろぎをしたけれど、そのまま丸くなって寝てしまった。


 猫はよく寝るから『寝子』とも言うと聞くけれど、あながち間違いでもないかもね。


 ケンブル先生は相変わらず魔道具の修理に没頭しているようで、私が戻ってきた事にも気づいていない。


 そもそも私とオリヴァーが庭に出たのすら気付いていなかったのかもしれないわね。


 オリヴァーも寝てしまったし、ケンブル先生の邪魔をするわけにもいかないから、この後どうしようかと考えていると、『どこでも◯ア』からアラスター王太子とウォーレンが入って来た。


「キャサリン嬢、サイモンの居場所がわかったぞ!」


 その大きな声にソファーの上のオリヴァーの身体がピクリと反応する。


「しーっ」 


 人差し指を立てて口に当てると、アラスター王太子はパッと口に手を当てた。


「…すまない。何か不味いことを言ってしまったか?」


 口に手を当てたまま、小声で尋ねるアラスター王太子に私はソファーの上を指差した。


「オリヴァー様が寝ていらっしゃるので静かになさってください」


「オリヴァー? 何処にオリヴァーが?」


 アラスター王太子は怪訝な顔をしてソファーを見渡している。


 あら?


 ウォーレンからオリヴァーが猫になれる事を聞いていないのかしら?


「アラスター様、すみません。先程、母から聞いたのですが、ケンブル先生の魔道具でオリヴァー様も猫になれるそうです」


 ウォーレンにソファーの上で寝ている猫を指差されて、アラスター王太子は目を瞬いている。


「…オリヴァーも猫になれる? 私もケンブル先生に魔道具を作って貰ったら、キャサリン嬢に撫でてもらえるのだろうか… いや、しかし…」


 アラスター王太子が何か呟いているけれど、よく聞こえないわ。


 オリヴァーから少し離れた場所に腰掛けると、アラスター王太子が少し声を落として話しだした。


「宰相に宛てた手紙によるとサイモンはモーリーにいるらしい。だが、モーリーはこの国のはずれにあって、馬車で移動するとなると時間がかかる。なんとか時間が短縮出来ればいいのだが…」


 アラスター王太子はチラリとケンブル先生に目をやるが、こちらの話はまるで聞こえていないようだ。


 そこへまたさっきのようにドタドタと足音が近づいて来た。


「アラスター様、わかりました! サイモンの居場所がわかりましたよ!」


 扉を勢いよく開けたロナルドが大声で捲し立てる。


「「しーっ」」


 私とアラスター王太子がロナルドを注意すると、ロナルドは目をパチクリとさせた。


「何か不味かったですか?」


「そんなに大声を出さなくても聞こえる。それよりサイモンの居場所とはモーリーの事か?」


「どうして知っているんですか? 苦労して魔術師達に聞いて回ったのに…」


 ロナルドは不満顔だけれど、先にアラスター王太子が情報を持ってきたのだから仕方がない。


「出来た!」


 不意に聞こえたケンブル先生の声にオリヴァーが身体をピクリとさせたが、目を覚ましたりはしなかった。


「あら? ロナルド、来てたの?」


 そっけないケンブル先生にロナルドはちょっと口を尖らせている。


「それよりもサイモンの居場所がわかったんだが、少し遠いんだ。何か魔道具で早く着く方法はないか?」


「遠いって、何処ですか?」


「モーリーなんだが…」


 アラスター王太子に地名を告げられてケンブル先生はふるふると首を横に振った。


「無理ですね。一度行った事のある場所でないと、この扉は設置出来ませんし…」


「そうか。やはり地道に馬車で移動するしかないな。ロナルド、お前も一緒について来い。知っている人間がいる方が会ってくれやすいだろう」


 いきなり同行を指名されたロナルドは目に見えて慌て出した。


「えっ、そんな! モーリーまで行っている間、ヘレナとは離れ離れじゃないですか! ヘレナも俺がいないと寂しいだろう?」


 けれどケンブル先生はあっさりと首を振って否定する。


「全然。『亭主元気で留守がいい』って言うからね。しっかりお役に立ってきなさい」


『亭主元気で留守がいい』って、面と向かって言われてロナルドは涙目になっている。


 ちょっと可哀想だけれど、私の呪いが解けるかどうかの瀬戸際なんだから我慢して貰うしかないわね。


 こうしてモーリーまで馬車で向かう事が確定した。 

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