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48 夫婦喧嘩は猫も食わない

 昼食を終えるとケンブル先生はまた何かの作業に入ってしまった。


 見学にも飽きてしまったので私とオリヴァーは一緒に庭を散歩する事にした。


 もちろん、オリヴァーの姿を他の人に見られるわけにはいかないので、ケンブル先生の作ってくれた魔道具の出番である。


 オリヴァーがチョーカーのボタンを押そうとした時、誰かの足音が近付いてくるのが聞こえた。


(誰かしら?) 


 首を傾げていると、何故かエイダが慌てたようにオリヴァーのボタンを押した。


 カチッ!


 途端にオリヴァーの姿が猫に変わる。


「エイダ、どうしたの?」


「しっ! 静かに」 


 オリヴァーが驚いて声をあげると、エイダは口に人差し指を当てて黙らせる。


 オリヴァーが押し黙ると同時に研究室の扉が開いた。


「ヘレナ! 魔道具が壊れたぞ! 早く直してくれ!」


 そう言いながら部屋に飛び込んできたのは、ローブを身にまとった男性だった。


 年齢はケンブル先生と同じくらいだけれど、「ヘレナ」って誰かしら?


 もしかしてケンブル先生の名前なの?


『魔道具』って言っているから、当然ケンブル先生の事に違いないわ。


 ローブを着た男性は入って来た後でようやく私達が居ることに気が付いたようだ。


「これは失礼、他に人がいたとは知らなかったんだ。何だ? この部屋で猫を飼い出したのか?」 


 ソファーで私の隣に座っているオリヴァーを見て男性が目を丸くしている。


 エイダが何も言わないところを見ると、この人にオリヴァーの人間の姿を見られたくはないみたいね。


「ロナルド! ノックも無しに入ってくるなと何度言ったらわかるの? それにまた魔道具が壊れた? あんたが魔力を流しすぎるから壊れるんでしょうが!」


 あらら?


 ケンブル先生がこんなに怒鳴るなんて初めて見たわ。


 こんな大声で怒鳴るような人じゃないと思っていただけに、ちょっとイメージが狂うわね。


「これでも加減してるんだぞ! そんなに言うんならもっと俺の魔力に合わせた魔道具を作ってくれよ!」


「あんたの魔力に合わせて欲しいのなら、もっと良い魔石を取って来なさいよ!」


 さっきまで静かだった研究室が喧々囂々になっているわ。


 仲裁に入った方が良いのかと思ってエイダに目をやると黙って首を振られた。


「あの二人は夫婦ですので、放っておいて大丈夫です」


 え?


 二人が夫婦?


『夫婦喧嘩は犬も食わない』って言うから、そっとしておいた方がいいのね。


 だけど私はともかくオリヴァーの前で喧嘩をして欲しくはないわ。


 いえ、口論をしながらも、二人の様子がラブシーンを見ているような雰囲気になっているんだけれど…。


 まるで私達の事など『アウト・オブ・眼中』といったところみたい。


 するとエイダが一冊の本を取り出すと、今にもキスを交わしそうな二人の顔の間にサッと掲げた。


「そろそろおやめください。アラスター王太子のお客人であるキャサリン様の御前ですよ」 


 そこで私の名前を出すなんてずるいわ。


 相手の顔が見えなくなった事で、二人はようやく我に返ったみたい。


「これは失礼いたしました。アラスター王太子のお客様でしたか。私は魔術師団の団長をしておりますロナルド・ケンブルと申します。以後、お見知りおきを」


 ケンブル先生には『俺』と言っていたのに、随分と丁寧な口調になったわね。


 ここは私もきちんと挨拶を返さなくちゃいけないわ。


「はじめまして、キャサリンと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 立ち上がってお辞儀をすると、何故かロナルドは私をじっと見据えた。


 その目が随分と険しいものに見えて、思わずたじろいでしまう。


「失礼ですが、キャサリン様は誰かに呪われておいでですか?」


 いきなりそんな事を言われて、肯定して良いのか迷ってしまう。


「え? あの…」


「あなたの後ろに黒いもやが見えます。私には人の呪いが視えるんです」


 人の呪いが視える?


 もしかしたら、この呪いを解く方法も知っているのかしら?

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