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40 敵を騙すには味方から

 その声が聞こえるなり、アラスター王太子は執務室の中へ飛び込んで行った。


「…父上!?」


 アラスター王太子の後から執務室に入った私の目に映ったのは、ソファーにゆったりと座る国王陛下の姿だった。


(やはり、国王陛下だわ。どういう事? 国王陛下は亡くなられたんじゃなかったの?) 


 アラスター王太子は呆然としたようにその場に立ち尽くしている。


「何をしておる。そんな所に立っていないでそちらに座らんか」 


 見かねた国王陛下が向かいのソファーを指さして声をかけると、アラスター王太子ははっと我に返ったようだ。


「父上、これはどういう事ですか? 毒に倒れられたんじゃなかったんですか? 先程の事は何だったのですか?」


 矢継ぎ早にまくしたてるアラスター王太子に国王陛下はげんなりとした顔を見せる。


「そんなに大声を出さなくとも聞こえておる。さっきのはちょっとしたお芝居だ。ブリジットと宰相が共謀して私を亡き者にしようとしているとサリヴァンが教えてくれたんだ。それであやつらを陥れるために一芝居打ったという訳だ」


 私とアラスター王太子が向かいに座ると国王陛下は事のあらましを説明してくれた。


 国王陛下の後ろに控えるサリヴァン侯爵に目をやると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。


 さっきアラスター王太子に聞いた通り、今の宰相を蹴落とすために、裏で色々と探っていたみたいね。


 そんな事にも気付かずにブリジットと共謀していたなんて、宰相もバカだわね。


「一芝居って…。それならそうと、せめて僕には知らせてくれても良かったんではないですか?」


 国王陛下が亡くなったと思って取り乱した姿を晒したのが恥ずかしかったのか、アラスター王太子が抗議の声を上げる。


 確かにあんな姿を見られたら恥ずかしいわよね。


「お前にちゃんと芝居が出来るかどうか分からなかったからな。それに『敵を騙すには味方から』って言うではないか」


 あら?


 この世界でもそんなことわざが通用しているのかしら?


 確かに裏事情を知っている人物は少ない方が良いものね。


 それを聞かされてもアラスター王太子の憮然とした表情は晴れない。


 そこへバタバタ、小さな足音が聞こえて扉が開いた。


「ち、父上!」


 部屋に飛び込んできたオリヴァーがソファーに座る国王陛下に抱きついた。


 その後からエイダが静かに執務室に入って来る。


「父上! ご無事だったんですね、良かった…」


 ポロポロと大粒の涙を溢すオリヴァーを国王陛下が優しく抱きとめた。


「悲しい思いをさせて済まなかったな。そんなに泣くな」


 国王陛下がオリヴァーを慰めているけれど、私はその光景を複雑な思いで見つめていた。


 私だけではなく、アラスター王太子もサリヴァン侯爵も難しい顔をしている。


 オリヴァーの父親である国王陛下は生きていたが、その国王陛下を亡き者にしようとしたのは母親であるブリジットだ。


 そのブリジットの息子であるオリヴァーにも何かしらの罰が下されるはずだ。


 だからこそオリヴァーがこの場に呼ばれたのだろう。


 しばらくして泣き止んだオリヴァーだったが、周りの空気がおかしい事に気付いたのか、顔を上げると辺りをキョロキョロと見回している。


「…あの… 何かあったのですか?」


 不安そうな顔のオリヴァーに私は何も声がかけられない。


 サリヴァン侯爵も国王陛下の後ろで成り行きを見守っているだけだ。


 横に座るアラスター王太子を見れば、固く唇を噛み締めている。


「…父上?」 


 オリヴァーが国王陛下を見上げると、おもむろに口を開いた。


「オリヴァー、そなたはもう王子ではない」


 その声は暗く部屋の中に翳りを落とした。

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