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50 手遅れにならないうちに

「魔法使いのサイモンか。僕も名前だけは聞いた事はあるが、実際に会った事はないな。誰か知っていそうな人物に心当たりはないか?」


 アラスター王太子はグルリと研究室の中にいる人達を見回すが、誰も知っていると答える者はいない。


 もちろん、私が知っているはずもない。


 万事休す、と思った頃、おずおずとエイダが手を上げた。


「アラスター様。もしかしたら国王陛下か宰相がご存知かもしれません。昔はよく一緒に食事をしたりしておられましたから」


 宰相って、今牢獄に繋がれているあの宰相の事よね。


 早く話を聞きに行かないと、処刑されてしまうんじゃないのかしら?


 その事に思い至ったらしく、アラスター王太子は慌ててウォーレンを連れて『どこでも◯ア』に向かった。


「すぐに父上に話を聞きに行ってくる。済まないがこれで失礼する」


 慌ただしく出て行ったアラスター王太子を見送ると、ロナルドは魔道具をケンブル先生に渡した。


「私も魔術師達にサイモンの行方を知っている者がいないか聞いてみよう。ヘレナ、魔道具の修理は早めに頼むぞ」


「だから、もっと質の良い魔石を持って来いって…ああ、もう!」


 ロナルドはケンブル先生の小言を聞くよりも先に研究室を出て行った。


 この研究室から出るためにサイモンの件をダシにしたみたいだわ。


 ロナルドが出ていくと、エイダはオリヴァーの首輪のボタンを押して猫から人間の姿に戻した。


「うわぁ、なんか緊張した。エイダったら、せめて一言言ってからボタンを押してよ」


「申し訳ございません。あまりにも扉が開くのが早くて、ボタンを押すのが精一杯でした」


「別に謝らなくても良いよ。それより僕、ちゃんと猫になれてたかな? ロナルドに抱き上げられたらうっかり喋っちゃったかもしれないな」 


 ふるふると頭を振るオリヴァーが可愛くて、思わず笑みが溢れる。


「…ああ、もう! こんなに壊して…。何をどうやったらこんなに壊れるのよ!」


 ブツブツと文句を言いながら、魔道具の修理を始めるケンブル先生の邪魔にならないように、私とオリヴァーは最初の予定通り、散歩に行く事にした。


 今度はオリヴァーが自分でチョーカーのボタンを押して再び猫になる。


 研究室の掃き出し窓を開けて、猫になったオリヴァーと一緒に庭に向かう。


 私の部屋から行ける庭とはまた別の場所のようだ。


 私の後ろからエイダも付いてくるので迷子にはならないだろう。


「すごーい。目線が全然違う。猫の目線ってこんなに低いんだね。キャサリン嬢とエイダがものすごい巨人になったみたいだ」


 猫の姿で辺りをきょろきょろしているオリヴァーが私とエイダを見上げて、感嘆の声をあげている。


 私がオリヴァーを見上げた時もそんな風に感じたのだから、それよりも大きい私とエイダはもっと大きく感じるでしょうね。


 オリヴァーは普段、走り回ったりする事がないみたいで、大はしゃぎで庭の中を走り回っている。


 それを微笑ましく見守りながらも、先程のサイモンの事が頭から離れない。


 アラスター王太子は無事に国王陛下や宰相から話を聞く事が出来たかしら。


 いけない!


 今はオリヴァーの事に集中しないとね。


 散々走り回ったらしく私の足元に戻ってきたオリヴァーがしきりにあくびをしだした。


「そろそろ戻りましょうか? オリヴァー様も走り回ってお疲れでしょう」


 コクリと頷くオリヴァーを抱き上げると、びっくりしたように四本の足を突っ張って私に抱っこされないように抵抗している。


 さっき『ちゃんと猫になれてた?』と聞いてきたオリヴァーだったけれど、十分猫としてやっていけると思うわ。


「ごめんなさい、オリヴァー様。抱っこされるのは嫌かしら?」


 オリヴァーの目を覗き込むと、まん丸の目が私を見つめて、突っ張っていた力を緩めて大人しく私の腕に抱かれた。


 子猫サイズのオリヴァーがとても可愛いわ。


 このままずっと猫のままでいてほしいなんて思った事は内緒にしておこう。

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